今年の最大の注目は何といってもトランプ新政権がどのような政策を行ってくるか、ということです。まだ正式に新政権が発足していませんから、現在のところ様々な憶測で新政権の政策運営が語られていますし、トランプ氏は大規模な減税や公共投資を行う事を公言していますが、議会との関係でそれらの政策が実行できるかどうか、ということも議論となっています。しかし新政権の顔ぶれを見ることで新政権がどのような方向を目指しているのか、ということは容易に想像できます。トランプ新政権はオバマ政権とは180度違う政策を行ってくるのは必至の情勢です。そしてやはり米国の新政権の出方によって今後の世界情勢や日本の情勢までも含めて大きな変動が生じるわけです。

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トランプ新政権の人事

 トランプ新政権の人事を見て、その方向性、問題点などを考察してみましょう。新政権は軍人と企業のCEO並びにゴールドマンサックス出身者を多用しています。政治的には素人ばかりを集めていて、軍人を多用するなどタカ派色が目立つと言われています。政治経験の薄さやロシアに余りに好意的な人物ばかり重用してきたということなど批判の声も絶えません。当然新政権の人事に対する評価は分かれています。軍人や政治経験のない閣僚ばかりで実務ができるのか、という懸念も強いわけです。

 しかしこの人事に対して逆に大きく評価する意見もあります。実戦的な能力のある人選を行っているという見方です。私は今回のトランプ新政権の人事は米国の国策の変化を象徴するトランプ色を前面に打ち出した人事として評価できると思います。まずは軍人や企業のCEOなど実践経験の豊富な能力主義を貫いているところです。まず経済の司令塔に関しては財務長官にゴールドマンサックス出身のスティーブン・ムニューチン氏を登用、そして国家経済会議議長にはゴールドマンサックスの社長であるゲーリー・コーン氏を登用しました。これだけ金融の実務に明るいゴールドマンサックス出身者を経済の司令塔に持ってきたということは米国の経済や先行きに関しては相当、市場にやさしい政策を行ってくることは必至でしょう。かねてからトランプ氏は金融規制を大幅に緩和すると主張してきましたので、金融機関には大きな追い風です。トランプ氏勝利の後、ゴールドマンサックスをはじめとする米金融機関の株式が急騰しているのも頷けます。既にリーマンショックからは8年経過して米金融機関の財務体質は万全となってきていて、この段階で大幅に規制を緩和すれば金融機関の収益は大きく好転することでしょう。また既に米国の長期金利は大きく上昇してきていますから、利ザヤが拡大して金融機関には更なる追い風です。日本で考えれば財務大臣及び経済産業大臣に野村証券のトップが就任するようなものですから、市場に対してアゲンストな政策が出てくるわけがありません。株式市場が沸き立つのも当然ですし、これからも米国の株式市場は相当の上昇があると考えるのが極めて自然です。

 更に国防大臣には元米中央軍の司令塔で湾岸戦争やアフガン戦争、イラク戦争における戦闘指揮を行ってきた<狂犬マティス>の異名を持つジェイムス・マティス氏を指名しました。国防や安全保障など軍事的な側面を考えれば、一番詳しく実践にたけているのは軍人でしょう。数々の戦争を体験してきた戦いのプロをかようなポストに配置したことはトランプ氏らしい合理的な決断と思います。国防や安全保障などは相手国や仮想敵国があるわけで、このような実践経験豊富な軍人を国防大臣に配置したことによって、いざとなれば戦いも辞さないという極めて強いメッセージを相手国に送ることができます。かような戦争のプロを配置させて交渉に臨めば、<いざとなれば戦うよ!>という覚悟が見え相手方には大きなプレッシャーを与えることができるでしょう、必然的に強い交渉ができるわけです。そのことが危ういという見方もあるでしょうが、トランプ氏は交渉上手で、交渉する上で最も強い布陣を配置していくという交渉を優位に進めるための上手い作戦と思います。

