先週市場は中国経済の指標に一喜一憂しました。一つは14日に発表になった9月の貿易統計ですが、ここで中国の9月の輸出額が前年同月比10%減と市場予想を大きく下回ったため、しばらく小康状態にあった中国経済へ懸念が再びぶり返してきたのです。その翌日は全く逆の中国経済の好調さを示す指標が出たのです。これはやはり9月の数字なのですが、中国の卸売物価指数が4年7ヶ月ぶりにプラスに転じたというニュースでした。中国では経済成長の鈍化と過剰生産による影響で卸売物価、いわゆる企業間で取引する物価が全く上昇しない状況が5年近くに渡って続いてきたのですが、そのトンネルから抜け出したということで、前日とは打って変わって中国経済の回復ぶりが強調されたのです。この二つの相反する指標は何を意味しているのでしょうか? 中国懸念は遠のいたのでしょうか?

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中国は国内経済が抱える深刻な矛盾点を先送り

 このレポートでも中国経済に対しての懸念は何度も指摘してきましたし、今回の指標も深読みすれば中国経済が決して好調に推移してきたということはありません。引き続き中国は国内経済が抱える深刻な矛盾点をあらゆる手を使って先送りしてきているだけで、このツケはいずれ中国経済のハードランディングとなって世界を震撼させる時がくるのは必至と思われます。中国の最近の経済指標を分析すると共に如何なることが行われてきているのか精査してみましょう。

 まずは驚くべき卸売物価の上昇転換です。この卸売物価の上昇をけん引したのは鉄鋼と石炭の値上がりなのです。鉄鋼価格は前年同月比10.1%の上昇、その原料となる石炭の価格は前年同月比4.1%の上昇と大きく上昇して、この二つの指標の大幅好転で卸売物価指数を0.8%も引き上げたことによって全体の指数もプラス化したというわけです。何か違和感を覚えないでしょうか? 鉄鋼生産に関しては長く中国の過剰生産が指摘され、先月の中国杭州でのG20においても大きな議題となりました。依然中国の鉄鋼生産は過剰状態が収まらず、その上、口先ばかりで一向に中国では生産設備の廃棄が始まっていません。それなのに何故、その過剰生産の権家のような鉄鋼製品の価格が異常に上昇するのでしょうか? ここに中国経済の一つの問題点と裏のからくりが見えるわけです。

 以前のASAKURAレポートで指摘したこともあるのですが、中国の商品市場は異様な盛り上がりとなっているわけです。特に株式市場などでは当局の締め付けがきつくて投資家が思うような売買ができません。買うのはいいが思うように売ることができないわけです。中国では株式でも不動産でも上がるのはいいとしても大きく下がるのは許容できないというわけです。中国当局は市場を思いのままにコントロールしたいわけで、その一環として株式市場に常軌を逸した介入を続けてきました。そのあおりで株式市場から投資家がほとんど離れていきました。中国の個人投資家は海外投資が禁止されているので、勢い国内に投資するしかありません、そのため現在では商品市場は恰好の投資対象なのです。こうして中国における投機マネーは商品市場に殺到、中国の商品市場では海外投資家は参入できませんから余計に値動きが激しくなるわけです。そしてこのような動きを投機マネーは最も喜ぶわけです。

石炭や鉄鋼生産の過剰生産解消を何とかソフトランディングで行いたい

 今年に入ってから鉄鋼価格の上昇が目立つようになってきたのですが、石炭の上昇も今年3月から目立つようになってきました。特に中国では石炭の生産に関して大きな規制を行って生産高を減少させるような行政指導を行ってきましたので、投資家としては春からの国の公共投資の大きな拡大をみて、生産を減少する石炭は絶好の投資対象ということで人気化、石炭価格が異様な高騰状態となって石炭のスポット価格は年初から2.5倍に急騰となったのです。この真の背景には株を買い支えたのと同じく当局が石炭や鉄鋼生産の過剰生産解消を何とかソフトランディングで行いたいためにまずは価格を巧みに上昇させて市況を好転させた上で、その流れの中での生産調整を進めたいという思惑があったと思われます。株を上昇させたのと同じく鉄鋼価格と石炭価格を巧みに上昇基調に誘導しながら業界の構造改革という難題を成し遂げようと試みているように思えます。鉄鋼も石炭も同じなのですが、ほとんど業界の整理や廃棄は実質進んでいないのですが、廃棄するぞ、減産するぞ、という掛け声を大きくして投資家を誘導して自らも株の買い支えと同じく息のかかった機関に商品市況で鉄鋼や石炭を大量に買わせ、上昇相場を陰で作り出しているように思えます。実際鉄鋼や石炭の生産現場を見ると、当局は掛け声だけで現実に鉄鋼生産も石炭の生産もほとんど落ちていないのです。

