<不動産市場の下落は、もし起きたらという段階ではなく、どれだけ激しくなるのかという問題だ!>野村証券の中国担当のアナリストは、中国の不動産バブル崩壊の危機について深刻な見方を示しました。それによれば中国26省のうち、4省で第一四半期の不動産投資がマイナスに転じ、その4省のうち黒竜江省と吉林省ではマイナス幅が25%を超えてきているというのです、そしてこの傾向が今後他の省に連鎖していくのは必至の情勢というわけです。

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中国の不動産バブル崩壊は時間の問題

 中国の不動産バブルの問題は指摘されてきて長いのですが、ここに至るまで一向に深刻な問題は発生してきませんでした。しかし1990年にバブル崩壊を体験している日本人の目からすると中国各地で人の入らないマンション群が山のようにできて全国各地に<鬼城>と言われるゴーストタウンが乱立してきた現状を見るにつけ、中国の不動産バブル崩壊は時間の問題と思っていた人が多いと思います。巷では尖閣を巡る日中関係の悪化から<中国崩壊><日中再逆転>など中国経済の危機を論じている本が山積になり、それらの本の売れ行きはいいようですが、中国経済がこのまま順調には推移せず、深刻な状況に陥っていくだろう、という予感は日本人の多くの人達が共有していることと思います。 

 日本では1990年のバブル崩壊から経済が壊滅的な状況に陥ってデフレ状態となり、20年以上経った今もその状態からの脱却に苦しんでいます。いったい中国にかつての日本のような経済的な苦境が襲ってきた場合、中国国内はどうなるのか、共産党政権は維持できるのか、大きな懸念が沸いてきます。

 それと共にこれも常に指摘されている理財商品や信託と呼ばれる金融商品の問題です。今年から中国当局はこれらの金融商品の一部について実験的にデフォルトを許容するようになりました。仮に自由に市場原理に従ってデフォルトを許容して、尚且つ、今恐れられている不動産バブルが崩壊するケースとなれば、不動産投資に大量に資金を投下し続けた理財商品や信託などの高利回り商品は焦げ付きます。結果的にこれらの金融商品のデフォルトは次々と発生して、金融市場は収集不能に陥っていくことでしょう。そうなると中国当局は重大局面を迎えることとなります。不動産市場や株式市場などの大きな市場については国家が完全にコントロールすることは不可能です、<バブルは終わってからバブルとわかる>とグリーンスパン元FRB議長は述べていましたが、崩壊したバブルほど手が付けられないものはありません。

 中国当局は現在まで日本や米国の歴史を精査して、資本主義の問題や為替のメカニズム、バブルの発生と崩壊などの歴史を徹底的に分析して中国国家の理想的な発展を目指してきました。中国を引っ張ってきた共産党の政策は大まかに言えば中国を順調に発展させ、経済的な成功に導いてきたと言えるでしょう。しかし市場経済においては繁栄が長ければ長いほど、そのつけとしてバブル崩壊などのショックが大きくなるのは避けられない歴史なのです。日本のバブル崩壊や米国のサブプライムローン崩壊から起こったリーマンショックなど好況の後の壊滅的な危機到来は市場経済の持つ宿命のようなものです。それを発生を予見して事前に克服したケースは皆無と言っていいでしょう。不動産が上がると思えば限りなく不動産に投資する、株が上がると思えば行き過ぎた投資を行ってしまう、今の中国では高利回りの理財商品や信託が元金を割れずに償還されるのであれば、それは永遠に続くのだからいくらでもこれらの高利回り商品に資金をつぎ込んでいく、といった投資方法は万国共通の人間の投資スタイルであって、これはバブル崩壊などの手痛い経験を体験しないとやめることができないのです。人間の行動が行き過ぎてしまうのは一種の性のようなもので誰も止めることはできないし、市場や相場の行き過ぎなどもどこが天井であるか、誰もわからないのです。

