フォーブスがまとめる世界長者番付で4年ぶりに首位が交代、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が首位に踊りでてきたのです。今年米ナスダック市場ではビッグ5と呼ばれるアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックの5銘柄の他を寄せ付けない圧倒的な上昇ぶりが目立っていたのですが、その中でもアマゾンの上昇ぶりは際立ってきて、その上昇効果によってついに長者番付の首位交代が起こりました。この世界の長者番付はある意味、時代を映している部分も多々あります。かつて日本がバブルに沸いていた1987年当時、日本の西武グループのオーナーであった堤義明氏が世界一のお金持ち、まさに世界の長者番付の首位だったのです。その後1991年首位は交代したものの、やはり日本人でした、森トラストホールディングスの創業者であった森秦吉郎氏です。その後1995年にマイクロソフトのビル・ゲイツ氏、そして2008年にはウォーレン・バフェット氏、そして再びビル・ゲイツ氏と首位は入れ替わったものの、この30年間にわずか5人の富豪で世界一は占められていたのです。そして今回世界一の座に就いたのはベゾス氏でした。

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今回ベゾス氏が首位になったことはこれからの時代の流れを象徴

 かつて日本人が首位だったとは今となっては隔世の感がしますが、時代の変遷は激しいものです。今回ベゾス氏が首位になったことはこれからの時代の流れを象徴しているように思えます。また同じくビッグ5と呼ばれるITの巨人5銘柄ばかりが上昇する現在の米ナスダック市場も将来の世界の姿を予感させているようです。

 7月27日に発表されたアマゾンの4-6月期決算では純利益が1億9700万ドル(約219億円)と前年同期比77%減という惨憺たる数字です。ところが売り上げは25%増えています。この売り上げが毎期継続的に増え続ける姿がアマゾンの強みである、またビッグ5全体に共通する強みでもあります。

 アマゾンは短期的な利益など全く眼中にないようです。過去20年間のアマゾンの累積利益はわずか57億ドル(約6338億円)に過ぎません。1年平均約317億円程度でトヨタが1年で2兆円近い利益を出してきたことと比べれば雲泥の差です。まさにアマゾンは溢れ出るようなキャッシュを次から次へと新たな挑戦に向けて投資し続けてきたわけです。ベゾス氏は<大組織の中に如何にデーワン(一日目)の活力を保つか>ということを常に念頭に入れているようで企業として挑戦の気持ちを忘れないことをモットーとしているようです。そして常に新しいものに投資し続け<大胆な賭けをするなら実験的なことに賭けるべきだ>として例え失敗しても<実験である以上、うまくいくかどうかなんて先にわかるはずがない>と割り切っているわけです。ベゾス氏は企業として新しい分野に挑戦を続けることについて<実験というものは失敗することが多いものだ、でも一握りの実験が成功すれば何百もの失敗の穴埋めをしてくれる>と考えているようで、現実にここまで結果も出してきました。

 アマゾンは1997年の上場時のわずか2ドルの株価から現在では1000ドル超えとなりました。まさに留まることのない急成長で上場から20年、株価は500倍になったわけですが、この規模になっても依然20%を超える売り上げの伸びを続けているところはまさにお化け企業と言えるでしょう。アマゾンの日本の子会社アマゾン・ジャパンも年20%超の売り上げ拡大を続けているのです。社員の待遇も破格で部長職ですと年収1800万から2600万円に達しているということです。

 アマゾンの伸長ぶりはまさに現在の破壊的なIT革命の衝撃そのものと言えるでしょう。小売り、物品販売、流通、AIの活用、アマゾンは時代の寵児となって全てを破壊し、全てを変え、そして今も尚走り続けています。

 アマゾンと言えばいきなり現れたインターネットを利用した本屋というイメージで町の本屋を潰し、本の流通を劇的に変えてしまったわけですが、これは単なる序章に過ぎませんでした。今では小売業、全てを飲み込んでいくように思われます。ネット辞書によると<アマゾンする>という言葉が<圧倒する、絶滅させる>という意味になっています。

昔ながらの地方の商店が絶滅状態になっていったなれの果て

 日本では地方を回ると何処の地方都市でもシャッター街が広がっています。これは人口減少とスーパーなどの大手小売り並びにセブンイレブンなどのコンビニの爆発的な拡大によって昔ながらの地方の商店が絶滅状態になっていったなれの果てでした。

