日本の株式市場がどうも変調です。昨年までは先進国の中でも最高のパフォーマンスを叩き出し、日本企業は業績も好調で株価は今年も順調に上昇過程に向かうと思われていましたが、大方の予想を裏切り日経平均は年初から6週連続安、2/4には13995円まで入り、およそ1ヶ月で昨年末比14%も下げるという惨憺たる状態となりました。更にその後世界的な株価の戻りを受けて、日本株も戻ってきたものの、どうも戻り自体が鈍いのです。上場企業の劇的な業績の改善、新興国から先進国への資金移動、更に債券から株式へという歴史的な流れから大いに期待された今年の日本株ですが、現在、何が起こってきたのでしょうか? 

日本株の冴えない動きの背景にはどんな事柄が隠されているのでしょうか?

日本株の動きは弱すぎ?

 実際、日本株の動きは世界的な株価や、特に先進国の株価の動きに比べて弱すぎます。米国のニューヨークダウは2月5日には15340ドルとなり、昨年末高値16588ドルから7.5%の下落となりました。しかしそこを起点として反発、先週末は16154ドル、立会日7日間で814ドル、率にして5.3%上昇し、新高値更新までわずか430ドル、後2.5%のところまで戻しているのです。既に米国株の実勢を示すと言われるS&P指数に至っては本年1/15の過去最高値1850ポイントに対して先週末は1841ポイントまで迫り、新高値奪還は時間の問題というところまで来ています。一方欧州に目を向けるとドイツのDAX指数は先週末に9662ポイントとなり1/21につけた過去最高値9794ポイントまでわずか132ポイント、後1.3%の水準にまで迫っているのです。

 昨年から外国人投資家をはじめとする投機筋の大量な買いによって日米欧の先進国の株は例外なく買われてきました。勢いを失った新興国からの資金の受け皿、そして米国債の金利上昇(価格低下)に端的に表れてきたように国債から株、債券から株というグレートローテーションの流れに沿って、日米欧の株式市場は活況を呈し、このまま、その歴史的な動きは留まることなく、今後加速する一方と思われていたのです。私もこのレポートや講演会、ラジオなどでこの歴史的な潮流を何度も指摘してきました。

 基本的な大きな流れは変わらないと思いますが、ここ直近は何故か、日本株だけが変調、日本株だけが蚊帳の外のような情勢なのです。本来、ニューヨークダウやS&P、そしてドイツDAXなどが新高値を取る勢いであれば日本株も日経平均が16000円を超え、昨年来の高値16320円を抜ける展開に至ってもおかしくないはずです。むしろ米欧の株式市場の動向をみれば、日経平均もそのような強い動きになるのが自然と思えます。

日本株は外国人の投資スタンスに振り回される

 日本株は米国株などに比べて非常に変動率が高い傾向があります。これは日本の株式市場は投資家層が薄く、外国人投資家の比率が6-7割近いため、どうしても外国人の投資スタンスに振り回され、外国人、特にヘッジファンドの動向に極端に左右されやすい構造になっているからです。そしてここ直近の動きはこのヘッジファンド並びに外国人投資家の投資スタンスの変化を現していることは見逃せません。

 私は2008年暮れから講演活動を始め、定期的に東京をはじめとする各地で講演会を行ってきました。そしてその最初の講演会から欠かさず話していることがあるのです。それは日本株における外国人投資家の売買動向です。日本株の推移を考えた場合、最も影響を与えるのは外国人投資家の動向であり、とりわけヘッジファンドの動向が大きく日本株に影響を与えていると思っているからです。基本的に、ヘッジファンドを中心とする外国人投資家が日本株を買い続ける以上、日本株については強い動きになっていくだろうし、相場の先行きを悲観する必要はない、と述べてきました。彼らヘッジファンドを中心とする外国人投資家は世界を牛耳る投機資金の中枢そのものであって、彼らの巨大な資金が日本株を継続的に買い続ける以上は、相場において多少の波が生じたとしても懸念する必要はない、と思っていましたし、そのことを伝える必要があると考えていたので、講演では外国人投資家の動向をいの一番で紹介してきたのです。

