世界中のあらゆる資産が買われています。昨年まではグレートローテーションといって債券から株、並びに米国経済の復活による米国金利高を手掛かりに新興市場から米国へと資金は流れていました。結果的に昨年は世界的に株高、ドル高は起こったものの、対照的に債券安、新興国からの資金逃避、商品相場安などが起こっていました。

 昨年株式市場は世界中で概ね順調に上昇したものの、米国債は1.5%から3%へ(価格急落)、そしてBRICS諸国をはじめ新興国の株は売られ、通貨も売られました。特に経常赤字が続き経済の体質がもろいと思われたフラジャイル5と呼ばれた5ヶ国、ブラジル、インド、トルコ、インドネシア、南アフリカからの資本逃避は急激に進んだのです。また金相場は13年ぶりに下落、石油や銅など商品相場も低迷しました。資産ベースでみるとまさに順調だったのは世界を見渡して株式市場だけで投資という観点からすると、株式市場の一人勝ちの様相を呈していたのです。

今や、世界中、値段が下がっている資産が見つからない?

 それが今年になって、情勢がにわかに変わってきました、相変わらず株式市場は堅調で世界中で買われ続けているのですが、一方で昨年売られた債券が今度は一転して買われ始めてきたのです。また新興国の通貨や株式市場にも資金が戻りはじめ、フラジャイル5の5ヶ国も含めて新興国全般に相場が活況を呈してきたのです。また商品市場も昨年のように売られる一方の展開ではありません。年初からのウクライナでの混乱や新たに紛争の拡大が見え始めたイラク情勢の不透明感などを通して商品市場全般も動意づいてきたのです。

 こうしてみると、今や、世界中、値段が下がっている資産が見つからないのです。普通であれば、あるものは買われても、違うものは売られるという風に世界の資産を見渡せばそれなりに買われるもの、売られるものでバランスが取れているものですが、今年の場合は不思議な事にあらゆる資産ベースが買われ続けているのです。他の資産、例えば株が売られて国債が買われる、とういうような動きでなく、市場は何でもかんでも買いあさるという姿勢なのです。

 まさに世界中で有り余っている資金がうなりをあげているようです。いわば世界中でお金が湧き水のように溢れ出していて、その資金の行き先を求めて、あらゆるものを購入していくという勢いを感じます。

世界中でお金が有り余っている?

 もちろん、米国経済を中心にして、世界経済全般が程よい成長を続けている感じで、しかも低金利が続いているわけで、このような理想的で安定した状態ならば何処の国のどんな資産も買いやすいということもあるでしょう。しかしそれにしてもあらゆる資産ベースが買われるということは何かおかしく、合理性を欠いているとも思えます。

 とにかく世界中でお金が有り余っているわけです。しかもそのお金を何とか運用しなければなりません。安全で確実で少しでも高い運用利回りを求めて日夜、お金が世界中の何処に投資機会があるのか探し求めているわけです。そのお金が湧き水のように日米欧と限りなく湧き上がってくるものですから、結果としてどの資産にもお金が向かい、どの資産も買われてきているというのが今の実情でしょう。

 自分がお金を大量に持っていて、更に止めどもなくお金が追加的にどんどん入ってくると想像してみたらどうでしょう? そんなハッピーなことはない、と考えづらいかもしれませんが、実際は今の世界で起こっていることはそんなものです。日米欧とも徹底したマネー供給を続けています。米国は量的緩和の終了に向かうと言っても、先日FRBのイエレン議長は低金利がまだ当分続くことを示唆しました。日本では実質ゼロ金利が続いていますし、量的質的緩和もいつ終了になるのかわかりません、要は日本でも今後も限りないマネー供給が当分続くのは誰がみても確実なわけです。更にここにきて勢いづいてきたのがユーロ圏です。前回のレポートでも紹介しましたが、ECBは緩和政策を強めるのは必至の情勢で、しばらく金融の引き締めはあり得ないということは明らかです。こうなると今でも日米欧をはじめとして世界中がお金に溢れているのに一向に蛇口は閉まらず、更なる資金が溢れてくるわけで、これでは何処に資金を投入しようが、よほど問題でもない限り、資産ベースはどんなものでも買うべきという結論になってしまいます。

 投資家とすれば、株を買いました、次は国債、次は新興国、次は商品、という具合に資金が続くのですからなんかしら買わないわけにはいきません。一定の水準にまできてその相場が過熱気味と思えば他の資産ベースを購入していく、それが余りに世界中の投資家がお金があり過ぎているのでどの資産ベースも下がらないというところでしょうか。

