今年の干支は申で、相場の格言では<申騒ぐ>と言われています。格言自体あまり当たるというものでもないですが、今年の場合はまさに<騒ぐ>という表現がぴったり当たりそうで、激しい上下を伴った相場展開になると思われます。その中にあって日本株は着実に上昇していくと思います。夏には参議院選挙がありますが、ここまでに相当上昇する可能性が高いとみています。その後はさすがに2017年の消費税引き上げの懸念も出てきて軟調な展開もありうるでしょう。このレポートでは一貫して日本株に対しては強気のコメントを出し続け、基本的にはその通り日本株の上昇トレンドは続いています。ただアベノミクスが始まってから2012年、2013年、2014年と好調な上昇を続けていた日本の株式市場が2015年の夏を境にして何か変調機運が見えてきたことも事実です。

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激しい値動きに投資家も翻弄

 まずは昨年までの動きを振り返ってみましょう。昨年の日本株は堅調な動きで4月には念願だった日経平均の2万円乗せを達成、6月にはその勢いに乗って20868円と18年半ぶりの水準にまで上昇したのです。しかしその後中国経済の減速と中国株の急落をきっかけとして世界的に株価が大波乱となりました。日本株も夏になってついに息切れ、8月からは日経平均は一気に2万円割れとなってその後も大きく下げて大混乱となってしまいました。2万円乗せで沸いていた日本株も不安感が台頭してくるともろく、8月からの急落は厳しいものとなりました。また下落時の余りの激しい値動きに投資家も翻弄され続けたのです。8月24日は一日で895円安となるなど市場のボラティリティが急拡大して投資家の不安心理が広がっていきました。その後の戻りでは9月9日には日経平均は一気に1343円も高くなるなど乱高下が予想以上に激しい状態となったのです。この8月、9月の下げについては主に欧州からの大量の売りが出ていたことが報告されています。英国からの売り注文が8月、9月の2ヶ月だけで2兆4000億円という巨額に及んでいたのです。多くは原油安に窮したサウジアラビアなど産油国の運用ファンドの解約が出たとみられています。この後10月からは相場が戻し12月にはふたたび日経平均は2万円にタッチしたものの、失速して年末年始を迎えています。

 ただ1年を振り返ってみると日経平均は2015年を通して9%の上昇となって年末としては19年ぶりの高値で終了しました。また2012年、2013年、2014年、2015年と年間を通しての上昇となって4年連続の上昇となったのです。仮に今年2016年も上昇となると、戦後日本の証券市場が開いて以来、バブル最盛期の89年までの12年連続上昇に続く、5年連続の上昇となります。おそらく2016年も基本的には上昇相場で日本の株式市場は5年連続の上昇となることでしょう。

 一方、日本株の先行きの見方については強弱感が大きく対立しています。上がると予想する専門家と下がると予想する専門家で見方が両極端に分かれているのです。これは為替の円相場の見方も一緒で円安になるという見方と円高になるという見方で真っ二つに割れている状況です。

 何故、このような見方の極端な違いが現れるか、というとそれは世界を取り巻くリスク要因に対しての見方が大きく分かれるからです。現在、世界を覆うリスクとして原油価格の下落にみるような商品価格の下落による産油国や新興国の経済失速による混乱、そしてその商品安の原因を作ってきた中国経済の急減速という極めて深刻な問題もあります。アジア各国なども中国経済の減速を受けて急激に経済に対して悪影響が出てきています。また昨年テロが頻発したように世界的なテロ拡散の懸念もあります。そして米国の金利引き上げは昨年末FRBによって9年半ぶりに実行されたわけですが、今後も米国が金利を順調に上げ続けられるのかどうかということも注目されるところです。

 今年の株式市場に対して弱気な見方をする専門家はここまであげてきた世界を覆うリスクが大きく顕在化することによって世界の経済成長は妨げられ、その結果として株式市場は混乱するだろうとみています。そしてその余波として日本の株式市場も影響を大きく受けざるを得ない、という見方です。一方株式市場について楽観的にみるケースでは、もちろん世界を覆っている懸念材料については弱気派と同じように懸念はあると考えているものの、そのこと自体がそれほど市場を揺るがすほど大きな混乱には発展していかないという考えなのです。いわば懸念事項に対しての見方の温度差がそのまま今年の株式市場の見方の極端な相違として現れています。

日本株の上昇基調は基本的に不変?

