先週は世界の株式市場が大きく急落するという大混乱に見舞われました。先々週まで中国上海市場の混乱から新興国や資源国や商品価格などの下げは止まらなかったのですが、日米など先進国は比較的落ち着いた相場展開が続いていたわけですが、上海市場の一段安から欧米の市場に株の下げが連鎖するに至って、ついに日本の市場も大波が押し寄せて急落の憂き目にあってしまったのです。震源地の上海市場は高値の5000ポイントから3000ポイント割れにまで入って時価総額に換算すると約600兆円という膨大な額が失われました。600兆円と言えば日本市場の時価総額です、これだけの額が失われては中国経済の屋台骨を揺るがす影響がないわけはありません。またニューヨークダウも24日には一時1000ドルを超す下げに至るなどリーマンショック以来の混乱となりました。日本市場でも連日の安値となって日経平均は2万円の大台割れから一気に18000円台も割れるという大荒れの展開になったのです。また円相場は一時116円台に突入するなど株、為替とも予想もしなかった大混乱となりました。

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都合の悪い情報は封印されています

 日本の株式市場でも先物による大量の売りから相場の崩れを受けて多くの信用取引による追加保証金の請求、いわゆる追証が大量に発生した模様で下げに更に拍車がかかったのです。その後さすがに下げ過ぎということで今度は急速な戻り足となり、日経平均は直近で見ると2800円下がって1400円戻すという荒れた展開になっているのです。

 一連の動きはやはり中国経済に対しての失速懸念が市場を覆ったことが主因です。市場は不透明さを最も嫌うものですが、中国の場合は都合の悪い情報は封印されていますので悪くなってくると投資家としては余計に中国経済に対しての不安感が増大するわけです。ただ今回の下げは米国をはじめいきなり世界に連鎖してきたわけで、それにはそれなりの隠された主因があったかもしれません。ここにきて中国による米国債の売却観測が報道されてきました。中国は4兆ドル、約480兆円に上る外貨準備を持っていたわけで、そのうちの米国債の大量売却が事実であれば、それは衝撃的な事実です。いったいなぜ、中国は米国債を売却するに至ったのか、今後も中国は米国債を売却し続けるのか、世界の株式市場や米国の市場はどうなっていくのか、そして震源地の中国は何処に向かっていくのか、考えてみたいと思います。

 このレポートでもここ数回は中国のことを取り上げることが多くなっていますが、やはり今回の世界的な株の混乱も、今後の世界経済の見通しも中国の動向抜きで考えることはできません。中国の今までの動向を振り返りながら問題点を探ってみたいと思います。

中国の報道なり統計に信頼性がない

 不安感が増大するのも中国の報道なり統計に信頼性がないからです。これは今に始まったことではありませんが、今回の混乱のように事態が切迫してくると、情報や統計が信頼できないことは投資家を惑わせてしまいます。勢い一端投資から撤退という選択を与えてしまうことも多いでしょう。

 まずは毎度のGDPの発表ですが、これも中国の発表は当てになりません。中国は2015年のGDP目標を7%と設定していますが、今年の第1四半期、第2四半期のGDPは判を押したように目標と一致する7%成長でした、また失業率は毎四半期4.1%です。このような目標と実際の統計数字が一致し続けることが毎回続くわけはありません。

李克強首相は<中国のGDP統計は人為的なものなので信頼できない>と述べた話は有名ですが、それで李首相は最も信頼を持って参考にしている中国の経済統計は、銀行の融資残高、電力消費量、鉄道貨物輸送量、の3つである、ということで、この3つを中国の経済を図る指標として重宝にする流れが定着してきました。これらは皮肉なことですが、中国経済を図る最も信頼できる指標として<李克強指数>と呼ばれるようになったのです。この<李克強指数>によると、今年の銀行の融資残高は14%の伸び、電力消費量はわずか1.3%の伸び、鉄道貨物輸送量に至っては10%のマイナスになっているというのです。しかも銀行融資の伸びにもかかわらず不良債権が爆発的に拡大しているようで銀行の融資は実体経済よりも株や不動産への融資や追い貸しなど不良債権のための手当てに使われているケースも多々あるということなのです。電力消費量や鉄道貨物輸送量などは経済活動の縮小をはっきりと示しているもので、これら<李克強指数>からは明らかに中国経済の減速が見え、これらの指数を基にイギリスの調査会社、キャピタルエコノミストが中国の直近の成長率を査定したところ年率4.1%成長だったとのことです。多くの専門家の意見も5%成長しているかどうか疑わしいというところで、少なくとも7%成長などあり得ないという専門家の意見が大半です。

需給ギャップをどのように埋めるのか?

