今年になって商品相場が堅調です。商品全般の動きを示すCRB指数は昨年末の260ポイントから300ポイントまで短期間で急騰しています。世界全般を見渡しても、株式市場はそれほど上昇しているわけではないので商品市場の上昇がいつになく目立ちます。特に昨年来、商品市場は<スーパーサイクルの終焉>と言われ、中国経済の減速と共に歴史的な上昇相場は転機を迎え、今後商品相場には冬の時代が到来すると言われてきました。現に商品相場は昨年5年ぶりに年間を通して下落、石油や銅、アルミ、穀物、そして金相場までも商品という商品は例外なく下げ、相場の下降トレンド入りがはっきりしていたのです。代表的な指標となるWTIの石油相場は昨年中100ドル割れが定着していました。また金相場も13年ぶりに年間を通じて下落となり、明らかに相場のトレンドが変化したことを感じさせたのです。ところが今年になって冴えない株式市場を横目に商品相場は年初から高パフォーマンスを見せています。いったい商品の<スーパーサイクルの終焉>とは単なる杞憂だったのでしょうか? それとも今年になってからの商品相場の上昇は単なる一時的な動きであって商品相場の破壊的な下落はこれからやってくるのでしょうか?

中国経済の混乱から商品相場の波乱は免れない

 結論的に言うと私は中国経済の混乱から商品相場の波乱は免れないと思っています。私は現在の世界な均衡は長くは続かず、やがて混乱に至ると思っています。米国のFRBをはじめ世界中で紙幣を際限なく刷ってきたつけはやがて世界的なインフレを引き起こすに違いないと思っています。特に日本のように国家の借金が天文学的な水準にまで達してしまった以上、この借金をインフレ到来なしで片づけるのは不可能と思っています。だからこの金融的な大変動に備えるために実物である株式に資産を移すべきと主張してきました。

 一方で昨今の中国経済の救いようのない矛盾を目にするにつけ、中国経済のハードランディングは避けようもなく、この中国経済に深く起因する新興国全体や商品相場はいずれ中国経済の波乱と共に収拾のつかない状態に陥るのを避けることはできないと考えてきました。そういう意味では今年の初頭からの商品相場の上昇は単なる綾戻りに過ぎず、やがて中国経済の問題の勃発と共に世界的な混乱は不可避と思います。

悲観的な<スーパーサイクルの終焉>が現実化する?

 商品の<スーパーサイクルの終焉>は昨年初頭から一部のレポートで指摘されてきました。主にシティー・グループやゴールドマン・サックスのレポートで頻繁に指摘されるようになってきたのです。特に昨年5月のバーナンキ前FRB議長の量的緩和縮小のアナウンスから新興国通貨や世界的な株価の波乱が起こり、新興国から先進国への資金の移動が大規模に生じるようになってきました。このような中で新興国の先行きに悲観的な<スーパーサイクルの終焉>が現実化するとのレポートが信憑性を帯びてきたのです。量的緩和縮小となれば、資金は高金利を求めてドルへと米国へと回避し始めます。そうなれば資金不足に陥る新興国の経済の鈍化は必至で、これをきっかけに新興国の経済の減速は止まらなくなると懸念されてきました。一方で新興国におけるマネーの劇的な逃避だけでなく、新興国には新興国自身が持つ要因から、歴史的な経済の減速過程に入っているという見方も大きかったわけです。それが新興国の持つ構造的な問題であり、その大本は中国経済の減速からくる、商品需要の落ち込みなのです。新興国経済は余りにその成長を資源に依存してきました。仮に中国経済の減速が決定的なものであるならば、商品需要の低迷から商品価格の下落が起こり、回り回って新興国全体の経済の悪化は免れないという根本的な問題を指摘され始めたのです。このように新興国には資源依存という構造的な問題が横たわると共に米国発の量的緩和縮小からの投機資金の逃避が襲ってきたために一気に経済が苦境に陥る流れが生じたというわけなのです。

 商品市況の世界的な下落基調、<スーパーサイクルの終焉>の謎を解くためには2000年以降の世界の動きを振り返る必要があるでしょう。キーワードは<中国の勃興>です。2000年、いわゆる21世紀に入る前、1990年代までは世界の経済は日米欧を中心とした先進国を中心に回っていました。中国やインドなどの人口の多い国は世界経済の主だったプレイヤーとはなっていませんでした。先進国中心の経済活動の中で当時、商品相場は長期的な低迷にあえいでいました。WTIの石油価格は20ドルにも達していませんでした。また金相場は250ドルでやはり安値、そして鉄鉱石の相場なども1トン当たり20ドル前後だったのです。当時の商品相場は1970年代80年代の石油ショックからニクソンショックという大事件を伴った爆発的なインフレの到来の後で劇的に変わりつつあったのです。インフレを抑え込んだ先進各国の順調な経済回復の中にあって、商品価格は安定し低迷を続け、今後永遠に上昇することはないかのように思われていたのです。

