<これがバブルと呼ばれるのなら、そうでない資産とは何なのか?>中国共産党の機関紙である人民日報は中国の株式市場の異常な高騰ぶりを正当化しています。当局の株価引き上げの意志を感じ取った中国の投資家は<それ行け>と株式購入に雪崩にように殺到です。既に昨年初めの2000ポイントから1年半で2.3倍近く化けた中国の上海市場ですが、投資家は全く恐れを知りません。まだまだ株は相当上昇していくと強気一辺倒です。

上海総合指数は年内に4000ポイントを突破する?

 それにしても人民日報の報道には驚かされます。日本であればマスコミは株価の上昇に対して冷やかに解説したり、バブル化に対しての懸念を警告したりするのが一般的です。ところが一番影響力があると思われる共産党の意志を表明していると思われる人民日報が株価を煽るがごとき意見表明を立て続けに発信し続けているのです。

 人民日報は3月には<上海総合指数は年内に4000ポイントを突破する>という記事を掲載し、その後急騰を続ける上海市場を横目に4月には株価の上昇をダメ押しするように<上昇する株価はバブルではない。これは中国の潜在成長力を背景にしたもので、強気相場は始まったばかりだ>と論評するのですからたまりません。長い株価の低迷の後、相場が立ち上がってきたときにこのようなコメントをするならともかく、上海市場はこの1年で倍化、世界中のどんな国よりも上昇率が抜きんでて大きいのです。その上昇が明らかに過熱気味である、と思われるこの時点で超強気見解が出されているのです。

 実際、日本や欧米など中国国外から見れば、今回の上海市場の急騰は余りに急激で経済の実体を無視したものであり、バブルとしか思えない、というのは当然の考えです。中国の経済減速は明らかです。今年1-3月の成長率は7%となって6年ぶりの低水準、昨年1年間の成長率も7.4%成長となり通年でみて24年ぶりの低成長になってしまったのです。その後今年になって更に成長率が落ちているのですから中国経済は変調でただ事でない、と感じるのは当然でしょう。

しかも懸念されている不動産バブルの崩壊は必至の情勢であり、それを映すように不動産販売の状況をみてみると1-3月期の不動産販売高は前年同期比で9.3%の減少となっているのです。減少幅は拡大中です。また直近でみると経済の活動度合いを示す3月の電力消費量は前年同月比で2.2%の減少です。明らかに中国の経済は変調で、これでは当局が目標としている7%成長すら達成できるかどうかわからないと思うのが普通です。現にIMFは中国の今年の成長率を6.8%、来年の成長率を6.3%と予想しています。客観的にみて中国経済が急激な落ち込みに入りつつあることは明確なのです。

 ところがそれに反発するかのような、ないしはあざ笑うかのような株価の急騰が起こってきたのですからたまりません。日米欧など海外から見ればバブルと思うのは当然ですが反面、中国国内の熱気は何故これほどとなるのか理解する必要もあるでしょう。

東証の売買代金はわずか2兆円程度、中国では?

 日本では日経平均が15年ぶりに2万円に乗せてきましたが、全く相場は熱気がなく盛り上がってきません。その証拠に売買金額が一向に拡大してこないわけです。休み前ということもあるかもしれませんが4月24日の東証の売買代金はわずか2兆円程度です。ところが中国上海市場の売買代金は何と1兆元(約19兆円)を超えてきたのです。現在中国上海市場と東証では時価総額は共に580兆円程度で似たような水準です。それでいて中国上海市場は売買代金が日本の10倍近いというのですから市場関係者としては驚愕するしかありません。1昨年アベノミクス開始直後、日本株も人気となって売買も盛り上がり連日売買代金が4兆円を超える活況状態となって証券会社も大入り袋が出されたりしていました。しかし中国上海市場の売買代金をみるとけた違いなので言葉を失ってしまいます。ほぼ同じ時価総額という現状を考えれば、中国の上海市場はどう考えてもバブルとしか思えない、というのは日本の市場関係者であれば当たり前の判断です。他の指標でもバブル傾向は露見されます。信用取引の残高ですが、これは個人投資家がどのくらい借金をして株を購入しているかみて相場の過熱具合を図るわけです。この信用取引の買い残高は日本では3兆円弱ですが、中国の信用取引の買い残高は1兆7000億元(約33兆円)とこれも日本の11倍となっているのですから個人投資家の投資意欲の過熱ぶりは明らかでその投資熱はあきれるしかありません。

 このように様々な指標から考えて日本や欧米の常識的な判断からするともう上海市場は完全なるバブルであり、ピークが近いと思うのは当然なのですが、反面そのような当たり前の見方も中国という特異性を考えると実は危険なのかもしれません。共産党の機関紙である人民日報があれだけ株を煽り、それに伴って上昇してきている中国国内の背景や当局の真の意志もしっかり分析しておく必要があるでしょう。

 人民日報がこれだけ株高誘導の論評を繰り返し発しているということは中国当局が株高を志向していることは疑いないでしょう。このような急激で異常な株高を演出すれば、その反動なり危険性もあると思いますが、何故中国当局は無謀な株高を演出しようとするのでしょうか? ここをまず理解しておかなければなりません。