 ヘッジファンドを中心とする投機筋は日本株を絶好の<おもちゃ>と捉え、事あるごとに買いや売りを交えて変動率を大きくすることによって日本市場を席巻して膨大な利益を上げてきたものと思われます。彼らはSQ制度という彼らのような資金量のある投資家に特に有利に働く先物の制度を思う存分利用して日本市場をわが物としてきました。高速取引を使った露骨な相場の売り崩しや、先物やオプション取引を物理学者によって作られたプログラムを駆使して、日本の当局には証明することが不可能な株価操作を白昼堂々と行い、利益を得てきたのです。しかしこの間も全体としては日本株を買い続けるというスタンスは変わることはありませんでした。基本的に日本株を買い越しにして日本株の持ち高を増やしながら相場を自由自在にコントロールしてきたと思えばいいでしょう。主に買い主体ですが、特には先物を使って大きく売り崩すことによって短期的な利益を最大限に膨らませてきたのです。

外国人投資家の大きな日本株売りが目立つ

 私は基本的に外国人投資家のこのような大まかな日本株に対してのスタンスは変わるとは思っていないのですが、ここにきて直近は余りに大きな日本株売りが目立つので、それは重大な関心を持って注視する必要があると感じています。外国人投資家は2009年以来一貫して日本株を買い続けてきました。昨年の買い越し額は15兆円を突破、史上最高まれにみる買い付け額となりました。昨年は月間ベースでみても毎月買い越しで、8月にわずか1193億円売り越したのが例外的なことだったのです。昨年1年間、外国人投資家は買い一辺倒を貫いたのです。昨年は5月、6月と日経平均は波乱に見舞われましたが、その時も外国人投資家は先物を使って揺さぶりはかけたものの、基本的には日本株を買い続けました。ですから私は日本株を買っているのは外国人投資家ばかりであり、アベノミクスの成功はこのような外国人投資家に依存したものであると言い続けてきたのです。

 実は、この日本株を先導した外国人投資家の投資動向に大きな変化が生じたのがこの1月でした。まだ外国人投資家が今後も1月と同じような投資スタイルを続けるかどうかはわかりませんが、その投資方針は今までになく注視する必要があります。

 外国人投資家は1月に日本株を1兆1696億円売り越しました。私は月間でのこのような巨大な額の売り越しは初めて見ました。2/15に発表になった2月第1週の外国人投資家の売買動向では412億円の買い越しになっていますが、これが1月からの売りスタンスの基調転換になっているかどうかはまだ判別できません。過去を振り返りますと、外国人投資家は2008年リーマンショック時、10月に1兆696億円、11月に1兆500億円と巨額な売り越しを行った時もありました。その後1兆円に上る売り越しを月間で行ったのは2011年8月だけで額は1兆656億円です。このときはユーロ危機が叫ばれ世界中、資本市場は極めて悲観的になっていたのです。今までのケースではリーマンショックやユーロ危機のような世界中で大混乱が起こった時でなければ外国人投資家が日本株を月間で1兆円を超えるような売りを出すことはあり得ませんでした。ところがここで米欧の株が比較的堅調に推移しているにもかかわらず、日本株だけに膨大な売り物が出されました。この動向が2月のSQ値を決めるための短期的な株価操作あれば、短期で収束すると思いますが、今後も続くようであると日本株にとっては大きな脅威です。先週末、米欧の株が堅調でしたから今週1週間の日本株の動向は重要です。日本株が米欧の株式市場のように連動を高めて一緒になって元の先進国の株高に戻るのか、それとも日本株だけが置き去りにされるのかという観点からです。

日本株が売られ始める?

 日本株だけがおかしくなった流れの起点は1/23から起こっています。1/23には日経平均は15950円という水準だったのですが、突如、ここから大きく売られ始めました。直接的には中国のPMIの発表から中国経済の懸念が広がり、アルゼンチンやトルコなど新興国の危機に波及したことが原因とされていますが、それだけではその後世界に突出して14%も下げて戻りの鈍い日本株の異様な現状は説明できません。 