日本では逆に投資マインドが縮み過ぎ

不動産バブルに沸く中国人とは対照的に日本では逆に投資マインドが縮み過ぎて預金に偏り過ぎるのが問題でそれを国を挙げて是正しようとしている段階です。中国の不動産バブルをみて、その崩壊を感じている日本人ですが、客観的に見れば日本では行き過ぎた保守的な投資マインドはやはり異常と言えるのです。かように投資の世界においても人間の行動は常に行き過ぎ、縮み過ぎを繰り返すのであって、それが古今東西、景気循環を繰り返してきたと言えるでしょう。昔から景気が良くなったり悪化したりを繰り返していたわけですが、最近は金融市場が異常に肥大化してきたために、ここに市場のバブルが繰り返される形が定番になってきました。大きく上げて大きく下げる、バブルが発生してそれが崩壊する、それと共に景気も循環していく、バブルが先で景気が良くなるのか、景気が良くなってバブルが発生するのか、鶏が先か、卵が先か、市場と経済の関係が複雑に絡み合いわかりづらくなっています。

 これら市場経済のあだ花である、<バブル>が長い記録的な経済成長を続けてきた中国に起こらないはずはありません。そのバブルを分かっていても止める、ないしはうまく制御するのは至難の業だったということが、今後、中国における歴史的な不動産バブルの崩壊の発生によって、やはり市場経済の一ページとして歴史の中に記録されることとなるのでしょう。

万科企業の株価の変調

 中国の不動産最大手<万科企業>の株式は2012年の12月に高値を付けて下降局面に入っています。これは中国に上場する企業としては特異な動きでした。普通の中国の株式は中国市場の実勢を示す上海総合指数と似たような動きをするものです。上海総合指数は2007年に6000ポイントの高値を付けてその後2000ポイント割れまで暴落、現在も2000ポイント近辺での冴えない動きを続けていて唯一世界の株式市場の上昇の流れから取り残されています。ところが万科企業の株式の高値は2012年12月となっているわけです、指数は2007年が天井でそこから大きく下がったわけですが、万科企業の株価はその動きに逆行し、その後も上げ続けて一般的な株が高値を付けた2007年に比べて5年も遅れて高値を付けたところに注目です。いわば中国の不動産バブルの象徴的な存在であった不動産会社の雄、万科企業だからこそ、中国株全体が下がる局面にあっても上がり続けたといえるでしょう。ある意味万科企業の堅調な株価は中国における不動産バブルの拡張をそのまま映していたといえるでしょう。その万科企業の株価が昨年から変調となってきました、株価が2012年12月を高値としてその後大きく下がってきたことは、既に中国の不動産バブル崩壊を予見した動きだったとも言えるでしょう。

 昨年末までは上がり続けた中国の都市部の住宅価格ですが、今年に入ってから変調が始まってきたのです。それは極端に取引量の減少が始まってきたということでした。今年1月の北京、上海などの主要都市を含む全国43都市のうち、37都市において1月の住宅成約件数が前月比で激減してきたのです。北京は36%減、上海は30%減、大連は53%減、深センは44%減という有様だったのです。値段の下落は報告されていませんでしたが、この時点でまずは取引が激減してきた様子が伺われました。この取引量の激減は市場が天井を打ったケースでよく見られることです。これが大きなサインでした。

 これらの動きは昨年末売れすぎた一時的な反動という見方もあったのですが、最近出てきた1-3月期の統計数字をみると明らかに中国全土で不動産市場は変調をきたしていることがわかります。中国の国家統計局が中国全土の1-3月期の不動産販売額を発表しましたが、これが前年比で5.2%減となりました。そして未販売物件は23%も増加してきたのです。更に住宅着工面積で比較すると25%減少しているというのです。

不動産関連の税収が大きく減少

 更に5月12日の中国の財政省の発表によりますと、4月の不動産関連の税収が大きく減少してきたというのです。不動産売買に応じて徴収する営業税は4.2%減少、同じく不動産会社からの企業所得税も3.1%減少したということです。財政省はこの原因について<景気減速による住宅販売の落ち込みがきいていて、住宅販売額が下落したことが影響している>とコメントしました。当局としては初めて全国的な不動産市況の変調を認めた形です。