中国・ロシアは周辺諸国に対して明らかに侵略的な動き

 中国は南シナ海で強引に人工島を建設して領有権を主張していますし、東シナ海では尖閣諸島に圧力を加えるなど、ここ数年中国は周辺諸国に対して明らかに侵略的な動きを強めています。またロシアは堂々とウクライナに軍事侵攻しました。これらの動きは従来の国際情勢の常識からは考えられなかったことです。かような環境下、紛争を解決するにはやはり力をバックにした交渉でなければ、相手国にも足元を見られるでしょう。オバマ大統領は平和主義者でその理想は素晴らしいと思いますが、オバマ政権の8年間の間に中国やロシアがやり放題で軍事的な拡張をあからさまに行ってきたのは事実です。かような動きに対抗するには力を有して、力によって平和を保つしかないように思われます。強いアメリカを目指すトランプ新政権としてまずは世間から恐れられている<狂犬マティス>と呼ばれる異名を持つ軍人を国防長官に任命したことは悪くないし、これは以前からトランプ氏の頭の中にあった人事でしょう。

 また昨年末の安倍首相とトランプ氏の会談に同席していましたが、国家安全保障政策担当大統領補佐官にマイケル・フリン氏を起用しています。彼も元国防情報局局長で軍人です。かように国防、安全保障については軍人である実勢のプロを起用したところはトランプ氏ならでの強い交渉を演出するための準備であり、人事としては合理的と思います。

 また外務大臣の役割である国務長官には、エクソンモービル会長兼CEOであるレックス・ティラーソン氏を起用しました。ティラーソン氏はロシアのプーチン大統領と親しく2013年にはプーチン大統領から<ロシア友好勲章>を授与されているほどです。ティラーソン氏が国務長官としてロシアのために働くことはないでしょうが、少なくともこの人事がトランプ氏のロシアに対しての融和政策を示唆していることは疑いありません。オバマ大統領が今回の米大統領選挙期間中、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けたということで米国にいるロシアの外交官を国外退去処分にしましたが、一方でプーチン大統領は報復措置を行いませんでした。このことについてトランプ氏は絶賛しています。トランプ新政権発足後、米国とロシアの関係が劇的に好転することは疑いありません。ウクライナの問題やシリアの問題ではしごを外された形となる、EUは米国のこのような変節に大きな懸念を抱いていますが、トランプ新政権とロシアとの急接近はもはや止められないでしょう。そのことを示す象徴的な人事が今回の国務長官の指名でした。

 軍産複合体は米国の中枢そのものです。軍事産業は米国にとって必要欠かさざるものであり、米国の力の源泉でもあります。この軍産複合体は絶えず世界の何処か紛争や争いがなければその存在価値を失います。平和が恒久的に続いてはまずいわけです。当然米国の大統領としては平和という建前とは別に軍産複合体に対してのバックアップを行っていくのは当然です。必然的に米国は敵を作らなければなりません、強力な政治体制を構築するには強力な仮想敵国が必要です。そういう意味では米国とロシアが急接近するわけですから、今までの米国とロシアが対立していた構図が大きく変化してきます。そしてここにトランプ政権の究極の敵国としての中国が浮かび上がってくるわけです。中国はその人口と国力の急激な拡大をバックに巨大化しつつあり、覇権を目指しています。

 トランプ氏は確信犯として中国と対立姿勢を強めていくでしょう。そのための一つの体制作りとしてロシアとの関係改善を図っているものと思われます。世界を見渡すと経済的には米国と中国が突出しているわけですが、一方で軍事的には米国とロシアが突出しているわけです。この米国とロシアが軍事的に協力すれば、中国を封じ込めることができるという腹と思われます。トランプ氏はロシアと友好関係を構築することによって、より中国に対して力で圧倒する作戦を取ってくるものと思われます。今後米国と中国との間で摩擦が激しくなっていくと覚悟する必要があるでしょう。その場合、将来の何処かで究極的には<米国、ロシア、日本対中国>という対決の構図が生まれる可能性も高いでしょう。米国とロシアに尻を押されて尖閣で中国と日本が衝突するということもあるかもしれません。日本は米国との絆を強めて同盟を強化するしか道はないと思われますが、トランプ氏は日本を中国に対しての最前線基地として位置づけ、同盟の証としての行動を強要するようになるかもしれません。

