<米国市場は八百長だ>3月31日、米国で発売されたマイケル・ルイスの近著、<フラッシュ・ボーイズ>は市場の大きな話題となっています。ルイスは米国の市場は最新のコンピューターを駆使して超高速取引を行う業者によって完全に操作され、一般の投資家は膨大な損失を被っているというのです。米国のテレビはこの話題で沸騰、人気番組は<市場は騙されているのか?>とのセンセンショナルな報道を連日繰り広げています。このあおりを受けて一般の投資家や当事者である超高速取引業者の注文が激減、モメンタム株と言われるフェイスブックなどの人気株が急落、市場は一気に警戒モードに突入です。

米国市場は超高速取引業者による完全な八百長市場?

 実際、超高速取引業者は日本でもそうですが、異常な売買を繰り返しています。大量な注文を出してはひっこめ、出してはひっこめを1秒間に数千回繰り返すのです。人間の目に見えるわけもなく、投資家は市場で何が起こっているのかもわからず、この超高速取引業者は何を持って利益を出しているのかもわかりません。この裏のからくりについてマイケル・ルイスは1年に渡る取材を下に実情を暴露したのです。ルイスによれば米国市場は超高速取引業者による完全な八百長市場と化しているとのこと、超高速取引業者は一般の投資家に先んじて価格や注文に関する情報を得ることができ、それを利用して薄利ではあるが確実に儲けることができる取引を天文学的な回数繰り返し、膨大な利益を享受しているというのです。ルイスはこれは完全な八百長ゲームであり、<正気の沙汰ではない>と糾弾しています。ルイスによれば米国市場の大口投資家、デビット・アイホーンなども八百長ゲームが行われているカジノに案内されていく<間抜けな観光客>のような者というわけです。まさにこの超高速取引業者による汚い儲けの手口を知れば一般投資家はすべてカモのようなものです。

 超高速取引業者は如何にして儲けるのか、その手口を見てみましょう。ちなみに超高速取引業者の主戦場は今や、日本です。日本においては米国市場よりも露骨に白昼堂々とこの超高速取引業者によって一般投資家の利益がかすみ取られてきました。当局も野放しの状態できたこの実情については、実は4年半前に出版した拙著、<すでに世界は恐慌に突入した>で詳細を書いてきました。これは今年お亡くなりになった船井幸雄先生との共著です。今、米国のベストセラー作家のルイスによって広く知れ渡ることとなりましたが、彼の指摘するところも拙著で指摘した問題と基本的には同じです。まずはこの<すでに世界は恐慌に突入した>の<フラッシュ・オーダー>というコラムをお読みください。

フラッシュ・オーダー(コラム)

 ニューヨーク州選出の上院議員、米民主党幹部のシューマー議員は、ウォール街における、高速・高頻度取引(HFT、ハイ・フリークエンシー・トレード)の禁止を求めています。今や、株取引の世界は、限りないスピード勝負、まさに、コンピューターの高速勝負の世界になりつつあるのです。ゴールドマン・サックスや大手ヘッジファンドは、膨大な資金を投じて、この超高速コンピューターを導入し、取引に使っています。今やニューヨーク証券取引所における、この高速取引のシェアは7割に達しようかという勢いです。その中で今、問題とされているのは、フラッシュ・オーダーという取引執行形態なのです。このフュラッシュ・オーダーとは一般投資家の注文状況を、100分の3秒ほど早く見ることができるのです。一方、超高速コンピューターは0.0004秒で、注文を処理することができます。

1000分の1秒の間に何百という注文が執行できるのです。となりますと、どういうことが起こるかといいますと、一足先に100分の3秒早く一般投資家の売買動向がわかりますので、その状況を的確に判断して儲けにつなげるというわけなのです。たとえば、A社の株価は現在494円ですが、この株価の売りと買いの注文状況が 

売り   買い
2000株  497円  
10000株 496円  
  495円  
10000株 494円  
  493円 8000株
  492円 10000株