 変化が生じた1/23の前の日、1/22にはスイスでダボス会議が行われていましたが、この席で安倍首相は投資家の大物ジョージ・ソロスと会談しています。これは繰り返し指摘してきたようにアベノミクスを成功に導いたのはヘッジファンドを中心とする外国人投資家の力が大きかったからです。彼らの日本株の怒涛の買いが日本株を押し上げ、日本全体のムードを変え、資産効果をもたらし、結果的に景気を回復させた一番の原因であることは明らかでしょう。要はアベノミクスの成功は海外投資家に依存しているのであり<バイ、マイ、アベノミクス>と安倍首相が宣伝した通り、海外投資家、特にヘッジファンドの大物のソロスのような投資家が日本経済の先行きに強気になれること、日本に投資してくれることが肝なのです。ところがソロスはこの安倍首相との会談で日本を見限った可能性が指摘されています。会談の詳細はわかりませんが一説には日本経済についてかなり突っ込んだ話があったとも言われています。ソロスは会談後、安倍首相の言う成長戦略や日本の今後の景気動向に深い疑念を持ち、一気に日本株売りに転じたという噂なのです。

 更にもう一つ1/22の出来事で大きかったことは日銀、黒田総裁の会見です。黒田総裁は記者会見で<2年で2%の消費者物価上昇という目標に向かって予定通り日本経済は順調に推移している>、と発言しています。経済が順調に推移しているということは、計画通り動いているのだから追加の金融緩和の必要はない、と捉えかねません。黒田総裁の発言は日銀はこのまま追加緩和はせず今の政策を推し進めるだけである、というメッセージを発しているわけです。日本は今、これだけ景気がいいのは明らかに4月の消費税引き上げをにらんだ駆け込み需要があるからです。4月以降消費税が引きあがれば一気に景気が冷え込むのは目に見えています。そこで首相や日銀のサイドから景気の失速回避のための経済回復シナリオがみえなければ、どう思うでしょうか? 外国人投資家が<一端日本株のポジションを手じまって様子を見よう><日銀も当分動きそうもない>という判断が働いてもおかしくありません。

 外国人投資家は昨年まで怒涛の日本株買いを行ってきました。この外国人投資家が今後もしばらくの間、日本株の売りに転じたとなると相場的には厄介なことになる可能性も否定できません。NISAをはじめ日本の個人投資家は株を購入する準備は万端、また証券会社の普通預金であるMRFには個人投資家の10兆円を超える資金が待機されています。それでも外国人投資家が本格的に日本株を購入するのをやめ、売りスタンスに傾いた場合には日本の市場は支えきれなくなります。

 今のところ、今後の外国人投資家の動向ははっきりとはわかりません。この2.3週間の日本株の動きが彼らの投資スタンスを現すことでしょう。米欧と同じような動きに戻れば、継続的な売りスタンスではないでしょうが、日本市場だけ米欧とは違った独自の下げが起こると問題です。

株式市場が思わぬ波乱

 私は基本的に日本の株式市場は大相場に向かい、日本国債はやがてインフレの到来で手に負えなくなると思っています。しかし相場はその時々は短期的な要因でダイナミックに動いていきます。4月からの消費税導入後の景気落ち込みをにらんで日本の無策を懸念して外国人投資家が大規模に売りに転じて、それを続ける可能性も否定はできません。そうなると日本政府は必至になって、成長戦略を打ち出してくるかもしれません。株式市場が思わぬ波乱となれば、日銀は追い込まれるように市場の予想以上の大規模な金融緩和に動くことになるでしょう。

 日本株の歴史的な基調は変化して1昨年から大相場に突入したトレンドは不変でしょう。日本がデフレから止まらない怒涛のインフレに転じていくのも必至と思います。しかしその大きなトレンドの中にも、様々なトピックや事象が勃発してその都度、日本株の相場を揺らすことになることは常に起こりえます。今回外国人投資家はどうでてくるのか? また政府や日銀は4月に向けて尚一層の政策発動をいつ、どんな時にどのような形で行ってくるのか? 荒れ狂う天気のように相場は自由自在に激しく動きまくります。日本全体がいまだかつてない大雪に襲われたように、日本株も想像を超えて上下と荒れ狂う可能性はあります。しかしその終着点は、結局のところ日本国債の暴落と共に止まらないインフレ、円の価値、マネーの価値の凋落と共に株式市場の未曾有の大相場に収れんされていくのです。