私は今年の中国経済の状況や産油国や新興国の状況は決して楽観できるものと思っていません。昨年6月から起こってきた中国経済の減速をきっかけにした混乱は今年更に拡大し、原油など商品相場も更に下がると思いますし、産油国、新興国の状態も昨年より悪化していくと思っています。その中にあっても日本株の上昇基調は基本的に不変とみています。

 それは世界の市場で日本株が圧倒的に資金の受け皿になっていくという考えと共に、日本株自体が様々な指標からみて高い水準でないこと、更に好調な需給関係も日本株の上昇を後押しするはずと思っているからです。

 まずは日本株の需給関係をみてみましょう。昨年は外国人投資家が2008年のリーマンショック以来、7年ぶりに売り越しとなってしまいました。売り越し額はわずかなので、外国人投資家が大きく日本株に対してのスタンスを変えたわけではないと思いますが、昨年1年通してみてみると先ほど指摘したように8月、9月のサウジアラビアをはじめとする中東諸国の大量の売りが日本株の下げに直結していたものと思われます。

 昨年1年間を通して日本株を一番多く買った投資主体は日本の企業です。前著<株 株 株 もう買うしかない>で詳細については書きましたが、昨年から日本ではコーポレートガバナンスの導入によって企業は株主に報いるように国の方針の変化によって、大きく企業側も株主に対しての姿勢が変わってきたのです。日本企業も欧米企業並みに株主に報いることが一般的になりつつあります。その中では配当の拡大や自社株の買い付けによって自社の株式の価値を高めていく手法が一般的になってきました。この動きはまだ昨年から始まってきたばかりであり、今後も発展、加速していく流れです。昨年の日本企業の日本株の買い付け、いわゆる自社株買いの総額は3兆円弱となっています。昨年は日本の企業が一番日本株を購入した投資主体だったのですが、1昨年の2014年は年金基金など公的資金が日本株の一番の買い手でした。そしてその前の2013年は外国人投資家が怒涛の15兆円に上る日本株買い付けを主導して日経平均は6割も上昇したわけです。

 私は日本株についてはその多くが継続的に中長期投資によって買われている状態であり、時間の経過と共に売り物がなくなっていく傾向がある、と指摘し続けてきました。日本株の主な売り主体は主に個人投資家であり、昨年も個人投資家は1年を通して5兆円弱の売り越しになっています。一方昨年一番購入した日本の企業による自社株の買い付けは今後も増えることはあっても減ることはないでしょう。というのも先に指摘したコーポレートガバナンスの浸透と共に、日本の企業自体が大量の現金を保有しているからです。現在新興国の企業は原油安からくる景気減速に打撃を受けていますが、その新興国の企業は極端に負債が大きいのです。それに対して日本企業は半分以上の企業が無借金の経営で膨大な現金を保有し続けています。本来であれば設備投資や成長が見込める分野に資金を大胆に投入して業績の更なる拡大を目指すべきですが、日本企業は現状の世界経済の状況を様子見しているところで、今のところ積極的な設備投資に打って出ていません。しかし財務体質が万全な日本企業はやる気になればいつでも資金を投下して成長投資に充てることができるのです。そしてそれでも有り余るほどの資金を持っている日本企業は当然のことながら、株主還元である増配や自社株買いの手を緩めるとは思えません。ゴールドマンサックスの試算によると日本企業の自社株買いは2016年には2015年の倍以上となる7兆円に達すると予想されているのです。このような大量の資金が日本の株式市場に投入されれば日本株は下がりようもないでしょう。

 更に年金基金の買い付けが2014年に比べて減少してきたと懸念する向きもありますが、これも年金基金が売り主体に変るわけではありません。むしろ下がれば買うという下値を支える役目は現在も健在です。また新たな公的資金の担い手として昨年上場した郵政グループの買い付けも多いに期待していいでしょう。昨年11月に上場したかんぽ生命とゆうちょ銀行の運用資産は合計で291兆円もあります。未だにほぼ半分が国債で運用されているわけですが、当然リスク資産への資金の配分は増やすしかないのです。かんぽ生命の石井雅実社長は上場時に<リスク資産を6%から1割に増やす>と発言しています。一方ゆうちょ銀行も昨年春、外債などのリスク資産を14兆円積み増すと発言しているのです。株式の運用については体制を整えてからでないと難しいので今直ぐに行われるかどうかはわかりませんが、かんぽ生命とゆうちょ銀行合わせて相当な額が将来日本の株式市場に投下されてくるのは必至でしょう。かように公的な資金もこれから更に株式市場に投入され続けるわけです。

