<非常に過酷な環境だ!>英中銀のカーニー総裁は現在の世界経済の置かれた袋小路の状況を嘆いたのです。ペルーのリマで開かれたIMF年次総会では世界の中央銀行総裁や財務大臣など錚々たるメンバーが集まっていたのですが、そこでは世界経済に対しての楽観論は消え殺伐とした危機感だけが漂っていたのです。とにかく今、世界の景気を引っ張るけん引役が見当たらないのです。今までは新興国、これからは米国からと思っていたのですが、順調と思えた米国も思惑通り金利を引き上げることができません。ドル高の影響がジワリと効いて、製造業が失速気味、9月の雇用統計は思わぬ悪化となりました。

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頼みの米国もここにきてついに景気動向が変調に

 新興国や資源国は目も当てられないほどの酷い状況です。ブラジルやロシアなどは資源価格の下落を受け、財政がひっ迫してきたというのに、自国のインフレ傾向は収まらず、マイナス成長に陥っていくのに物価高が止まらず金利を下げることもできません。インフレと景気悪化が共存するスタグフレーションという悲劇です。

 頼みの米国もここにきてついに景気動向が変調になってきてしまったのです。今年の利上げは確実で春にやるか、それとも秋か、と年初には予想されていたのに、先月9月の段階ではFRBは中国経済をはじめとする新興国経済の減速の影響を見極めて、それが米国に及ぼす度合いを見計らってから金利引き上げを決める、というスタンスでした。ところが10月2日に9月の雇用統計の結果が出ると雰囲気は一変したのです。春までは雇用統計の結果を発表するたびに前月や前々月の雇用統計の数字を上方修正していたのに、今回は何と7月8月分を下方修正する始末です。明らかに夏場から米国の景気を取り巻く環境が急速に悪化してきたのです。製造業の景況感を写すISM景気指数、これは日本や中国などのいわゆるPMI(購買担当者景況感指数)と一緒で、単に企業の購買担当者に景気の先行きをヒアリングした結果を写している指数なのですが、実はこの指数は将来の企業受注動向がはっきり示されるということで、経済指標の中でも極めて即効性もあり、企業動向が正確に把握できると重宝にされている重要な指数なのですが、このISM景況感指数の製造業指数は急落してきていて、判断の分かれ目の50ポイントを割れる寸前まで下がってきているのです。そして同じくISM景況感指数の非製造業指数も極端に急降下してきているのです。米国はドル高で製造業は影響を受けているが、個人消費は極めて順調で、小売りなど非製造業は全く順調に推移している、という今までの見方が一変し始めてきたのです。

 米国経済は悪化する中国経済の影響など多くは受けないので、例え中国経済が失速してそれが新興国全般に及ぶような事態になっても米国経済の強さは変わらないといった米国の圧倒的な強さを信じた神話が崩れ去ってきたのです。やはり米国経済といえども世界的な流れ、中国経済の失速からくる影響は免れることはできないのだ、という悲観的な見方が急速に台頭、とても米国は金利など上げられる状態にない、今後米国は世界経済の影響を受けてますます景気が悪化していく可能性が高まった、とても年内の利上げなど不可能、という見方が大きくなってきたのです。

 これを証明するかのように先日から出てきた米国企業の決算は予想を下回るものが多くなっています。まずはいつものように先陣を切って発表になったアルミ大手のアルコアの決算は予想に届きませんでした。中国経済の減速から生じている世界的な資源価格の下落からアルミ価格も急落、アルミ価格は2008年のピークに比べて現在は半値以下、昨年から見ても20%下落しています。アルコアもその影響を大きく受けて予想以上の減益となったのです。アルコアは会社を2分割して不採算部門を切り離してこの苦境を切り抜けようとしています。また中国経済や新興国経済の影響を最も大きく受けると言われている建機の業界では最大手のキャタピラーが既に決算を前にして収益見とおしを大幅に下方修正、下方修正するだけでなく大々的なリストラに打ってでるのです。キャタピラーは今後全従業員の1割弱にあたる1万人を人員削減するということです。また民間石油会社としては世界最大のエクソンモービルも5割近い減益になるということです。米国企業は現段階で7-9月の決算は前年同期比4%の減益が予想されています。実は日本もそうですが、企業の決算予想は概ね保守的に出されることが多いのです。蓋を開け見たら予想より良かったという方が印象がいいですし、企業も決算の予想を保守的に出すのが普通なのです。ですから米国企業は4-6月期決算も事前には3%の減益予想が出ていたのですが、蓋を開けてみたら1%の増益でやはり米国経済は底堅いという評価になっていたのです。ところがさすがに今回は4-6月期のような予想を上方修正して米国経済の強さを再認識させるという風にはなりそうもありません。アルコアから始まった7-9月期の決算は次々と予想を下回ってきて、夏からの米国企業の置かれた厳しさを再認識することになりそうな気配です。仮に7-9月期の決算が減益になった場合は6年ぶりのこととなります。まさに米国の企業にも景気の急速な落ち込みがあっという間に襲ってきた模様です。