 過剰設備も酷いことになっています。特に自動車の生産能力は年間5000万台に達してくるのですが、今年の中国の新車販売は2500万台を割れると言われています。既に生産は怒涛の勢いで落ちてきましたが、この需給ギャップをどのように埋めるのでしょうか。リーマンショックや日本のバブル崩壊など日本でも米国でも経済の大きな落ち込みやショックはあったわけですが、中国の場合は製造業に従事している就業者が1億5000万人もいるわけでこれは米国の10倍以上、日本の15倍以上です。中国は人口が多いのが強みですが、今度は深刻な不況が来て失業者が溢れるような混乱が来ると国内が収集つかなくなる可能性が高いのです。巨大な人口がかえって問題を大きくしてしまうわけです。現在の中国は自動車だけでなく、鉄鋼やセメント、アルミ、板ガラスなどあらゆる製造分野で過剰整備状態となっています。

 リーマンショック後、中国は4兆元、日本円にして約80兆円にも上る経済対策を執行することによって経済をいち早く立て直すと共に、そこから生み出した巨大なインフラ需要によって膨大な資源需要を作りだし、商品価格の高騰をもたらして多くの新興国や資源国の経済を潤したのです。リーマンショック後はこの中国による膨大な需要の創出と日米欧などの怒涛の金融緩和によるマネーの印刷によって世界の経済を回復させたのでした。まさに米中の巧みなタッグに乗り、世界中が一致してリーマンショック後の世界の景気を回復させてきたともいえるわけです。

 そのリーマンショックから7年経って、いよいよ米国経済が本格的に回復して、さてこれから正常化に入る、と思われたその瞬間に、今度は機関車役だった中国経済の急失速が起こり中国発の大混乱が生じつつあるのが今です。

 中国としても4兆元の景気対策を行ったのはいいですが、その挙句、中国各地に使わないマンションやショッピングセンター、車の通らない高速道路など、ゴーストタウンが中国全土にできてしまう、という有様になってしまいました。この状態で自動車や鉄鋼など基幹産業の過剰整備がはっきりしてきて、これが今、整理しないとどうにもならないところにきていることは明らかなのです。

 通常、日米などの先進国であれば、過剰設備になったものは廃棄するとか、売却するとか、またそこの従業員に関しては解雇していくとか痛みを伴う措置を講じて、過剰な設備や人を縮小させていくのが普通ですし、そのような改革を行ってきたわけです。最近でも日本では半導体や液晶、プラズマテレビなど、大ナタを切って改革してきたわけです。

最も難しい局面に中国経済は直面しつつある

 一連の構造改革が一番難しいわけで、従業員を如何に解雇していくか、如何に事業を転換していくか、など工夫が必要とされる最も難しい局面に中国経済は直面しつつあるのです。この大改革が中国にはできません。余りに巨大になった過剰設備や過剰な人員を大ナタを切って縮小させることができていないのです。ところが<新常態>と言って高成長から中低成長に移行する局面で、いわばこの一番難しい大ナタを切るところで、中国政府は立ち止まってしまったのです。そこで中国政府がやったことは、この厳しい局面を何とか和らげようと、株高を演出して、人々に株高によって利益を与え、この厳しい転換点を人々の懐を潤わすことで乗り切ろうという判断だったと思われます。そのために中国政府は株高を目論み、その計画に沿って人民日報などで株高を煽ってきたわけです。

 ところがこの政策が裏目に出て何と株価が暴落、どうにもならないと対処不能になった中国当局が行ったことは、今度はあろうことか、株の後先考えない買い支えでした。前のレポートで指摘したように総額100兆円近く使ったとも噂されていますが(当局は全く情報開示しないので不明)、結果的に、株の買い支えは成功せず、その政策を放棄するに至ったわけです。その結果として上海市場の株買い支えの水準とみられていた3500ポイントを割れるに至って相場は更に暴落、世界に伝播してしまったというわけです。

 実際PERが60倍という超割高な水準で株価を買い支えることに無理があるのは明らかです。この辺のことであれば先進国の関係者であれば当然の判断であって、中国当局の株価の買い支えはそのやり方も買い支えた水準も、またそれ以前にバブルをあおったやり方も全く政策として稚拙というしかなく、中国当局の政策立案を、執行者の愚かさを天下に晒しているようなものとしか言いようもありません。 

 そして今回その次の局面が来ているわけです。万策尽きて人民銀行による元印刷した額は明らかになっていませんが、もうこれ以上の元の印刷も控えるべきだという判断の下、行ってきたことが実は米国債の売却による資金の確保という最後の手段なわけです。

 元々元相場の切り下げということで元をドルに対して、いきなり4.5%切り下げて、世界の不評を買った中国当局ですが、この政策によって前のレポートでも指摘した通り、パンドラの箱を開けてしまったようなのです。というのも元の切り下げによって世界の中国を見る目が変わりました。動かないと思っていた元相場が動くと思った瞬間から、世界の目は中国の景気減速と元の先安感に釘づけとなりました。皮肉なことですが中国は今までより数倍の資金を投入しなければ元相場を維持することができなくなったのです。その結果中国からの資本の流出が止まらなくなってきたわけです。中国当局はやむなく、元の買い支えに必死になり、そのためにはドルを売って元を購入しなくてはなりませんから、ついには外貨準備で大量に保有している米国債に手を付けて売却して、その代金で元の相場を買い支えるという手に打って出たのです。