国債をはじめ、債券は異常な高値、そして商品相場も買われ過ぎ

 <相場は相場に聞け>と言われるくらいですから、相場についてはそのついている値段自体は何かしら合理性があるものです。一概にその水準に対して高い、安い、と画一的な判断するのは行き過ぎた見方になることもあります。それでも私は現在の相場環境を見る限り、株は高いとは思いませんが、国債をはじめ、債券は異常な高値、そして商品相場も買われ過ぎと思っています。

 実際、世界中の国債の価格(金利水準)、債券価格は異常の極みです。日本国債の0.56%という水準が異常な高値であることは毎回のように指摘してきました。しかし国債の買われ方は日本だけでなく世界中で異常値です。欧州債の10年物を例にとると、まだ経済再建中のギリシア国債が5%台の水準にまで買われていますし、昨年に問題を起こしたキプロスももう国債発行が再開されました。18日に起債したら応募が殺到して落札の倍率は2.5倍にまで人気化したのです。ポルトガル国債も3年ぶりに発行再開です

更に最近の話題はスペイン国債が人気化しついに米国債より低い金利の2.5%台になったということです。イタリア国債も似たような水準で人気化中です。更にアイルランド国債も2.3%台、オランダ国債も1.4%台、ベルギー国債も1.6%台です。これらの諸国はすべて各々の国債価格の史上最高値(最低金利)となっているのです。またドイツ国債も1.24%となり史上最低金利の1.127%に限りなく近づいています。更にドイツ国債の3ヶ月物は既にマイナス金利となっているのです。ユーロ圏は失業率も11.7%ですし、域内の格差もあり過ぎて盤石な体制ではありません、にもかかわらず域内の国債は例外なく異常値まで買い上がられています。これこそ行き場を失ったマネーの狂乱です。

 それだけではありません、アフリカの国債も人気です。ザンビア、ガーナ、ケニアなどユーロ建てで国債の入札をするとあっと言う間にさばけてしまうのです。とにかく市場は国債のデフォルト懸念リスクなんてほとんど意識していません。投資家は少しでも利回りが良ければ買いに殺到するのです。

新興国の株式市場は買われ過ぎ

 また株に目を向けると、フラジャイル5の株式市場をはじめ、昨年と違って新興国の株式市場は一転して買われ過ぎている様相です。インドの株式市場がモディ新政権の誕生を話題に買われるのはわかる気もしますが、インドネシア、ブラジル、トルコなどは決して経済がいい状態ではありません。ましてや資源国は中国の経済減速懸念があり、これだけ大きく戻すのは買われ過ぎと感じます。もっとも驚くのはアルゼンチンの株式市場の上昇ぶりです。アルゼンチンはここにきて米国ファンドとの債務返済交渉が暗礁に乗り上げ、デフォルト必至の情勢と言われています、そんなアルゼンチンの株価も高値圏で推移、直近は多少下げたものの年初から見れば5割も上昇しているのです。デフォルト懸念など利回り追求に走る投資家にとってどこ吹く風です。

 米国は順調に経済が拡大基調にあり、当然金利上昇が起きて、必然的に米国債金利も上昇するかに思われていました。ところがここにきて米国債の金利は昨年末の3%から低下、2.5%台にまで下がっています。これも一つには世界的な金余りの資金が押し寄せてきたと思っていいでしょう。いくらなんでも失業率25%を超えているスペイン国債よりも米国債の金利が高いとはバランスがとれません。また米国債自体の発行量がここにきての米国の財政健全化によって減ってきた、という事実も見逃せません。米国債の今年5月までの発行量をみると、1680億ドルですが(これは発行額から償還額を引いた純発行額)、この数字は前年比5割減なのです。発行量が半分に減っては需要が従来よりもタイト化するのは当然です。結果的に米国債の価格が上昇(金利低下)している一因と言えるでしょう。

 また債券投資という面ではハイ・イールド債、いわゆる多少危険性があるが利回りがいい社債が異様な人気です、そのためにリスクに見合った金利とならず金利が下がる一方です。それでも投資家の選考は変わりません。日本でも海外のハイ・イールド債を集めた投資信託<USハイ・イールド>に個人投資家の資金が殺到、ついに投信の資産額トップの座を<グローバル・ソブリン・ファンド>から奪いました。

債券バブルを感じさせる例はこのようにどこでもありますが、東電の社債もバブルの最たるものでしょう。福島の事故当初は倒産が懸念され、東電債の発行は停止に追い込まれていました。その後2011年末に発行された東電債は国債の利回りより金利を7%も上乗せしていたのです。ところが今では上乗せ金利はわずか1.6%です、著しい信用度の回復です。これでは投資家は東電の将来の経営危機など全く眼中にないということでしょう。

