<来年の本命は日本株だ!>11月27日、米モルガンスタンレーは日本株に対して超強気のレポートを発表しました。弱気から強気へと投資判断を変更することはよくあることですが、その度合いが著しいことと、多くの海外の調査機関がこれに類するレポートを出してきたことも注目です。

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極端な投資判断の変更

 米モルガンスタンレーによると、従来2017年末のTOPIXの見通しについて1190ポイントと下落予想を立てていたのですが、今回見方を180度変えて2107年末のTOPIXの見通しを1800ポイントに引き上げるというのです。余りに極端な投資判断の変更に驚かされますが、これは米モルガンスタンレーだけでなく程度の違いはあれ多くの外資系証券や同じく欧米の調査機関が似たような投資判断の変更を行ってきています。そしてこのようなアナリストの見方の変化を裏付けるように、外国人投資家は怒涛のように日本株の買い付けに殺到してきたのです。トランプ氏の勝利が確定した11月9日から、外国人投資家の日本株に対しての買い付けはほぼ毎週4000億円超に及んでいます、これは現物だけですが、先物についても怒涛の買い付けを継続しています。一方で売り一辺倒で怒涛の売りを出し続けているのが、日本の個人投資家です。

 このような外国人投資家の異様な買い付けと同じく日本の個人投資家の異様な売り継続の形はやはり2012年11月から始まったアベノミクス相場の初期にも見られた傾向でした。なかなか劇的な変化を感じ取ったり、それに伴って投資スタイルを思い切って変更するということは投資の世界では難しいことでもあります、そしてこのような180度の変化に対応するのは日本人は苦手です。日本の個人投資家としてはここ数年に起こった株式市場の乱高下に対しての警戒感は極めて強いわけです。相場は上げれば売り、下がれば買い、という教科書的なスタンスを取ることで個人投資家はある意味、株式市場の乱高下を生き抜いてきたわけで、今回もトランプラリーといっても余りに急激ですし、その上げもスピード違反ですから、<やがて下がる>という意識がどうしても抜けきれない模様です。

 日本の個人投資家は現物を売るだけに留まらず、相場はやがて下落するという見方、あるいは確信の下、下げたら儲かるポジション、いわゆる信用取引を使った空売りや、下げたら儲かるETFであるダブルインバースと呼ばれる投資信託に殺到しています。東証で見る空売り残高はこの1ヶ月で歴史的な増加、12月の第2週現在で9766億円となって1兆円に迫り7年半ぶりの水準にまで上昇してきたのです。また下げたら下げ率の倍儲かるダブルインバースは大量の注文に設定金額が追い付かず2000億円の設定金額のところを急遽5000億円に増額して追加設定されました。一方で個人投資家の投資意欲の過熱状態を表す信用取引の買い残高は2兆1000億円程度で昨年8月の3兆6000億円の水準に比べて4割減となっていて投機熱の盛り上がりは皆無です。この信用取引の買い残の2兆円程度という水準は過去を振り返ってみても異様な低さです。このような超弱気な見方、あるいはいずれ下げるからそこに備えようという動きは日本中の投資家を席巻しています。試しに新聞や週刊誌などマスコミの論調とか、回りのムードを察するとわかるでしょうが、プロも含めてほとんどの投資家が、今回のトランプラリーの継続について疑問を呈しています。<トランプラリーはいつまで続くのか?>との話に溢れ、<いずれ大きく反動が来る><トランプ氏の政策のいいところだけみて、保護主義など悪いところには全く焦点が当たっていない>などの見方が大勢です。

 このような見方に対して、日本の個人投資家は得心する部分が大きいわけです。日米の株価の上げピッチを見れば、この水準からとても怖くて参加することはできない、と尻込みするのは普通の感覚でしょう。またトランプ新政権はまだ発足もしていませんし、議会との関係もあって何を現実に行えるのかはっきりしません。トランプ氏の掲げた保護主義や減税やインフラ投資にしてもどこまで実行する気があるのかもはっきりしません。しかもトランプ氏は発言を再三変えてきています、これでは方向性がわからず、何が起こってもおかしくないわけで、このような不確定な状況下で、株に投資するというよりは、一端保有する株式を売却することによって、市場の動向を冷静に見守った方がいいと考えるわけです。また短期で上げ過ぎているのは明らかなので、先ほど指摘したように下がれば儲かるポジションを積極的に構築するわけです。

 このような慎重な投資スタイル、あるいは見方は一見理に合っているように見えますが、一番大事な事を見逃しているように思えます。それは日本の株式市場は劇的な上昇局面に転換したという事実です。多くの投資家は市場の水面下で生じている強大な変化を捉えてきれていないのです。巨大な変化は今までくすぶっていたものが、トランプ氏の勝利によって顕在化したものと思われますが、このドラスティックな変化をどうしても感じ取る必要があります。