 一方で米国ではショッピングモールがインターネット通販に押されて集客力を失い<デッドモール>と呼ばれるようになっています。昨年からアマゾンの株価が大きく上昇するのと対照的に大手百貨店のメイシーズは昨年100店以上店を閉鎖していったのです。そして同じくJCペニーは今後100店以上閉鎖することを発表しました。金融市場で密かに人気があるのがこのショッピングモール向けの債券を束ねた商業用不動産担保証券(CMBS)の空売りです、なにやらアマゾンが主導する小売業の破壊劇は強烈で、投資家はリーマンショック前のような倒産目当ての投資も拡大させているようです。

 また現在、景気が拡大しているわりには思ったほど賃金が上昇しないという傾向が世界的に起こっているわけですが、これもアマゾンのようなIT企業が爆発的に拡大発展する影で小売業がかように不振になってきたことも関係しています。というのも何処の国でもそうですが、小売業は多くの人を雇用するわけです、一方でIT企業はそれほど多くの人を雇用しません。人を多く雇用する小売業が破壊されて、人を余り取らないIT産業が優勢では全体としての賃金はなかなか思うようには上がれません。そもそもトランプ氏が当選したのはこういった米国全体の労働者の不満が投票結果に現れた結果でもあるわけです。

 また現在、社会を揺るがす根本的な問題とされているのはビッグ5によっていわゆるデータが独占されつつあるという現状です。このデータの独占を利用してビッグ5がますます優位になって自社に有利な状況を作り出しているというわけです。我々も朝起きればアップルのスマホを開いて情報をみて、グーグルで検索、そしてフェイスブックを使って友人などの状況を知るというのは一般的になっているように思えます。このプロセスにおいては個人の動向はこれらスマホやアプリの使い方において丸裸にされているようなものです。またお金を使ってもクレジットや電子決済すればその使った先もわかりますし、アマゾンで本を注文する、暇なときに音楽に興じれば、その人はどのような本が好みでどのような音楽が好きで、そしてどのようなところで食事をしてどのようなお金も使い方をするのはつぶさにすべてがわかってしまうでしょう。これらの個人情報を基にしてビッグ5はマーケティングしてくるわけですから、我々は知らず知らずのうちにこの巧妙なシステムに取り込まれているわけです。

 しかもこのデータの取り方は巧みさを増してきて、我々が気づかないようなところまで詮索されているのです。例えばファイスブックなどでは、交際相手同士が本格的に交際を始めるまでのパターンや、交際が始まってきたときからのパターンなどもつぶさにわかるというのです。現在では人と付き合いを始めるケースでもまずはフェイスブックを通じて交流するというケースも極めて多いことでしょう。そして知り合った二人が関係を深めていく過程においては必ずフェイスブック上の交流回数が大きく伸びていくというわけです。お互いの近況情報に<いいね>をクリック、コメントを常時送るなど、二人が関心を持ち合って付き合いたいと思うようになれば当然頻繁にフェイスブック上の交流の流れが生まれてきます。そしてめでたく二人が恋人のような関係になってからは、公に他の人にみられてしまうようなフェイスブックでの交流は極端に減っていくということです。これは二人のもっとプライベートなメッセージのやり取りがフェイスブックの外で始まるからでしょう。要するにフェイスブックにおいては二人の出会いから付き合いの進展、更なる発展へという関係が隠そうにも明らかになっており、実質二人の付き合いの進展状況はフェイスブックの履歴によって丸裸になっているわけです。

 また同じく金銭取引などの信用状況もファイスブックを通じて知らぬ間に審査されるというのです。友達に金銭問題でトラブルを起こすような友達が多い場合は、その人自身も友達関係から見る確率から判断されて借入金の返済能力低く診断される可能性があるというのです。このようなデータによる診断は万能ではないと思いますが、実質行われている、ないしは行われてくる可能性が高いというのが今現在、そして今後の実情のようです。恐ろしいと言えば恐ろしいのですが、これがビッグデータ分析というAI時代の現実でしょう。

データを膨大に保有しているグーグルやフェイスブック、アマゾンなどがどうしても圧倒的に有利

 ビッグデータは多くの実例を集めることによってAIが学習して判断していきます。この場合、データ数が圧倒的に多いことが決め手です。膨大なデータをまさにAIが自ら学習して精度を高める深層学習(ディープラーニング)を行うわけです。ですからデータを膨大に保有しているグーグルやフェイスブック、アマゾンなどがどうしても圧倒的に有利なわけで、とてもデータ自体を豊富に持たない日本勢など太刀打ちしようもありません。