仮に、このような板状況(株の売り買いの注文状況)が出ていたとします。この場合、成り行きで10000株買ってくれ、という注文であれば、通常494円で買うことができます。場にある494円の売りものを拾う形となるからです。ところが、ここにフラッシュ・オーダーの機械がセットされていれば、100分の3秒早く、この成り行き注文を感知することができます。すると一足先回りして、この494円の売りものを買い付け、その後0.0004秒の速さ、10000分の4秒のスピードで、495円に売注文を出すことができるのです。こうすればこの取引でこの1万円を儲けることができます。一方、成り行きで買いに行った普通の投資家は494円で買えるわけだった、A社の株式が1円高い495円で買えてしまったわけです。一瞬、速く494円の売りものをフラッシュ・オーダーの取引で、拾われてしまったからです。通常、取引は激しい場合は、1円位高いところで買えてくることはよくあることで、気にもならないというわけです。この例はわかりやすい形を説明したわけですが、このように一般投資家の注文状況をいち早くキャッチできて、その動向がわかれば、確実な儲けを生み出せる機会が、市場には、山のようにあるのです。このような、個別の機会を見逃さず、瞬時に取引できるように、超高速コンピューターにセットしておくというわけです。

 昔は証券界も場立ちという人がいて、各々のポスト(銘柄別の注文を取り扱うところ)に立って、注文を仲介していました。取引所において、証券会社と取引所の間で、注文を執行する人達です。彼らも昔は、仮にある株に大材料がでると、みんなして山のようにその株を買いにくるわけです。顧客からの大量注文が一気にくるからです。その場合、たまたまその株のポストの近くにいた、場立ちさんが、その山のように押し寄せる人だかりを見て、いち早く、その株を売りものを大量に買い付けてしまい、高値で売りに出しておく、などという芸当もできたわけです。時代は違いますが、これと同じように、ある株が好決算やら、大材料やら発表していきなり大量の注文を集めるとすると、コンピューターはもっと精密ですから、このようなケースでも、一般投資家の注文状況がわかれば、瞬時に売りものを買い取り、その後計算して、上限の値段を読み切ることができます、そして瞬時に売りを出すというわけです。瞬きする一瞬の間に数千回の注文を執行できるのでは、とても人間の力では太刀打ちできるはずもありません。

 また、不正取引の防止ということで、証券監視委員会(SEC)などが常時、取引を監視しているわけです。しかしこのような高速取引は1秒間に数千回の取引ができるものですし、現在ヘッジファンドや機関投資家なども注文はコンピューターで小口に分けて執行する形になっています。アルゴリズム取引というのですが、日本でもそうですが、ほとんどが大口注文をコンピューターが自動的に小口に分けて、一日かかりで効率よく買う(細かく買う)ようにセットされているのです。このような取引になりますと、同じ10000株の注文も、100株単位で、100回に分けて執行されます。これでは、一日の取引額は天文額的な注文数量となり、この取引の公正さを人間が調べて、その不正を発見する、というのは、物理的に不可能です。こんなものを人間の目で調べたら、1秒間の取引を調べるだけで、1日以上かかってしまいます。要するに監視機関も打つ手がない、というわけです。しかし、実際問題が取引の7割までがこの超高速取引というわけですから、不正も株価操作も、やり放題というわけでしょう。こんな市場がまともな市場と言えるでしょうか? 

 米国のリサーチ会社によれば、この超高速取引で、昨年は2兆円あまり儲けられたということです。前述したように一回当たりの儲けは少ないのですが、確実に利益が得ることができ、それを一日中繰り返すことで、利益を積み上げたというわけです。証券監視委員会(SEC)も、この取引には、規制を検討しているとのことです。この人間の手を離れた取引の形態、金儲けを追及して、止めどもない資金を導入でき、24時間休むことなく、世界中で、動き続けるコンピューター・トレーディング、如何に規制しようが、最後はこのロボット・トレーディングの暴走を止めることはできないでしょう。いずれ驚くような資本市場の混乱が我々を襲うことは疑いありません。

以上<すでに世界は恐慌に突入した>船井幸雄・朝倉慶 共著より

取引所にとって超高速取引業者ほどうれしいものはない?