 これは同じく不動産でも言えることで、不動産価格がバブル状態なので規制すると公言して実際、当局は住宅を購入するときの頭金を引き上げるなど規制を行うのですが、価格が下がり始めると再び規制を外して元のバブル誘導に逆戻りするわけです。要は株式市場でも不動産市場でも鉄鋼市場でも値段が下げ基調になると深刻な問題が発生してくるので、究極的に下げを許容できず、結果価格の恒常的な上昇を目指すしかなく、一時的に様々な規制を打ち出しても結局バブル誘導の政策に戻っていくわけです。

 このバブル誘導政策の甲斐もあって大都市の不動産バブルが復活、今や上海や北京、深センなど中国の大都市では離婚ブームで離婚することで二件目購入の頭金上昇分の規制を逃れて新たに住宅を購入することができるので、偽装離婚が止まらず、離婚受付の窓口がパンク状態になっているほどです。人々はそれほどの資金もないのですから頭金をネット金融で借金するわけです。民間調査によるとネット金融を通じた不動産関連の調達額は今年1-9月には前年同期比で2.4倍になったということです。このネット金融は<ピア・ツー・ピア(P2P)>と言われネット上で個人の資金の貸し借りを仲介するわけですが、急速に伸びているのです。このP2Pを通じた不動産関連の融資の平均融資期間は5ヶ月程度で金利は11%強と高いわけです。それでも不動産は上がり続けるので問題はない、ということで個人は争って住宅の購入に殺到しているというわけです。1億総不動産屋となり借金を重ねて次から次へと不動産を購入していったバブル期の日本と瓜二つの状態です。

多くの中国企業は、特に国営企業は銀行から借金の返済を求められない

 では何故、このように不動産はバブル、バブルと言われて破裂することもなく上昇し続けるのでしょうか? 何故不況業種と言われる鉄鋼生産の原料である石炭価格なども上昇し続けるのでしょうか? 何故不良債権にまみれた多くの企業は倒産もせずに営業を続けることができるのでしょうか? 一連の事実は中国当局の必死の政策の賜物なのですが、その驚くべき手口を探ってみましょう。

 まずは多くの中国企業は、特に国営企業は銀行から借金の返済を求められないと思えばいいでしょう。1昨年朝倉慶の中国ゴーストタウンツアーで中国内陸部のオルドスの不良債権の生々しい現状をお伝えしましたが、依然オルドスはそのままでオルドスの企業は一つでも倒産した話は聞きません。中国の上場企業は全て12月決算ですが、その決算データによると上場している2928社の1-6月期の純利益の合計額は1兆3810億元(約21兆円)で、銀行を除くと二桁減益なのです。決して中国が好景気で企業業績が好調なわけではありません。特に重工長大な企業は不調で、資源に関連する会社の4割は赤字です。建設機械大手も当然赤字、証券会社は大減益という状態です。先日鉄鋼大手の東北特殊鋼集団が経営破たんしましたが象徴的なのはこれぐらいでその他大手の倒産話はありません。

 中国の企業はかような業績の不調状態にもかかわらず借入は一貫して増やし続けているのです。これは当局の銀行に対しての強い融資要請による賜物ものです。当然中国の経済状況では金利の支払いに窮する会社が多くあるわけですが、銀行は金利を支払っていない企業の返済猶予の申し入れに対して、全面的に受け入れて債務の再構築を手助けしているわけです。企業はいくら借金しても返済する必要がなく、オルドスの企業のように借金は棚上げにして更なる事業の融資を得られるというわけです。あれだけ経済減速が騒がれて、輸出も元相場が安くなって伸びるのが普通なのに減っているというのが実情です。それにもかかわらず国営企業においては極めて特殊なケースを除いて融資で困るようなケースは皆無のようです。いくら借金があっても銀行が無限に融資してくれればよほど酷い企業でなければ倒産しようがないでしょう。

 更にそれだけでなく中国の当局も銀行も不良債権の隠ぺいが巧みなのです。例えば日米欧など先進国では不良債権の定義は借り手が3ヶ月以上に渡って返済を延滞するときです。ところが中国の銀行では例え企業の返済が滞っても銀行の判断で回収可能と認定されれば不良債権にカウントされないわけです。となると信用力のある国営企業であれば国がバックについているわけですからよほどのことがない限り不良債権とは認定されないわけです。結果国営企業は銀行から資金を借り放題なのです。これではどのような状態になっても企業が潰れることはありません。