思い出すべきは2012年11月から始まったアベノミクスの劇的な上げ相場

 日本人として思い出すべきは2012年11月から始まったアベノミクスの劇的な上げ相場です。あの時も当時の野田首相の解散宣言から相場が始まったのですが、当時日経平均の水準は8000円でした。野田首相の解散宣言によって選挙が確定し、世論調査の傾向から自民党政権ができることが想定されました。当時安倍自民党総裁は<国債を大量発行して公共投資を行えばいい>と今までなかったドラスティックな経済政策の方向転換を主張していましたが、当時もどのような変化が起きるかはその時点では確定はしていませんでした。結局安倍政権発足してからアベノミクスという思いきった金融緩和や財政政策の拡大を行ったわけですが、アベノミクスの最も劇的な部分は日銀による思い切った金融緩和策の発動です、いわゆる<異次元緩和>の実行でした。この<異次元緩和>が実行されたのは黒田新総裁が日銀総裁に就任して、日銀が新政策を実行してからです。これは2013年4月のことです。相場が上げ始めてから実際の政策が発動されるまで5ヶ月のタイムラグがありました。この間、株式市場は急騰に次ぐ急騰となり、4月の時点では日経平均は約半年で倍化していたわけです。かように実際の政策が発動されたときはある程度、その確実な変化を読み込んで相場水準は大きく変化していたわけです。このように劇的な変化が生じる時、株式市場はその変化を確実に織り込んで先読みするものなのです。

 今回、起こってきた日米の株式市場の急激な上昇もアベノミクスが始まった時とほぼ同様の展開とみていいと思われます。アベノミクス相場もあれだけ劇的に上昇したのは<自民党政権ができる><政策が劇的変わっていく>という期待感だったわけです、そしてそれ以前は異様に悲観ムードが広がっていました。相場が大きく反転するのは、その悲観ムードの広がりで、余りに人々が市場を悲観しすぎていて、その反動として大きな相場が出現するという劇的な変化が起こるわけです。このような劇的な変化は相場の世界ではまれに起こることでめったに起こることではありません。現在2012年の11月から始まったアベノミクス相場に匹敵する相場は始まってきたと思われますが、そのような劇的な変化を感じ取るのは一般的には難しいことかもしれません。

 何故、日本株がこれだけ買われるのか、背景をみてみましょう。一つは円安への転換です。米国で開かれているFOMCで今夜、金利引き上げの発表があります。これは既に市場で織り込まれていますが、トランプ新政権の発足に伴って、減税、インフラ投資、保護主義など、新政権の政策はあらゆる意味でインフレを助長させます。減税は10年で日本円で約600兆円に上る規模と言われ、米国のGDPの3割に当たる額です。法人税に至っては35%から15%に引き下げると主張しています。またインフラ投資は10年で100兆円、これも米国の高速道路や橋は老朽化が進んでいますので、実行される可能性が高いでしょう。また保護主義は輸入物価を上昇させるので、これもインフレ要因です。移民の制限も労働力の不足を生じさせますので賃金上昇の引き金となります。かようにトランプ新政権の目指す政策はほとんどインフレを助長するものとなるわけです、折しも米国の失業率は4.6%と完全雇用の状態で、この状態で様々な景気刺激策が実行されますから、インフレ気味になるのは必至ということです。ですからそれを先読みして米国では金利が急上昇しているわけです。米国の長期金利は7月には1.32%だったものが、現在2.52%と5ヶ月で倍化したのです。インフレ気味になればFRBは当然、インフレ予防で事前的に金利引き上げを行うのは当然です。既にゴールドマンサックスなどは来年2017年に3回、再来年2018年に4回の利上げがあると予想しているのです。この予想の変化はトランプ氏勝利の後で生じた劇的な予想変更の一つです。従来は来年2017年に金利が1回引き上げられるかどうか、という見方が大勢だったのですが、まさに今では見方が全く変化してインフレ予想が大勢となって金利引き上げは必至と変化してきたわけです。

 こうなると金利差拡大からドル高模様となります。折しも日銀はイールドカーブコントロールと言って日本の長期金利をゼロに誘導すると宣言しています。日本は金利がゼロのままで米国の金利が上がり続けるわけですからドル高、円安傾向は続くはずである、という予想が大勢になりつつあるわけです。日本企業はドル円レートを102円程度と保守的に設定していますから当然企業業績は増額修正となっていきます。

 更に外国人投資家が注目するのは、日本の政治の安定性です。安倍政権は長期政権で日本の政治の安定感は世界中を見渡しても群を抜いています。英国のブレグジットをはじめとして欧州の政治情勢は極めて流動的で来年もオランダ、フランス、ドイツ、など欧州各国で選挙があり、その行方は予断を許しません。ブレグジットから始まった欧州の政治的混乱は来年さらに激しさを増すとみられています。日米欧と先進国を比べた場合、政治状況を考えると現在の欧州にはとても投資することができず、消去法的に日米への投資となります。またドル高を考慮すると新興国にも投資できません。