 3月下旬、ボアオ・アジアフォーラムで習近平国家主席は<経済成長のみを重視すべきでない。7%成長は依然素晴らしい数字だ>として中国の高成長から中低成長へのいわゆる新常態(ニューノーマル)への転換を宣言しています。どんな経済でも高度成長から成長が減速する過程では混乱を免れることはできません。資本主義経済では経済成長の過渡期においては日本も米国もあらゆる国で激しいバブルの崩壊など経済の一時的なクラッシュを経験しています。いわばそのような変動は市場経済の宿命でもあるわけです。中国も高成長から中低成長への過渡期である現在、国内に山のような問題が山積していることは重々承知しているはずです。それは今まで蓄積されてきた過剰な設備や過剰な債務という解決困難な課題です。同じボアオ・アジアフォーラムで中国人民銀行の周小川総裁は<中国はデフレの兆候を警戒する必要がある。政策当局者は世界経済の成長鈍化とコモディティー価格の下落を注視している>と述べて中国の経済減速を認め、最近のデフレ傾向に警戒感を示していました。

中国経済の問題は、不動産価格の下落によって山のような不良債権化

 中国経済の問題の所在は明らかでリーマンショック後、大盤振る舞いで行った借金による公共投資のつけ、いわゆる債務が地方政府中心に膨大に蓄積され、それが不動産価格の下落によって山のような不良債権化していること、また必要以上の設備を構築してしまったために余剰の生産能力が溢れていることです。これらの問題を従来の公共投資の連発という経済政策を行わないで徐々に解消、いわゆるソフトランディングしていかなければなりません。従来通り公共投資に頼っては更に不良債権や余剰設備を生み出すだけだからです。これらの問題の矛盾が吹き出ることによって需要が落ち、不動産価格が下がり、理財商品に代表される金融商品の不良化が起こってきつつあるわけです。

 中国は今、これら解決が極めて難しい問題を何とか解きほぐそうと試みているようです。まずは膨大に膨れ上がった地方債務の問題ですが、この問題については何度もレポートで書いてきました。中国の地方政府はいわゆる融資平台というプラットフォームを作ってそれを通じて巨額の不動産投資を行い続け、地方政府はその融資平台に巨額の債務保証をしている形なので、今では不良債権化した融資平台を如何に処理するかという問題が目前に迫って資金が逼迫しているわけです。

この窮状に対して中央政府は地方に債券発行を認めることで問題解決を図ろうとし始めています。ところがそんな地方の不良債権付きの地方債など買い手がいないかもしれません。そうであれば、その地方債をまず発行して買い手がいれば良し、おそらく買い手がいなければ人民銀行が買い手となるという方針のようです。地方債を中央銀行が購入ということであれば、日米欧が行っている国債購入と基本的には大きく変わらないでいわゆる量的緩和のような政策とも言えるわけです。中国政府が量的緩和政策を行い国債を購入するのでなく代りに地方債を購入するというわけです。日米欧の場合、一応政府が健全でその国の国債を量的緩和政策で購入するわけですが、中国は返済がほぼ不可能と思われる不良債権にまみれた地方債を購入するという構図です。しかもその地方債を担保に資金の借り入れも認める、ないしは地方政府の返済負担を軽減するために、債務を低金利の新しい債券と交換するといった手法です。こうして大きな問題となっている地方債務の返済期限を巧みに 延長させ実質当分の間、債務を棚上げしようという算段と思えます。

 19日、中国人民銀行はいきなり預金準備率を1%引き下げると発表しました。これによって銀行は人民銀行に置いておく資金を少なくすることができます、およそ24兆円近い資金が浮いてきますが、これらの資金を地方政府救済に当てていこうということでしょう。

 一方で中国政府は今まで封印してきた社債や理財商品の一部デフォルトを許容して、如何にも市場経済のルールに準ずるかのような政策も行い始めています。この結果国営企業の数社がデフォルトとなっていますが、株式市場の高騰のおかげで大きな問題にはなっていません。

中国は日本のバブル崩壊の推移を詳細に研究しています。かつて1980年代後半金融の世界で世界一となった日本がバブル崩壊によって失われた20年と言われる酷い経済の停滞に見舞われました。これは明らかに経済政策の失策でバブルを無理やりに崩壊させてしまったからです。中国も現在日本の1980年代後半のようなバブル崩壊の危機に瀕しているわけですが、ここで重要なことは不動産バブルが崩壊した場合、今度はそれをただ放置するのでなく、ショックをやわらげる代替措置を講ずるということです。具体的には他のバブルを構築することによって不動産バブル崩壊の影響度を最小限に押さえ経済のソフトランディングを目指すという試みでしょう。そのため避けようもない不動産価格下落を許容しながら、一方で株式市場の異様な上昇が意図されたものと思います。要するに不動産と株式という両方の同時の市場崩壊は絶対起こさない、不動産がダメなら今度は株式市場に大きなバブルを発生させ、その威力で不動産バブル崩壊の影響を低減させ、結果的に経済を安定化させるという腹づもりと思われます。

 人民銀行の周小川総裁は<株式市場への資金流入が実体経済も支えている>と述べていますが、この発言は本音であって、まさに一連の人民日報の報道や人民銀行の動きをみると中国政府の新しい政策が株高の演出にあると思われます。まさに民を巻き込む官制の相場の始まりです。

 こう考えると日本も中国もないしは世界各国が株高による経済回復を目指していることがわかります。ここで面白いのは中国人はお上を絶対視していますので、当局が株高を志向していると感じると人々は素直に株購入にまい進していくというわけです。それが昨今の中国上海市場の短期に異様な株高を作り出す原動力となっているように思えます。一方、日本も同じく政府は株高を志向しているわけですが、日本人は政府を信用せず、将来的な株高も確信できていません。ですから株式市場は値段だけが上がっていますが、個人投資家は相変わらず売り越し基調で日銀や年金基金だけが一生懸命株式購入に走っているというわけです。政府の株高政策を信じ無謀に投資に走る中国人、政府を信じないで慎重な日本人、売買金額が中国は日本の10倍にもなっているわけですが、株式市場の動きに国民性と国民の意識の差が現れているように思えます。