 これを受けて、中国当局が景気対策に打って出るという見方がでてきて株価が動意づいてきました。しかしそんな簡単に不動産市場の下落の勢いを止められるものでしょうか? 中国の不動産市場が活況だったのはリーマンショック後4兆元の景気対策を打ち、それを全国的に広げてインフラ整備にまい進したことが効いています。ある意味中国経済の拡大がリーマンショック後の世界的な景気回復の機関車となっていたのです。公には4兆元の景気対策でしたが、実際は中央政府が音頭を取って地方に対しても積極的なインフラ整備を奨励しました。中央政府は国営銀行を通じて徹底的にインフラ投資のための融資を奨励、地方政府もその要望に答えました。まさに官民挙げてのインフラ投資へのまい進だったのです。結果として2009年以降は中央政府、地方政府、企業合わせて約150兆元、日本円にして2500兆円という未曽有の投資を行ってきたのです。こうして中国では世界中の資源を買いあさって、たゆまないインフラ投資、設備投資、不動産投資のオンパレードが続いてきたのです。これらは主に借入金でなされてきました。JPモルガンのエコノミストによれば、この結果として中国の政府、企業、家計の債務は急速に膨らみ、2012年には対GDP比で187%となり、2000年の105%から急膨張したのです。ちなみに日本のバブル時の同じく債務の増え方と比較すると、日本のケースでは1980年の127%から1990年の176%への拡大で、これだけを比較すれば中国は日本のバブル時を上回るような債務拡大によって投資が促進されバブル拡張がなされてきたと言えるでしょう。

ひとえに不動産価格が上昇し続けたという現実がこれを支えてきたのです。このような膨大な債務の拡大は日本のバブル時もそうですが、不動産価格が上昇し続けることを前提に計画されていますので、前提が狂って不動産価格が下落し始めると手が付けられない状態となっていくのです。日本のバブル時を思い出していただくとわかりますが、当時は日本の土地価格は永遠に下がることはないと考えられていたのです。狭い国土に1億を超える人口を有し、しかも山間部が多いという日本の特殊事情を考えれば日本では土地は永遠に貴重価値と思われていました。ところが土地神話、バブルは崩壊したのです。日本はそれ以降、後遺症に苦しみ20年以上に渡って実質GDPの拡大がなされていないのですが、中国がバブル崩壊で日本と同じような20年以上に渡る経済停滞の苦境に陥らないと誰が言えるでしょうか?

地方政府の構造的な問題

 また中国では地方政府がその収入を土地売却に頼り過ぎてきたという構造的な問題があります。右上がりが続いた土地価格を背景に地方政府は不動産開発に血眼になってきました。中国はリーマンショック後怒涛のような開発ラッシュで景気拡大を行ってきたことは指摘しましたが、地方政府はその一端を担ってきました。不動産開発では地方政府は農地を安く買い上げて、開発業者へ売却、宅地や商業地として開発することによって莫大な土地譲渡収入を得てきたのです。この土地譲渡収入は地方政府の財政を潤わせてきました。2008年からは倍々ゲームの勢いで増え、土地譲渡収入は2008年の1兆元から2013年には4兆1000億元に達するに至ったのです。そしてこの勢いは今年1-3月期も衰えず、土地譲渡収入は今年1-3月期は昨年比4割増となったのです。地方政府はこの土地譲渡収入が地方の財政収入のおよそ6割に達しているのです。一方で地方政府が行うインフラ整備や不動産開発は借入金で行ってきたわけでその額は鰻登りとなっていました。リーマンショック直後は国営銀行が資金供給を行ってきましたが、その後この資金供給を支えたのが理財商品や信託などシャドーバンクです。こうして現在では借入金は積み上がる一方で地方政府が直接責任を負う債務だけで2013年6月時点で10兆元を超えているのです。地方政府は実質的には土地の転売を繰り返すことで収入を得られなければ立ち行かない状況となってしまいました。しかも借入金の担保は当然不動産なのです。この状態で不動産価格が下落し始めれば、すべては逆回転をはじめ、担保キレ、借入金返済不能となり収集のつかない状態に陥っていくのは必至です。ですから私はかねてから中国の不動産バブルの問題は根が深く、中国経済に関係するものには投資を控えた方がいいと警告してきました。