 更に先ほど指摘した米国金利上昇の見方は、資金の動きを劇的に変えています。というのは金利が上昇するということは、債券価格が下落するということです。国債など債券は金利を売り買いしているのと同じことです。金利が上昇するのであれば国債価格は下落することとなるので、国債を積極的に購入することができません。これが国債など債券から株式へと劇的な資金の移動を引き起こしています。グレートローテーションと言いますが、この資金シフトが止まらなくなってきています。それがNYダウなど、米国株や日本株の大きな上昇をもたらしているのです。

 例えば日銀は保有している日本国債は400兆円に上るわけですが、この資金が株に動くとなればどうでしょうか? 1割動いただけでも40兆円ですから株式市場は暴騰状態となります。日銀がこのような動きをするわけではありませんが、世界の資金の流れの中で国債など債券から株式に資金が動くということは相場に強烈なインパクトを与えるということを理解してください。

 更に日本には株式市場が上がる他の国にはない特有の事情もあります。日銀のETF買い付けです。世界を見渡しても中央銀行が継続的に株式市場に介入している国は見当たりません。(中国は異常で例外)日銀は年間6兆円に上るETFの買い付けを約束しています。ところが昨今の状態をみると株式市場が下げる日が少なくなってきたので、購入するチャンスがないのです。日銀は午前中の段階で下げればすかさず購入するしかありません。しかも1回の購入額は12月に入っては747億円と11月の707億円から資金を増加させています。これは1回につき増額して購入していかないと買いきれないからです。下げ相場の時に株価を買い支えるために日銀が株式購入を行うというのならわかりますが、相場が上昇基調に入っても日銀としては7月に決めたばかりの政策をすぐに変更するわけにもいきません。勢い、現在の日本の株式市場については<下げれば買いたい>日銀や個人投資家や欧米年金基金などの群れが怒涛のように連なっている状態です。

日本株は日銀と企業の自社株買い付けによって吸い上げ続けられていた?

 今年年初から外国人投資家の売りが止まりませんでした。外国人投資家は今年6兆円を超える売りものを出してきました。それを買い支えたのは主に日銀の買い付けと企業の自社株買い付けです。この日銀の買い付けと企業の自社株買い付けの株式は一端買うと売りませんので市場に出てきません。要するに今年1年コツコツと日本株は日銀と企業の自社株買い付けによって吸い上げ続けられていたわけです。そこに突如トランプラリーがやってきたのですが、今まで売り手だった外国人投資家が買い手に転換してしまうと、売り手がいなくなり、売り手は日本の個人投資家だけとなりました。その日本の個人投資家の売りを吸収して上昇してきたのが現在の日本の株式市場です。そして日本の個人投資家も持ち株を売却して、ついには空売りを大量に行っている状態です。その空売りの売りものも外国人投資家が我先にと買いあさっている状態です。外国人投資家としても年初から過去に記録のないほどに日本株を売却してしまったので、多くは買い戻せていない状況です。外国人投資家の買いはまだ始まったばかりと思った方がいいでしょう。

 昨年8月、そして今年1月、世界の株式市場は暴落状態となりました。多くの投資家の記憶に新しいところと思います。そして投資家はそのような記憶を下に、トランプ新政権の不安定さから株売りに傾いているわけです。では昨年8月と今年1月、世界の株式市場が暴落した主因は何だったでしょうか? これは拙著などでも書いてきましたが、株式市場に直接的な大量の売りものがでてきたからでした。その膨大な売りの主体はサウジアラビアをはじめとするオイルマネーだったのです。原油価格の暴落によって一時は100ドルを超えていた原油価格が30ドルも割れるという惨憺たる情勢となりました。これに窮したサウジアヤビアをはじめとする産油国は世界中で保有する株式を売りたたいたのです。これが暴落の主因であったことは今では明らかにされています。

 となると現在原油価格はOPECやロシアなど非OPECの産油国も含めた15年ぶりの減産合意によって50ドルを上回った価格で推移しています。この高値が続くかどうかはわかりませんが、当面暴落の危機はないでしょう。となると昨年と今年、世界の株式市場を震撼させたオイルマネーの売りも当面出てきません。逆に今では株式市場にオイルマネーの流入が噂されている状況です。

 かように株式市場、特に日本の株式市場は売り要因よりも買い要因の方が圧倒的に大きいわけです。ところが日本中、<株式市場は異常な高騰>としている雰囲気は広がる一方です。ここで書いたような強気レポートは世間になく、日本中弱気一辺倒で、その弱気に基づいて日本の投資家は株売りに奔走しています。それを日本のマスコミも<期待先行のトランプラリー>と助長しています。ところが世界の巨大な資金を牛耳る欧米投資家から聞こえてくる見方はこのレポートと同じく日本株に超強気に転換しているのが実情です。情緒的で大局が見えていない日本全体の弱気モードに左右されず、株式市場は強い、これからと構えた方が得策でしょう。

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