<住宅は住むためのものであって、投機の対象にするものではない!>昨年12月習近平主席は、余りの不動産価格の止まらぬ上昇に業を煮やしついに国民に釘を刺したのです。中国における不動産バブルが指摘されてもう何年も経過していますが、不動産バブルは崩壊するどころかますます勢いを増して価格の上昇は止まることがありません。かろうじて今年に入って市場は落ち着いているようですが、今度は巷では激しく価格が下げてきているというような報道もなされています。

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中国では、かつての日本のように不動産価格が下がるとういうような事は・・・

 日本のかつての不動産バブル崩壊のように中国においても現在のような不動産の異常な高値は維持できるはずもないと思われます。しかしこのようなことが長く言われ続けて尚もかように不動産価格が上げ続けているのが実情です。またその不動産が売れずにゴーストタウンが増え続けるわけですが、それでも価格が上げ続けるというのはどういうことなのでしょうか? 中国では、かつての日本のように不動産価格が下がるとういうような事はあり得ないと思われているようです。また中国では経済が減速傾向で資本流出が止らないのですが、これも何としても海外に資金を待ちださせないという強引な規制を実施して問題を力で収めようとしています。今年1月には外貨準備がついに節目の3兆ドルを割れましたが、1ヶ月で再び3兆ドルの水準を復活させたのです。この間、2月は中国の貿易収支は赤字でした、普通は貿易収支が赤字で資本流出が続いていれば外貨準備が増えるはずもないのですが不思議なことに中国においては外貨準備が増えたのです。いったいどんなからくりが隠されているのでしょうか? 様々な問題が指摘されながらも中国においては表面的には景気回復というシグナルが出ています、秋の党大会に向けて中国経済は順調に回復してきているという見方が増えています、ゴールドマンサックスは中国の株式市場について強気転換とレポートしてきました。中国の真の実情と隠された闇を見てみましょう。

 とにかく不動産価格の止まらない上昇には驚愕します、昨年も深センでは不動産価格が前年に比べて40%近く上昇しています、上海や北京、広州なども似た状況です。これは政府の住宅購入を促す制度の影響が大きかったものと思われます。政府は国民に住宅ローンの利用を積極的に奨励して住宅を購入するときの頭金の比率を引き下げました。二件目の購入も促し、二件目購入の頭金も引き下げたのです。これによって人々の住宅購入熱が復活、住宅ローンの利用は昨年爆発的に増えて銀行の住宅ローン貸出をみると昨年は1昨年に比べて倍化したのです。とにかく国民は焦ってローンを組んで住宅購入に殺到しているようです。しかし再三このコラムやレポート、1昨年のゴーストタウン、オルドスでの旅行体験でも指摘した通り、中国では人の入らないマンションが山のようにあってまさに中国全土が在庫の山のようになっているわけです。2015年末の統計をみると住宅や店舗の売り残りを示す不動産在庫は7.2億平方メートルとなり、年間の販売面積の6割にまで達していたのです、これがさばけた形跡はありません。要するに中国では人の入らないマンションや住宅が山のようにあるのに、それを無視して更に住宅やマンションを作り続けそれがまた売れていて、不動産開発を一向にやめないということなのです。早い話、不動産会社としては売れ残った不良在庫など目もくれず、新しいものを作っては売り続けているというわけです。普通ならば在庫を大量に抱えればそれを処分しなければ資金繰りがつかないですから、値段を安くして処分を急ぐわけですが、中国企業においてはそのような必要もないようです。要するに不動産会社や開発会社は銀行からいくらでも資金融通ができてその無尽蔵な資金を投入して次々に開発を続けているようです。また中国国民も海外に資金を持ち出すことが禁止されていますから国内に留めるしかなくて、勢い、株とか不動産とか金(ゴールド)の投資に走るしか資金運用の手段がないようです。