ホワイトハウス内に貿易政策を統括する<国家通商会議>を新設

 トランプ氏はホワイトハウス内に貿易政策を統括する<国家通商会議>を新設し、対中強硬派のピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授を起用すると決めました。同会議は貿易政策の助言だけでなく、米国家安全保障会議と組んで国防と通商政策を連携させた外交戦略も立案するということです。ナバロ氏は南シナ海で海洋進出を活発化している中国を激しく批判してきました。トランプ氏は中国との関係ではタブーだった台湾問題を持ち出して中国に揺さぶりをかけ、これに対して中国は激しく反発しています。トランプ氏は中国側の反発に対して<中国は我々に南シナ海の真ん中で大規模な軍事複合施設を建設していいかどうか了承を求めたのか? 私はそうは思わない>と中国を非難、自分が誰と話したかについて中国側から指図される必要はないとコメントしています。トランプ氏は台湾問題を持ち出せば中国側が激怒するのはわかっていたはずです。トランプ氏は明らかに確信犯として対中国で強硬な姿勢を示すため台湾問題を利用しているわけです。これは周到に準備して行った行為と思われます。

 更にトランプ氏は米通商代表に、同元次席代表で弁護士のロバート・ラインハイザー氏の起用を決めました。ラインハイザー氏はかつて1984年から1985年かけて行われた日本との日米鉄鋼交渉で日本側を異例の輸出自主規制に追い込んだ実績を持っています。その後ラインハイザー氏はUSスチールの顧問弁護士となり、最近はオバマ政権に対して中国製品の反ダンピング関税適用を強く働きかけてきたのです。バリバリの対中強硬派です。

 トランプ新政権は大規模な減税と規制緩和、そして10年で100兆円に上るインフラ投資を行うなど財政を大幅に拡張させていきます、こうしてトランプ新政権はインフレ政策を推し進め、米国の景気の拡大を図っていくでしょう。完全雇用状態にある米国で更に景気を吹かすわけですから景気が過熱気味になってもおかしくありません。当然FRBは状況に応じて金利引き上げを行ってくるでしょう。トランプ氏が大統領選で勝利する前までは今年1回でも金利引き上げが行われればいい方と予想されていたのに現在は3回、そして翌2018年は4回金利引き上げがあるという予想が大勢になってきました。米国の経済は拡大傾向です。その中でトランプ氏が選挙期間中から主張してきた関税引き上げなどの保護主義の発動が懸念されています。

 株式市場は今年も相当好調で日米ともこれからも順調に推移していくものと思われます。注意すべきはここまで書いてきた米国と中国の争いの激化です。トランプ新政権は中国に対して強硬に出ることは疑いないでしょう。一方で従来の米国政権のように人権とか民主主義という主張は弱まって中国の国内政治に対しての口出しは減ると思います。しかし海洋進出や貿易交渉ではトランプ新政権は相当強気で交渉することとなるでしょう。仮に交渉が決裂して米国からの関税引き上げというような強硬な手段が講じられると厄介です。中国は面子を重んじる国ですし、習政権も強権です。米国から制裁を受ければ、中国側も制裁で返すこととなります、そうなると制御不能の制裁合戦に発展するという可能性も捨てきれません。私は今年の株式市場は相当強気で考えていますが、やはり中国の経済の行方には重大な注意が必要です。そしてこの米中の争いの激化だけは目が離せません。今年株式市場は相当スケールの大きい上昇が予想されますが、最も大きなリスク要因として米中の対立激化ということを頭に置いておくべきでしょう。

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