 また昨年12月の補完措置発表ということで市場に対しての大きな失望をもたらした日銀にしても相変わらず年間3兆円に上る株式の買い付けは続けられるわけです。これも今では投資家は普通の事と評価もされませんが、やはり3兆円ずつ毎年買い続ければその効果は時間の経過と共に絶大になっていくはずです。

 もう一つここにきて変化してきたことは個人向けの日本株運用の投資信託が売れ始めたことです。昨今の利回りの良さからやはり日本株投信が見直されているようで2015年の日本株運用の投資信託の資金流入量は1.6兆円に達して15年ぶりの高水準になったのです。新興国に投資した投資信託や米国の信用力の低い社債であるハイ・イールド債(いわゆるジャンク債)に投資した投資信託は運用利回りが悪く人気が急速に落ちて資金流出が続いています。それに対して日本株で運用する投資信託の人気は続きそうです。

2016年も外国人投資家がどうでるか、ということが最大の焦点

 数年前を考えてみれば、この投資信託も日本株の売り手、年金基金も売り手、日本の企業も自社株買いつけなど行わずに日本株の売り手だったのです。それがかように強力な買い手に180度変わったわけで、こう見ていくと日本株の需給は極めて好転しているわけです。

ただ基本的に日本株は外国人投資家が買えば上がる、売れば下がるという状態が続いてきたわけですから、やはり2016年も外国人投資家がどうでるか、ということが最大の焦点であることは変わりません。ただここで捉えてもらいたいところは昨年2015年は7年ぶりに外国人投資家が売り越しになったわけですが、それでも日本株が上昇したという事実です。これは外国人投資家の売りを吸収するだけの日本企業や公的な資金の日本株の買い需要があったからです。そしてこれは続くわけです。

 さて外国人投資家の動向は2016年どうなっていくでしょうか? これを考える時に一番難しいのはサウジアラビアをはじめとする産油国の売りが昨年に引き続き大量に出てくるかどうかということです。これは現段階ではわかりません。ただサウジアラビアに対してIMFは国債を発行することで財政危機は当分封じることができる、とアドバイスしています。サウジアラビアなどのファンドの解約による売りが世界の市場で今後も断続的に出れば相場の頭を押さえてしまうでしょうが、昨年に引き続きサウジアラビアが株を売るかと言えば私は売らない可能性の方が高いと思っています。サウジアラビアなど産油国にとって世界の株やドル資産は自分達の通貨や経済が悪化しているときにあって貴重な資産であるわけですし、ドル建てということを考えると売却するよりは保有している方が得策ということが言えるでしょう。いずれにしても産油国の動向を正確に予想することはできませんから今後の展開を注視したいところです。ただ現状の日本株の需給関係の良さを考えると現在の日本株の市場は産油国の売りものも吸収できる力があると思われます。

 そして産油国を除く、主だった外国人投資家の見方を見るとこれは決して日本株に弱気になっていることはありません。SMBC日興証券の調査によりますと2015年9月末の段階で世界の機関投資家が保有する株式のうち日本株の占める比率はわずか3%弱に過ぎないというのです。一方で世界の株式市場に占める日本株の時価総額の比率は9%に達しています。如何にも外国の機関投資家は日本株の持ち株比率が少ないのです。何かのきっかけがあれば外国人投資家は怒涛のように日本株投資に殺到するしかないのです。

またバンクオブアメリカ・メリルリンチが12月に公表した世界のファンドマネージャー調査によると、今後1年間に資産配分を基準より引き上げたい市場として、日本株は米国株などを上回り欧州株に続いて魅力的だということです。更に世界一のファンド、ブラックロックも2016年は欧州株と日本株の投資が有望とコメントしています。昨年1年間を通してもブラックロックは日本株に相当投資しています。