人口大国、中国、インド、ブラジルの勃興が始まった

 ところが2000年に突入してから世界の情勢は一変します。人口大国、中国、インド、ブラジルの勃興が始まったのです。特に中国の経済発展は目を見張るものがありました。年々二けたの経済成長を遂げてきた中国がWTOへの加入と共に大発展期に突入し始めたのです。1989年の天安門事件当時は皆同じ人民服を着て、皆自転車で乗り回していたのが嘘のように中国には急速な経済発展が起こってきたのです。中国にとって2000年から2010年の間は経済が爆発的に飛躍する黄金期に当たっていたと思われます。そしてこの間、中国は世界中から資源という資源を買いあさりました。まさに中国による資源の暴食が始まったのですが、当然のことながら資源価格は鰻登りとなっていったのです。中国の資源の輸入の拡大はとどまりませんでした。輸入額は世界を席巻し、2000年からの10年間で鉄鉱石では輸入額が40倍、銅は16倍、石炭に至っては250倍ととんでもない額の購入となっていったのです。これらの歴史的な動きが商品市場や商品の供給を手掛ける新興国に大きな恩恵をもたらさないはずはありません。資源を大きく有しているブラジルや南アフリカ、ロシアなど中国の勃興と一緒になって、中国の発展の恩恵を大きく受け、一緒に経済の爆発的な拡大がなされてきたのです。人口大国の勃発であるBRICSの台頭でした。

 まず国が富むためには、最初の発展段階では、インフラの整備が最重要になります。現在のミヤンマーなどが典型ですが、まず道路を作り、橋を作り鉄道で結び、空港を整備し、国の基幹となるインフラ整備は最も重要な第一に着手する工事です。このインフラ事業には当たり前のことですが、膨大な量の鉄や銅が必要になります。ましてや中国のような国土も広く、人口も13億人も有する国が本格的にインフラ整備を行えば強烈です。日本列島改造論で潤った日本の比ではありません。まさに突貫工事は日夜止まることなく中国全土で行われ続けたといってもいい状態だったでしょう。人口1億の日本や人口3億の米国が動くのとはわけが違います。人口13億の中国と12億のインドがほぼ同時に動き出したわけでこれでは鉄や銅がいくら消費されても不思議はありません。その驚くべき資源の暴食、商品の<スーパーサイクル>が2000年から動き出したわけです。

他の商品にはない商品市場特有の動き

 またこの商品市場の動きには他の商品にはない特有の動きがあるのです。それは鉄鉱石や銅、金、銀など商品の持つ特性によるものです。鉄鉱石や銅や金や銀やアルミや亜鉛や鉛が供給不足になっても、それらの商品は鉱山を開発しなければ手に入れることはできません。鉄鉱石が不足したからと言っても鉄鉱石を工場で作れるわけではないのです。まず鉱山を開発しなければなりません。そして更に鉱山までの道路を整備して取り出した商品の運搬経路を構築する必要があります。基本的な環境が完全に整ってからこれら商品の生産が可能となるのです。こう考えると鉱山の探索、調査、開発となると短期間で終了するはずもなく単純に考えても1年や2年で完結できるものではありません。石油の掘削、鉱山の開発ともなれば数年、ある時は数十年単位のプロジェクトとして計画し開発する必要があるわけです。

このような商品の持つ特有の性質が相場の形成に影響を与えます。商品相場の特徴として需要が拡大してから、その需要拡大に気づいて開発していくまでのタイムラグが非常に長いわけです。いわばすぐに需要に対応ができないわけです。2000年から中国、インドをはじめとして新興国の勃発が始まった後、商品価格の上昇をみて急速に鉱山開発ブームが起こり、今でもその開発ブームが続いているわけですが、その間需要と供給のバランスが長期間にわたってマッチしていません。時には情勢の変化で商品によってはとんでもない大相場になって、値上がりが青天井のような状態に至ってしまうわけです。そしてその後も乱高下が続きます。このような事態が2000年以降、石油や鉄鉱石や銅、石炭の相場に起こったと考えればいいでしょう。背景には中国をはじめとした新興国の巨大な需要が膨らみ、それを基にまさに<スーパーサイクル>と呼ぶにふさわしい歴史的な商品相場上昇の流れが起こったのです。

中国は今や不動産バブルの崩壊直前の危機に瀕している?