 また金相場なども折に触れて動きます。6月も1トロイオンス1244ドルから1320ドルまで急騰しました。イラク情勢の緊迫化を受けて国際商品市場が上昇したことが一因ですが、実際金相場は昨年から人気が離散して大きな上昇波動には入らない、という見方が一般的です。それにもかかわらず何かがあるとかように相場が大きく反応するのも、基本的にマネーが常に獲物を求めて、世界中の情勢をみながら常に闊歩しているからと思います。そして何か事があると一気にマネーが集中的に入ってくるのです。

 かようにあらゆる資産ベースが投資対象となり状況に応じて即座に買われ、それも必要以上に買われるわけです。

株は歴史的に見て高い水準とは思わない?

 <中央銀行には逆らうな>投資の鉄則として言われている格言ですが、まさに日米欧の中銀が限りなく資金供給を続けるわけで、この流れでは当分あらゆる資産が買われるのかもしれません。しかしこれが続けばどうなるでしょう? 当然すべての資産ベースが買われるという均衡が崩れるときが来るはずです。

その均衡がどのように崩れるかというと、私は日米欧の限りない株高の持続が均衡を崩すことになると思うのです。というのもこれだけマネーが供給され何でも上がるのであれば、投資で皆儲かるようになっていきます。それは購買力を高め、ますます景気を活性化させるでしょう。日本ほど酷くないにしても各国の借金漬けは常軌を逸していますし、完全に国債という借金で問題解決を図ることに慣れきっています。

FRBのイエレン議長は<株は歴史的に見て高い水準とは思わない>と述べましたし、日本では政府も日銀も株を上げるために必死の奔走が続いています。ユーロ圏に目を向ければ、政策金利をゼロ近くまで下げ、中銀の預け入れ金利にはマイナス金利まで適用したのです。ECBのドラギ総裁はそれでも<これで終わりではない>と釘をさすほどです。それほど緩和を続け、マネー供給を拡大させる予定なのです。これでは株が下がるはずがありません。余った資金が一時的に国債をはじめとする債券を異常な水準まで買い上がっているのですが、やがて更なる好況に入りますます経済が活性化してくるでしょう。

 そうなった時に市場はどうなるでしょうか? 株は上昇しているとはいえ、代表的な株価を図る指標である、PER、PBR、配当利回りどれを取っても歴史的に高い水準とはいえません。まさにイエレンFRB議長の指摘通りです。日本など東証1部市場ではPBRの1倍割れの株が半分以上であって高いどころか完全な割安です。それに対して先ほどから例を出したように、債券はどれもこれも歴史的な高値です。国債しかり、社債も同じように高いのです。私はこの株高、債券高(金利安)の均衡は更なる株高が生じることで、均衡が崩れることになると思っています。それこそ、株式市場の更なる止まらない高騰、それに伴って起こる当然の金利高、債券安、いわゆるインフレの出現です。マネーを限りなく印刷してきたのですから結局はインフレでこの物語は終わりになるはずです。株高、債券高、あらゆる資産ベースが上昇するという矛盾する流れが最後は止まらないインフレという出現という株の更なる上昇、債券の暴落(金利上昇)でいつものように幕を閉じるはずです。

 それは各々の相場が妥当な水準に回帰するということでもあります。限りないマネーの供給によって企業は景気回復を堪能し、その結果としてキャッシュが山のように膨らんできています。日本の企業もかつてないほど内部留保がたまり現金を保有しているのです。その日本の企業が解散価値の1倍割れのPBRが正当化できるでしょうか。日本企業は半数以上が実質無借金で財務体質は万全です。バブル期あれだけ高かった日本企業は借金漬けでした。配当が3%以上もある優良株が山のようにあるのに、雀の涙のような低い預金金利に偏っている日本の金融資産の構成は明らかに異常です。歴史的にみても日本株は明らかに安すぎます。

一方でインフレ気味になって現在も物価上昇率が3.4%なのに、10年物国債の金利が0.5%台などという異常な低金利(価格高)があっていいのでしょうか。これこそ高すぎる、日本国債は妥当値段になるということは完全なる暴落を意味します。

 まさにグレートローテーションなのです。債券から株への世界的な歴史的な動きなのです。そして量的緩和をどの国よりも激しく行ってきたこの日本こそ、このグレートローテーションがどの国よりも極端に大きな流れとなっていくことでしょう。歴史的なとんでもないバブルとは現在の日本国債の相場だということを認識する必要があります。そしてそのバブルがはじけるときが止まらないインフレの到来となるのです。