不良債権を健全な投資に化けさせる方法

 また不良債権を隠ぺいする手段も多種多様に用意されています。例えばある企業が膨大な不良債権を持っていたとして、その不良債権がどうにもならないケースを考えてみましょう。この場合、不良債権自体を本体から切り離さないといつまで経っても問題が解決できませんから、不良債権を特別目的会社(SPC)に売却、譲渡します。こうして不良債権になっている融資を銀行のバランスシートから外します。そして今度はその特別目的会社に債券を発行させて、銀行がその債券を購入するわけです。こうすると銀行は債券を購入したわけですから、融資から投資へとスタンスが変化するわけです。融資であれば不良債権で引き当てを積み増す必要がありますが、投資であれば、健全な会社へと投資と同じく引当金を積み増す必要がありません。こうして不良債権を健全な投資に化けさせるというわけです。融資が投資に化けた上に引当金が減額されますから銀行には収益も生まれるという一石二鳥です。このような投資は2015年末で前年比63%増となって、その額は日本円で約220兆円と見積もられ、銀行融資の2割に達していると言われています。当然日夜このようなケースは今も増え続けているわけです。

 また現在は不良債権の処理方法として融資金いわゆる債務の株式化の計画が進んでいます。これは日本でもバブル崩壊後、建設会社などの救済で頻繁に使われた手法ですが、債務を株式に変えるわけです。デッド・エクイティー・スワップ(DES)と言われます。債務を株式に変えるわけですから株式の発行額が大幅に増えて既存株主は泣くのですが、倒産するよりいいだろうというわけです。このDESという手法は最も危険な増資として株式市場では忌み嫌われていますが、その企業が大量の債務があったにしても、その後の期間利益で長期に渡って企業として復活する見込みがあるなら銀行が救済策として採用するケースが今でも見受けられます。中国ではこのDESを大々的に行おうとしているわけです。これらの特別目的会社や債務の株式化という手法は不良債権の処理方法として欧米諸国や日本などで確立した手法ではありますが、中国はこの不良債権の処理方法をよく研究していて積極的に使おうというわけです。問題は先進国ではこれらの手法を使う時も企業が再生できるという目論見があって行うわけですが、中国においては闇雲に全ての国営企業に採用しようとしているわけです。基準がなく出鱈目としか言いようもありません。とにかく中国では倒産ラッシュなどの社会不安はどうしても起こさせたくないのです。

 中国の銀行業監督管理委員会の集計によると2016年3月末の不良債権残高は1兆3900億元(約21兆円)と1年前に比べて42%増加、融資全体に占める不良債権の比率は1.75%と約7年ぶりの高水準に達したということです。しかし中国当局の発表する数字を信用する専門家はいません。日本の大手シンクタンク日本総研によると、中国の不良債権規模は12.5兆元(約190兆円)と中国の公式統計の約10倍と試算しています。しかし日本総研の試算でさえ保守的に感じます。中国の真の不良債権額は完全にブラックボックスで何かのきっけけで問題が露呈したら連鎖的な倒産ラッシュは止まらなくなるか、ないしは全てを中央銀行による資金供給で賄えば元安が止まらなくなって中国国内に激しいインフレが生じる可能性もあるでしょう。

 とにかく中国の異様な借金の拡大による経済の拡張は世界の重大な懸念材料なのです。BIS(国際決済銀行)は9月18日付の四半期報告書で<債務の伸びがGDPの成長率よりも異様に高い>と警告を発しました。同じくIMF(国際通貨基金)は<早急に企業債務の問題に取り組むべきだ>と警鐘を鳴らしています。BISによると中国の家計・企業を合わせた民間債務の額は2008年の段階で日本円で約474兆円だったものが、2016年現在では約1850兆円と8年で4倍に達しているというのです。そしてこの債務のGDPに対しての比率をみると、日本の1980年代後半のバブル期でも1.5倍程度だったということですが、中国の債務のGDPに対しての比率は現在2.1倍に達していると言うのです。確実に持続不可能です! 先に書いた中国の住宅購入ブームによって生じている中国の一般的な庶民の住宅ローンの借り入れ拡大は激しくなる一方で、中国のメディアによると住宅ローンを抱えた個人の年収に占める返済比率はついに40%に達したと報道されています。

 やがて中国の経済は世界の歴史に大きく残るような一大クラッシュに向かっていくでしょう。いつそのような劇的なバブル崩壊が起こるかどうか時期はわかりませんが、その時は刻々と近づいているように思います。

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