 また現在、住宅価格の下落の大きな要因として、その供給の過剰が指摘されてきています。特に酷いのが地方の中小都市です。北京や上海、深セン、広州などといった大都市でなく、中国で言う、いわば3級や4級都市が住宅投資に熱心なのです。先ほど指摘したように地方財政を潤わせるための開発を恒常的に続ける必要があったので、現実を度外視した開発が続けられてきたのです。日本でもかつては地方の経済を活性化させる手段は公共投資のばら撒きだったわけですが、中国ではそのような政策が日本のスケールの数倍となって行われてきたと思えばわかりやすいでしょう。

都市部の過剰な住宅供給

野村証券のアナリストによりますと、全国的に見て中国の都市部の住宅供給の勢いが都市に流入する人口の増加率をはるかに凌駕しているというのです。かつて2000年に供給された都市部の住宅は床面積で約5億平方メートルでした。ところが昨年2013年には供給量は26億平方メートルと5倍以上に拡大しています。この増加率は年率で13.6%ですが、一方で都市に流入する人口の増加率は年率で3.7%だというのです。このギャップは強烈です。この住宅の供給のアンバランスな拡大は今も続いているわけですが、この勢いでいくと都市人口の増加に見合った一人当たりの住宅の床面積は今年は120平方メートルに達して、日本や英国の都市住民一人当たりの床面積35平方メートルをはるかに凌駕してきます。更にこの勢いで2017年まで供給を続けると一人当たりの床面積が203平方メートルにまで拡大するというのです。203平方メートルと言えば60坪を超える豪邸です。格差が激しく貧富の差が拡大している中国の都市部にあって平均して60坪のマンションに住めるようになるなどということはあり得ないでしょう。既に中国の生産年齢人口(15歳から64歳まで)は減少に入っています。余りに現実を無視した住宅供給が行われているとしか言いようがありません。しかしこのような勢いで建設ラッシュが続いているのです。中国全土で人の入らないゴーストタウンが続出するのも当然です。

 そしていよいよ地方都市から不動産価格の下落が始まってきたのです。それは現在北京や上海にまで及ぼうとしています。住宅価格の値引きが全国に連鎖してきました。今後中国当局は不動産価格の一気の下落を阻止するために様々な手を駆使してくるでしょう。しかしこれだけ大規模な不動産バブルが崩壊した時点で効果的な政策がバブル崩壊を止めたケースはありません。日本の不動産バブル崩壊も止められず、土地の価格はバブル時に比べて10分の1や20分の1になるケースが続出して、バブル崩壊後7年が経過して金融危機が勃発、山一証券、三洋証券、長期信用銀行、日本債券信用銀行と連鎖的な倒産が相次いだのです。米国のケースではリーマンショックからほとんど全米の主要行が公的資金を導入されるに至ったのです。中国当局はこれらの歴史をみながら自らはバブル崩壊のソフトランディングを目指していると思われますが、実情は日本のバブル崩壊前夜、米国のリーマンショック前夜のように深刻な状況です。特に不動産バブルの崩壊は即座に理財商品や信託などの金融商品を直撃するのが必至だからです。中国にとって不動産バブルの崩壊は死活問題に発展する可能性を秘めています。処理を間違えば共産党政権の崩壊にまで発展していくことでしょう。いよいよ始まってきた歴史的な不動産バブルの崩壊に中国政府はどのように対処するのでしょうか、見ものです。

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