 ところがここにきて中国経済の先行きに懸念が生じてきました。中国経済の減速が明らかになってきたのです。となると今までの商品の<スーパーサイクル>を引っ張ってきた柱がなくなるわけで、これでは商品相場が無傷でいられるわけがありません。既にここまで何度か中国経済の抱える問題はレポートしてきました。中国のシャドーバンクの問題は深刻で、このまま膨大な額に膨れ上がった高利回りを約束された理財商品が無事すべて償還されるとは思えません。船井ドットコムに<中国ショック>というコラムを掲載しましたが、まさに中国は今や不動産バブルの崩壊直前の危機に瀕していると思われます。危機が起こる前は、その直前まで市場は平穏なものです。リーマンショックの前もそうですし、日本のバブル崩壊の直前も、その直後であっても多くの人々は楽観的でした。そこまでに至る長い好況に人々が慣れきっているからです。しかしながら危機はある日突然襲ってきても、その前には危機に対しての前触れ、兆候というものが必ず現れているのです。

 中国発のリーマンショックで商品相場が大きく混乱する時があるとすれば、その兆候がところどころに現れているはずで、それが現在の新興国経済の不振や中国元の下落、そして中国からの資本逃避、一部中国各地での不動産価格の下落の始まりに現れていると思われます。一向に上昇しないオーストラリアドルやブラジルレアル、そして2007年高値から3分の1の水準に低迷している上海株式市場などは中国危機が訪れることを暗示しているからこそ、今のような冴えない動きを続けているものと思います。

商品価格の下落が米国経済を強くさせる?

 ゴールドマン・サックスは今年1月12日付けのレポートで<過去10年でほぼ4倍上昇した商品相場のサイクルが反転しつつあり、いずれ構造的な弱気相場に突入する>として商品相場に警鐘を鳴らしています。<シェールオイルの生産の伸びにより米国のエネルギー価格は低水準を維持、結果的に経済成長の加速と政府の景気刺激策の更なる縮小につながる>としています。ここが面白いところで中国経済の凋落による商品市況の悪化は外国経済に依存しない米国にとっては資源価格の下落という恩恵をもたらし、ひいては米国経済を正常化し、それは量的緩和縮小という流れを加速させるわけで、中国経済の凋落は決して悪いことばかりでないことを指摘しています。むしろ商品価格の下落が米国経済を強くさせるのです。

米国ではシェール革命によってエネルギーは自前で賄えるようになります。そうなれば中国経済の減速と相まって新興国の商品への需要は更なる後退となることでしょう。これは新興国通貨の下落を引き起こし、新興国は予算不足となって更なる資源の増産に追い込まれることになると思われます。要はこうして悪くなった経済を立て直すため、更に資源を安値で売るために増産するという悪循環が生まれてくるというのです。こうなると今までの商品の<スーパーサイクル>どころか、<スーパーサイクルの動きの逆転>が生じてくるというのです。ゴールドマンは1月21日に追加的なレポートを発表<鉄鉱石の時代は2014年から終わりを迎える>としました。その理由として中国経済の減速により粗鋼生産が減る一方、中国の需要を見越して開発してきたリオ・ティントの新規鉱山の生産が本格化することを指摘しています。需要が減る傾向なのに供給が新たに増えるのでは値段が下がるのも当然です。ゴールドマンは鉄鉱石相場の100ドル割れ、金相場の1000ドル割れを予想しています。

世界は限りなく紙幣を印刷していますし、このまま世界的なデフレ状態が永遠に続くとは思いません。世界の総人口は増え続け、資源は有限ですからいずれ商品価格は上昇に転じることでしょう。しかし今、これから中国経済の問題が表面化するときが近づいているものと思われます。となるとここからは商品相場の波乱は免れないでしょう。リーマンショック時、WTIの石油価格は149ドルから20ドル台にまで暴落したのです。現在の商品市況はそれほどバブル化してはいませんからリーマンショック時のケースは当てにならないかもしれません。しかし中国の混乱が商品市場に劇的な変化をもたらすことは否定できません。ジョージ・ソロスの指摘の通りこれからの世界経済の最大のリスクは間違いなく中国であり、中国の混乱は商品価格を直撃し、資源に依存してきた新興国に壊滅的な影響を与えることになるでしょう。