 かような指摘を4年半前に行ったのですが、それとは反対に超高速取引業者はますます隆盛化して市場を席巻するようになりました。米国でも欧州でも日本でも常軌を逸した売買が繰り返されたのです。特に酷かったのは東日本大震災の時でこの時も日本の悲惨な投資家の実情を拙著<2012年、日本経済は大崩壊する>の中で、先物が欧州系の当時無名の証券会社によって連日操作されてきたことを指摘しました。取引所にとって超高速取引業者ほどうれしいものはありません、日本でも彼らはシェア4割を超え毎日1兆円に上る取引を繰り返してくれるのです。市場の半分近い取引をしてくれる顧客をありがたいと思うのは当然で、この取引所と超高速取引業者との相互関係が超高速取引を野放しにした一因でもあります。4月12日の日経新聞によると、日本の投資家の話として<主力銘柄は大半が超高速取引で売買されていて、買い注文を入れると、注文板に見えていた売り注文が瞬時に取り消され、すぐに高い価格で売り注文が出てきて結果的に希望していた値段より高く買わされてしまう>とのことです。

 しかし、今回米国においてルイスの本の指摘によって、余りに行き過ぎとみられていた超高速取引についにメスが入る流れとなってきたのです。折しも世間や監督業界を驚愕させたものは、この超高速取引業者の異常な儲けぶりでした。超高速取引を手掛ける<バーチュ・ファイナンシャル>は4月初めにニューヨーク市場に株式を上場させる予定でその資料を取引所に提出したのですが、それによると<バーチュ・ファイナンシャル>は毎日、毎日取引を繰り返しながら<過去5年間で負けた日は1日しかない>というのです。これは普通の取引では明らかに不可能です。過去のどんな優れたデータを駆使してプログラムを作ったにしても市場は常に不確実性があり、過去の経験則など一斉通用しなくなることが日常茶飯事なのです。この難しい株式市場の取引の中で、過去5年間、具体的には2009年1月から2013年末まで日数にして1238日、負けは1日だけというのですから、普通の取引ではありえない数字です。明らかにここまで指摘してきたように他人の注文をいち早く見ることによって、それを利用して確実に儲けを膨らませてきたに相違ありません。まさにこれはインチキ、ペテンによる利益でインサイダー取引の最たるものです。

超高速取引業者の広範囲な調査に入った

 3月18日ニューヨーク州の司法長官は超高速取引業者の広範囲な調査に入ったと明らかにしました。米国の証券取引所やその他の取引システムが超高速取引業者に便宜を与えている疑いがあるというわけです。この日を境にしていわゆる米国の大きく動く人気株、モメンタム株の急落が始まったのです。背景は超高速取引業者の売買自粛と投資家の不信感の現れがあると思われます。そして3月末、FBIも調査に入ったということです。<すでに世界は恐慌に突入した>の中でも指摘しましたが、この超高速取引のブラックボックスの解明は簡単ではないと思われます。プログラムを作った人間と同じ程度のITの知識がないと、相場を操作しているメカニズムを証明するのは簡単ではないでしょう。プログラムを作る人間は数学や物理学の博士号を持っている相当な頭脳集団です。FBIは不正行為を法的に立証する難しさをよく理解しているようで、超高速取引業者のトレーダーや関係者の内部告発を奨励しています。これについて何人かのスタッフが既に名乗り出てきたとも伝えられています。

 この問題の帰趨を予想するのは難しいです。仮に超高速取引業者のインサイダー取引が証明されて超高速取引業者が一掃されるような事態に発展したとして、それは市場の健全性回復にとってはいいことだと思いますが、何しろ日米とも市場の4割から7割までを取引している業者たちです。彼らがポジションを手じまうとか、彼らが取引停止になるということになると、市場の一時的な大混乱も避けられません。またこの超高速取引業者の取引についてどこまでが合法で何処からが違法か線引きするのも難しい作業です。しかしこのまま野放し状態で超高速取引業者を放置しておかせることも、もう世論が許さなくなるでしょう。特に米国ではその動きがはっきりしてきたと思います。

チェスの世界も将棋の世界も人間はコンピューター、機械に太刀打ちできなくなりつつあります。相場の世界も機械だけが法の目をくぐり抜けて巧みに儲ける必勝法を作ろうとしています。人間不在で機械だけが儲けて24時間休むことなく市場で売買を繰り返す姿も異様ですが、余りに発展し続けるIT技術がその肥大化によって自ら滅んでいくような危険性も感じます。既に日本の市場のほとんどはこの超高速取引や機関投資家のアルゴリズム取引と言って人間が介在しなくなってきました。世界中に大量にまき散らかされたマネーと共にいつの日か機械は暴走を始めるでしょう。最近の日本の市場のボラティリティー(変動率)は異様に大きくなってきましたが、このままいけばやがて瞬時の暴騰や暴落が当たり前になるのかもしれません。