日本の街角景気指数は2ヶ月連続の悪化

 日本も世界的な流れの例外ではありません。ここにきての経済指標の落ち込みは際立ってきているのです。街角景気指数は2ヶ月連続の悪化、街角景気指数はタクシーの運転手や小売業など経済の最前線で働く人達の感覚ですから最も当てになる指標ですが、これが評価の分れ目となる50を下回ったままです。また消費者物価自体はマイナス傾向で物価高の兆候は指数の上では見られないのですが、実際は食料品や日用品など必需品の値上げが目立っているために消費者の生活防衛姿勢も目立ってきたようです。消費者の消費動向を示す消費者態度指数、これは<暮らし向き><収入の増え方><雇用環境><耐久消費財の買い時判断>の4つを指数化して消費者の動向を図るものですが、これも2ヶ月ぶりに低下してしまいました。賃上げによって確実に労働者の収入は増えているのですが、実際には年金生活者とか派遣労働などで賃上げの恩恵を受けていない層も多いようで、賃上げがそっくり消費拡大につながっているとも言えないようです。

 企業の生産や輸出にも陰りが見えています。8月の鉱工業生産は予想に反して0.5%のマイナス、中国経済の減速から建機や自動車、スマホなどの輸出や生産が落ちてきています。日銀は10月初めに発表した日銀短観で、日本経済は生産や輸出に停滞がみられるが、賃金上昇と物価上昇の好循環は続いていると述べていました。そして特に設備投資においては拡大がみられると報告していたのですが、実はこの設備投資に急ブレーキがかかってきているようです。というのも設備投資に6ヶ月先行すると言われている機械受注が8月は5.7%の大幅な減少となりました。計画段階では設備投資を行うと計画していた企業が昨今の情勢の変化を受けてどうも設備投資に対して慎重な姿勢を取るようになって計画通りの受注が出てきていないようです。昨日政府は月例経済報告で景気判断を1年ぶりに引き下げました。

 このような情勢下、やはり物価の上昇も思ったほどでなく日銀の目指している消費者物価2%の上昇はなかなか達成が難しい情勢となってきています。物価目標の達成が難しいのに必需品である食料や日用品などだけが上昇してしまうのも皮肉な現象です。また上場企業の倒産も出てきました。創業120年を誇る老舗の船会社、第一中央汽船は中国経済の減速からくる運賃市況の低迷で赤字運行が続きついに民事再生法申請に追い込まれてしまったのです。

 一連の流れが明らかになるにつれ、皮肉なことですが日本株は緩やかに上昇し始めています。既に夏からの下げである程度の景気悪化は相場の中に織り込んできたようで、今度は景気悪化という事象を受けて、政策に対しての期待感が底流で盛り上がってきています。米国では金利引き上げが遠のいてきたということでゼロ金利政策が続く可能性が高いという見方の下、再び金融相場への期待も出てきています。

 日本では6日、7日の日銀の政策会合で追加緩和の発表の期待もありましたが、期待は空振りに終わり、日銀は現状維持のままということで政策変更はありませんでした。それでもその発表に失望することなく株式市場はプラスで終わったのです。このような追加緩和の期待がはがれたにもかかわらず相場が反対に上昇したケースはアベノミクス相場が始まってからは初めてのケースと言っていいでしょう。それだけ今月末の日銀の政策会合での追加緩和期待が大きくなっている証左と言えるでしょう。