 中国では昨年、不動産価格を発表していた独立系の経済指標が二つ静かに公表を停止したのです。表面上は自発的に公表を停止したということですが、明らかに当局の圧力が働いたようです。中国の統計はまさに北京のスモッグのように不鮮明極まりないのですが、中国当局は何としても市場をコントロールすべく発表する経済指標や価格動向に関しては官制報道一本に絞りたいようです。かつて中国の経済動向を計るのには中国国内の統計が当てにならないので、外資系の統計が参考にされてきました。特に中国の経済動向を計るには製造業購買担当者指数(PMI)が重宝にされてきました。そして中国のPMIはかつてHSBCとマーキットが発表していったのですが、この指標もいつの間にか財新PMIとスポンサーが変わって中国当局の息のかかった統計となってしまいました。スポンサーが変わった直後の頃はHSBCとマーキットが行っていた統計数字を踏襲しているような流れでしたが、今では徐々に当局のコントロール下に置かれているようです。統計は全て中国当局の思いのままになってきているようです。そして不動産価格の統計なのですがこれもついに当局の官制報道一本に統一しようということです。昨年独立系が指標を発表していた不動産価格の数字をみると、実は中国当局が発表していた数字よりも遥かに不動産価格が上昇していたことが示されていたのです。当局の発表ですと深センの不動産価格が40%上昇ということでしたが、とてもその程度ではなかったということです。

 根本的に中国当局は不動産の異様な上昇は望ましくないと考えているでしょうが、それ以上に一度上昇してしまった価格に対してはそれがバブル的な高値であっても、決してそのバブルを崩壊させることはしないという強い意志があるように思われます。ですから結果的に不動産価格がどんどん上がっていってしまうわけです。中国は日本の失われた20年について深く分析をしてきています、何故世界一にまで登りつめた日本経済が凋落していったのか、という視点から研究されているわけです。そして日本では1989年バブルの崩壊から、日銀は金融を異様に引き締めて、当時の大蔵省はバブル潰しということで総量規制といって不動産融資を徹底的に規制したわけです、それでバブルが崩壊したのはいいですが、結果日本経済は不良債権の渦でどうにもならない末路となりました。数年後銀行や証券会社、生保などが次々と破たんしていったわけです。

株価の暴落はまさに腕力であらゆる手を使って強引に止めた

 かような実情を研究しきってきた中国は決してバブルを崩壊させないという政策を取り続けています。ですから1昨年株式市場が激しく暴落した時は、官民挙げて株価の買い支えに奔走したわけです、この時に株買い支えのために当局から投入された額がいくらなのか全く明らかにされていません、一説では100兆円近く投入されたという説もあります。とにかく株価の暴落はまさに腕力であらゆる手を使って強引に止めたわけです。これと一緒で仮に不動産価格が下がろうものなら、強引に政策を変更して何としても価格の急落は防ぐという姿勢です。社会を不安定化させる経済のハードランディングは絶対に避けるということです。結果的に不動産価格が上がるー適度な政策的調整を試みたが不動産価格が急落してうまくいかないーまた上がるような政策に戻すーと恒常的にバブルを膨らませ続けるだけとなっています。そして今や深センや上海、北京などの周辺マンションの価格は普通の労働者の年収30年分にまで上昇してきていて価格は東京23区内より高いというわけです。

 かような様相になるのも銀行をはじめ当局が金融を絞めることなく、大盤振る舞いを続けて不良債権を無視して資金を供給し続けるからです。中国では不動産バブルにまみれているとか不良債権の山だらけとか様々な話があるのですが、中国では銀行もつぶれたことはありませんし、企業の大型倒産も聞いたことがありません。たまに当局が実験的に倒産劇を演出するのですが、一つや二つの小さな話であって、その後は全く社会問題化するような破たん劇はでてきません。これは中国では銀行が主に国有企業にばかり資金を融通して、国有企業の場合破たんはあり得ないという構図ができているからです。国有企業であれば如何ような財務体質であろうが、経営的な失敗を繰り返そうがつぶれることなく潤沢な資金が供給され続けているようです。かように失敗しても失敗しても資金が供給されますので更に同じ開発投資を繰り返すわけです。永遠に作り続けていますので、中国の表面上の景気は悪くなることがありません。まさに民間ではなく公共投資による景気押し上げが続いているわけです。

 中国ではとにかく国有企業は決して潰すことはできないのです。中国の銀行を監督するのは中国銀行監督管理委員会(CBRC)ですが、金融機関はCBRCからの通告なしに企業への融資を止めることはできません、また、融資金もCBRCからの許可なしに回収することは禁じられているわけです。CBRCは昨年企業債務問題への取り組みとして<債権者委員会>という制度を設立しました。名目上は企業の借り入れ比率の引き下げを目指しているわけですが、実質は債務繰り延べを申請するような機関です。中国の各企業は債務再編の話し合いの中でこの債権者委員会というのを作って実質債務の繰り延べや金利引き下げを勝ち取るわけです。昨年末まで作られた債権者委員会は約1万3000件、扱った借入総額は約250兆円ということです。こうして中国の国営企業はいくら借りようが経営に行き詰っても関係なく資金供給が続けられるわけです。返せなくなったら債権者委員会を作ればいいだけです。中国においては国営企業の破たんは絶対的なタブーであって、あり得ないことなのです。