日本株が大きく動いたり大きく売られたりする背景として日本株の流動性の良さが指摘されます。昨年夏の中国上海市場の急落から世界的に株価の下げが拡散したわけですが、あのような状態になると、投資家は何処の市場でも現金化、換金化ということに殺到するわけです。その場合、中国の市場などは一時的にほとんどの銘柄に売買停止措置が取られてしまいましたし、他のアジアの市場などでは流動性が薄いために思うように売れないという憂き目にあった投資家も多かったのです。そのような状態にあっても日本株は流動性も高く、先物も自由に売買されますからいつでも大量の売買ができて、自由に現金化できるわけです。投資する上ではこのように常にどんな状況でも現金化できるということは極めて重要なことなのです。このような状態を捉えて外国人投資家は日本株をATMと呼んで、投資資金の現金化の窓口にしていたわけなのです。ATMとはよく言ったものですが、この自由な市場と流動性の厚みが日本市場の魅力でもあるのです。このように流動性が高いわけですから日本株は下げる時は必要以上に下げてしまいますが、反面それは絶えず外国人投資家の投資対象になっているということで、外国人投資家にとって必要欠かさざる投資対象でもあるということなのです。

 また日本株自体の水準が決して高くないという根本的な事実もあります。株価を図る世界的に最もポピュラーな指標は株価が1株利益の何倍にまで買われているかを見るPERですが、このPERで見ても現在の日本株は15倍台程度で決して高い水準ではありません。インターネットバブルで高騰した2000年の日本株のPERは80倍近かったし、1989年のバブル時も60倍程度でした。今の日本株の水準がPERでも配当利回りでも決して高いということはありません。

米国企業の10%増や欧州企業の8%増に比べて日本企業の業績の伸びは突出

 ゴールドマンサックスは2016年度のTOPIX構成銘柄の1株利益の伸びを前年度比17%増とみて、米国企業の10%増や欧州企業の8%増に比べて日本企業の業績の伸びは突出しているとレポートしています。先に指摘したコーポレートガバナンスの浸透によって日本企業は株主還元を強めているわけで国際比較でみても日本株は割安であると指摘しているのです。一部いわゆるROE(株主資本利益率)が欧米企業に比べて低すぎるという指摘もあります。保有している大量の現金を有効利用するなどして資本を効率的に使え、というリクエストです。しかしゴールドマンサックスではコーポレートガバナンスの浸透によって日本企業はROEの拡大を目指す傾向にあり、今後ROEの大幅改善が見込めるとポジティブに捉えています。

 日本株が買えない、という指摘の中で必ず出てくるのは日本の成長力の低下という問題です。日本は人口が減り続けているので持続的な成長がかつての高度成長期に比べて難しくなっているというわけです。これは事実です。OECD(経済開発機構)は昨年12月、日本の2015年の実質成長率の予想を0.6%増、2016年を1.0%増としました。明らかに米国などに比べて日本の成長率見とおしは見劣りします。これをもって日本株の長期停滞説を唱える向きもありますが、それも考えがずれていると感じます。というのは日本株は日本のGDPを写して上がるものでもないし、日本国内の成長力を写して動くものではないからです。日本株は株式市場に上場している日本企業の成長力に沿って、利益の増え方に沿って基本的には上がっていくものなのです。日本のGDPが大きく上昇しなくても日本企業はこれまで確実に収益を増やしてきました。昨年度も史上最高の利益を叩きだしましたし、2015年度も更に利益が拡大します。そしてゴールドマンサックスによれば2016年度も更に利益の大幅拡大が見込め、それは欧米の企業を凌駕するというのです。日本企業は主に海外事業で収益拡大しているわけで日本国内だけで事業展開しているわけではありません。そして日本企業が海外で稼ぎ出す収益については日本のGDPに含まれるわけではありません。ですから日本国自体は人口減少によって成長力の鈍化があったにしても、それがいつでも直接的に日本企業の株価の持続的な下落に直結するわけではないのです。株式投資は会社を購入しているのです。会社の業績は良ければ上昇するのは当然のことで、日本国内の成長力と絶えず一緒にして日本企業の将来性を考える必要もないわけです。

 確かに2016年は中国経済の減速や原油をはじめとする商品価格の下落によって産油国や新興国の混乱からどんなことが飛び出してくるか予断を許しません。米国FRBは今年4回利上げを行う予定ですが、これも世界の経済情勢の変化によってどう変わっていくかわかりません。そしてテロは拡散していく可能性が強いでしょう。かような情勢下にあっても世界の投資家の中で日本株への人気が衰えるとは思えません。日本株の上昇トレンドは不変ですが、昨年夏から波乱含みが続いているように2016年の日本株の相場も一筋縄ではいかないでしょう。<申騒ぐ>の格言のように市場は絶えず騒ぎながら時には思わぬ波乱もあるでしょう、そういうダイナミックな動きを続けながら、今年の日本株は基本的に上昇基調をたどると思われます。

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