何が株式相場を押し上げてきた原動力だったかを振り返っておく必要がある

 中国経済の減速から明らかに世界的な影響が広がってきてついに米国経済も変調、日本経済にも景気悪化の波が押し寄せてきたというわけでどうしても投資に対しては様子見というムードが広がってしまいます。

 しかしここで再びこれまで何が株式相場を押し上げてきた原動力だったかを振り返っておく必要があるでしょう。アベノミクスが始まってから主に実行されたことは構造改革よりも異次元緩和、いわば常軌を逸した日銀による金融緩和政策が効いたわけです。緩和政策によって円相場が安くなり名目上の利益がかさ上げされて日本企業の収益は各段に改善したわけです。この金融緩和は今後も追加的な緩和が考えられ、とてもこの緩和策を停止、縮小することなど考えられないのです。現在追加緩和の思惑がありますが、追加緩和するにせよしないにせよ、現状はとても緩和策を止める、縮小するなどという政策は取られるはずもありません。そして来年2016年中に劇的な変化が起きて緩和策を縮小することも現実問題として不可能です。というもの政府は2017年春の消費税導入を計画して公約しています。仮に2016年になっていくらか景気が回復してきたからと言っても即座に金融緩和策を縮小するようなことを行えば、今度は2017年の消費税増税が危うくなってくる可能性もあります。要するに政府は2017年春の消費税増税まで緩和政策を止めることなどできるはずがありません。そして2017年春に首尾良く消費税引き上げが行えるような良好な経済情勢を作れたとしても、増税後の反動があるのは明らかなので、金融緩和政策を止めることなどできません。要するに今後日本経済が政府日銀の思惑通り極めて順調に推移したと仮定したとしても緩和策は2018年くらいまでは最低でも止めることなどできるはずがないのです。

 その時に日銀のバランスシートはどのくらい膨らんでいると思いますか? 今でさえ主要国の中で突出した日銀のバランスシートですが、仮に2018年末まで現在の緩和策が続いたと仮定すると日銀のバランスシートは460兆円となって(毎年80兆円ずつ拡大)、日本のGDPに限りなく近づくのです。米国でさえGDPの22%しかないバランスシートが日銀の場合は何と100%に限りなく近づくわけです。そこでも緩和政策は止めることなどできるはずがありません。止めれば国債の買い手がいなくなり国債の暴落、金利急上昇を招く可能性が高いからです。

 私は一貫して日銀の政策に出口はない、と主張してきました。米国がいち早く金融緩和策の出口に入れるかと思われましたが、どうも再び出口が遠くなってきたようです。ましてや日銀の異次元緩和には永遠に出口がない可能性が高いのです。日銀がいくら金融を緩和しても日銀の当座預金ばかり膨らんで一向に市中に資金が回らないと言われています。しかしそうでしょうか? 日銀のバランスシートがGDPの100%に至るような事態にまで拡大しても何も行らないのでしょうか? 10月2日に日銀が発表した9月の資金量をみると紙幣の発行量が前年比で5.9%増の91兆円と史上最高額に達しているのです。確実にマネーは染み出てきているのです。思わぬ世界的な景気減速の波が襲ってきて日本の金融緩和は終わるどころか永遠といっていいほど続く様相です。少なくとも本当のインフレ、本当の景気拡大がはっきりするまで日本においては常軌を逸した金融緩和が続けられるのは必至の情勢です。確かに世界的な景気は中国の景気減速の影響で悪化していくでしょう。また景気減速のあおりを受けて様々な不確実な相場の揺れが生じることでしょう。しかし日本においては確実にマネーの異様な増刷が続けられること、そしてそれが止められないことを忘れてはなりません。一連の政策の帰結は何があろうともインフレでしか終息しえないのです。まだまだ紆余屈折と波乱は続くでしょうが、基本的な株式市場の上昇波動は少なくとも日本に本当の好景気、ないしは真正のインフレがやってくるまでは止まるはずがないのです。

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