デリバティブ取引を使った元の先渡し取引という手法

 次に外貨準備増加のごまかしのからくりを探ってみましょう。かつて4兆ドルあった中国の外貨準備は今年はじめついに3兆ドルという大台割れとなって衝撃的なニュースとして報道されました。その後中国は2月は貿易収支が赤字だったので、外貨準備が増えるはずもなかったのにふたを開けてみると不思議なことに増えていました。これはいわゆるデリバティブ取引を使った元の先渡し取引という手法を利用したものと思われます。この複雑な取引を中国の人民銀行が行ったと言われていますが、人民銀行は将来のある時点で現在よりも高い価格で元を買い戻すという契約を結んだわけです。この契約を大量に行えば将来元の価格が高くなるという取引量が増えますから実質的に直近の元の買いを誘発することができます。投機的な空売り筋などは元を売っていれば即座に買い戻すようになるわけです。人民銀行としても現時点でドル売り、元買い介入を行えば、元相場を引き上げることはできますが、ドルの持ち高が減ってしまいます。3兆ドル割れと大きく外貨準備の減少が伝えられたこの時にこれ以上人民銀行としてもドルの持ち高を減らしたくないわけです。そのうえで如何にして元相場を支えるか考えた場合、このデリバティブ取引が活用されるわけです。かつてギリシアがいきなり粉飾を行っていたということでギリシア危機の発生となりましたが、当時のギリシアもデリバティブ取引を使って財政状況をごまかしていました。現在の中国が行っているデリバティブ取引による元高誘導策はギリシアの行っていたことと同じです。かように中国の行っていることは極めて危険で問題の先延ばし、ごまかしばかりなわけです。

 かようなごまかしがいつまで続けられるのかわかりません。ただ経済はまさに<人々の気持ち>というところもありますので、今のところ、中国当局がごまかしを続けることで、人々が中国経済の真の実体が見えず先行きに自信を持っているということがあるわけです。これが消費を促す効果をもたらしますし起業も促進します。また人々は中国においては不動産価格を当局が下げさせることはないと信じるようになっています。このような人々の当局に対しての信頼感を通して、人々がその資金の限界にまで借金をして住宅投資を行う流れが出来上がっています。株式市場なども強引に買い支えを続けますから、元紙幣を印刷して資金を無尽蔵に出し続ける限りいずれ上がってくるということも考えられます。ただ中国の資産家や共産党の幹部たちが資金を海外に逃がしたいと強く思っている背景は、やはり現在のような出鱈目の政策が長続きするわけはないとエリート層だからこそ切実に感じているからだと思われます。

日本では量的緩和で次々と日銀が資金供給を続けていますが、その資金が一向に世の中に回ってくることなく日銀の中に滞留し続けています。中国の場合は逆で次々と野放図で銀行が国営企業に資金を供給するわけですが、国営企業は不良債権など処理することなくそのような後ろ向きの処理は無視して新たなところに資金を使っていくわけです。それが新しい不動産開発などで成功したりするわけです。かように中国では資金が次々に循環して資金も次々に供給され続けるというわけです。

 普通、中国のような野放図な資金供給を続けていれば、何処かの時点で激しい通貨安から止まらないインフレが発生してくるということが考えられます。中国の生産者物価、いわゆる企業間の物価動向である卸売物価指数をみると昨年12月に上昇に転じました。これは何と54ヶ月、4年半に渡って下げ続けた後、ついに上昇に転じているのです。その後今年1月は6.9%の上昇、2月は7.8%の上昇と上げの勢いを増しています。一方で中国の成長率は減速していると伝えられています。成長率が下がっているに何故昨年末から4年半ぶりに異様な生産者物価の上昇が始まったのでしょうか? 米国のトランプ政権の出現によって世界的に株高、ドル高、金利高が起こってきています。またこのドル高は中国からの資金逃避と元安をもたらします。まだ中国の消費者物価は落ち着いていますが、今後急速に中国でもインフレ模様になってくる可能性もあります。連日派手に報道されているトランプ氏の言動や行動を下に米国の動きばかりに目がいきますが、実は隣の中国にこそ時限爆弾が存在しているのです、中国発のまさに出鱈目経済政策の後始末としての激しいインフレ、そして混乱が押し寄せてくる可能性があるのです。

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