 20世紀の最も貴重な資源は石油であって、20世紀においては世界はある意味、石油を巡っての覇権、戦争を繰り返してきました。しかし21世紀の最も貴重な資源は<データ>です。データをAIによって分析させて大きな価値を生み出すわけです。そして発展途上のAI研究においては膨大な<データ>を握るビッグ5が圧倒的に有利であり、今後もAIなどの先端技術の人材も資金も皆ビッグ5に集中していく形となっていくわけです。このような未来を予見して現在、米ナスダック市場でビッグ5ばかり上昇しているわけですが、この動きは理に合っているというわけです。

 そして日経ヴェリタスによると、中国でも同じことが起こっているというのです。まさに中国でもIT企業による市場の寡占化が始まってきたわけです。米国企業はビッグ5ですが、中国の場合は<チャイナ7>で、ネット通販ではアリババ集団とJDドットコム、交流サイトではテンセント、ネット検索はバイドゥ、旅行予約はシートリップ、オンラインゲームはネットイース、ミニブログは新狼というわけです。この7社の時価総額の合計は1兆ドル(約110兆円)の大台目前で、時価総額3兆ドルのビッグ5には及ばないものの、今年の株価の上昇率はビッグ5を凌ぎ、今年初めから6割も上昇しているのです、中国のITの巨人<チャイナ7>はビッグ5の倍の勢いで伸びているということでしょうか。既にアリババ集団とテンセントは世界の株の時価総額のベスト10に入ってきていますが、今後中国のIT企業も侮ることはできないでしょう。国家戦略としてグーグルやフェイスブックなどの米国のIT企業を巧みに国内から締め出して自ら国産のIT企業を作り育てていく中国の戦略も見事です。

 データの世界においては先行した者に大きな優位性があるということで、今後ビッグ5やチャイナ7は他の追随を許さないでしょう。格差は広がっていく一方のようです。EUは6月27日、日本の独占禁止法に相当するEU競争法に違反したとしてグーグルに24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金を課しました。グーグルはEU域内の検索サイトで90%以上のシェアを持ち、広大なデジタル広告プラットフォームを有して支配的な立場にあるわけですが、かようなグーグルの圧倒的な強さを危惧してEUとしては危機感を持ってグーグルに厳しく対応したわけです。日本でも6月6日公正取引委員会がビッグデータを囲い込んだり、消費者や取引先から不当にデータを収集したりした場合は、独占禁止法を適用する考えを公表しました。報告書で<大量のデータが一部の業者に集中しつつある。消費者の利益が損なわれる場合は対応が必要>としています。

 かように強力なIT企業を持たないEUや日本は焦りを強めています。しかしながら米国政府をバックにしたビッグ5に対して現実的にも実質的にも今後どのような対応ができるのか疑問です。ビッグ5はますます巨大になり寡占化が進んでいます。今年になってこのビッグ5の株価が大きく上昇しているのも市場が将来に渡ってビッグ5が更に利益を積み上げていくに違いないと感じているからです。そもそもデジタルエコノミーはプラットフォームに大きな価値があるわけですが、ビッグ5のプラットフォームは強烈で日々拡大して他を寄せ付けません。寡占は進む一方で収益はビッグ5に偏っていく一方です。アマゾンもグーグルもファイスブックも1990年代前半は存在すらしていなかった企業です、当時世界一の金持ちは日本でした。それらが今やこれらの企業はあっという間に世界を席巻しているのです。このITのビッグ5による破壊による革命的な変化は今後起こることの序章に過ぎないでしょう。今後全てがインターネットに繋がっていくという流れの中で安泰な業種はないように思えます。今後ITの更なる発展やAIの進化によってあらゆる業種に怒涛の変化が押し寄せることでしょう。自動運転の実用化が迫る自動車産業だけでなく、フィンテックの波が押し寄せる金融業界、そして小売り、飲食、運輸、観光、建設、医療、介護、農業、とあらゆる産業で、産業構造や競争要件が変化していきそうです。決して大きな利益を出してこなかったアマゾンのベゾス氏が世界ナンバー1の富豪に上り詰めたのは偶然ではありません。ネット辞書によると<アマゾンする>という言葉は<圧倒する、絶滅させる>という意味だそうですが、まさに今後安泰な業種などなく、あらゆる業種において想像もつかないような大変化がやってくると思った方がいいかもしれません。

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