 となると中国経済の規模も今までの中国の溜めてきた外貨準備も膨大なのでたちが悪いこととなります。中国は7月に外貨準備を前年同月比5000億ドル(約60兆円)以上取り崩しました。また人民銀行は8月11日の元切り下げ以来、1000億ドルから2000億ドルの資金を元の防衛に使い、ドルの外貨準備を取り崩している可能性が高いというのです。8月26日債券王ビル・グロスはツイッターで<中国は米長期債を売っているのか!>とつぶやきました。本来なら株の急落で米国債はじめ債券市場に大量の資金が流れるはずなのに米国債はじめ債券が一向に高くならず、どこからともなく大量の売りが出ていたからです。

中国がため込んできた外貨準備は約4兆ドル?

 中国がため込んできた外貨準備は約4兆ドル、日本円にして480兆円という途方もない額です。これは米国が行ってきたQE1、QE2、QE3を合わせた総額約400兆円を凌駕するのです。これでは中国が本気で米国債の売却に走ってきたらたまりません。まさに早耳筋が中国の米国債売却のニュースをつかんで一気に米国の株式市場を売りたたき、その勢いで日本の市場も売りたたいてきた可能性も否定できません。  

 現在の報道ですと、中国側は米国側に通達して米国債を売却したと言っているようですが、詳細は明らかになっていません。仮に事実であれば今後米国が出口戦略として金利引き上げを行うのは難しくなってくる可能性もあります。 

 とにかく中国の政策は余りに場当たり的で愚かしいとしか言いようもありません。中国は今まで完璧なまでに巧みな経済運営や国家運営を行ってきました。そしてそのスタイルは民主主義を凌駕すると自負してきました。ところがここで中国の政策の問題点がはっきりしてきたようです。

 秘密主義、エリート主義も中国という体制の中で完全に壁にぶち当たり、共産党体制の情報閉鎖や自由のなさが今回過渡期にある中国の変化を妨げているように思えます。株式市場という最も自由な市場において、自由を知らず、お上だけに頼って、お上の指導で完璧にうまくいくはずという論理が破たんすることが中国のエリートは理解できていないようです。彼らは極めて優秀ですが自由を知らず、議論を知らず、情報公開を行わないので自分達の致命的な問題点がわからないようです。彼らは最も自由を尊び、自由でなければならない、<市場>というシステムを本当の意味で理解、統括できないのです。 

 株価を自由に上げられると思い、今度下がったら強引に買い支えられると思い、市場も共産党の思い通りにコントロールできるはず、ととんでもない勘違いを中国のエリートはしていたようです。中国にも世界にまたがる金融のプロや欧米金融の中枢で働いてきたような喫水の金融エリートが大勢いるはずです。彼らは母国の事を思い、中国の金融政策を司る監督当局に就職していったのです。高給を投げ打って国家の職場で働いていた金融エリート達です。実は彼らは仕事を行ううちに中国の体制に絶望して、ほとんど中国国家に与えられた職場からは離れていってしまったということです。結果的に中国では金融監督当局においては次々と優秀な人材が去って行って、ついには金融監督当局に金融の素人ばかりが残ったというのです。こうして監督当局に優秀な人材がいなくなって、今回のような株式市場の混乱期に真っ当な政策を提言できる人材が皆無となってしまったというのです。 

 一連の流れを考えると、政治的な体制の問題にぶち当たります。中国は言論の自由がないために闊達な議論が生まれず、また今回の天津の事故でもわかるように問題を封印して蓋をしてしまうことだけ考えているので、問題解決の道が開けないような体制下になっていて、また企業も物まねならいいですが、自由で闊達な議論がないのでイノベーションも生まれてこないようです。この体制下で今までの発展途上ならうまくいったでしょうが、これからの高成長から中低成長への最も難しい展開には対処不能となってきたようです。

 中国は9月3日、抗日戦争勝利70周年のパレードを行います。そこに向けては習近平主席に恥をかかせてはならない、という考えの下、再び市場の混乱を回避するために株の買い支えと為替の安定を一時的に目指すようです。国家の大計よりもお上の動向ばかり見て保身のため全員が政策遂行を行う体制です。まさに<パレード開催前の束の間の安泰>が生じているようです。

 今月末、中国の習近平主席と米国のオバマ大統領の首脳会談が予定されています。ここで元の再切り下げの問題や中国の米国債の対処など、極めて重要な問題が話し合われると思います。現在米中の間で水面下において様々な話が行われていることと思われ、未だに習主席訪米の日時は発表されていません。中国は行き詰まりから脱することができるのか? 元相場はどうなっていくのか? 米国は米国債の売りを許容するのか? 米中の動向からは目が離せません。この秋は極めて重要な時期となりそうです。

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