<中国がうまく北朝鮮に対処すると強い自信を持っている。彼らができなければ、米国が同盟国とともにやる!>4月13日、トランプ大統領はツイッターに投稿しました。今や、市場や世間の注目点はただ一つ、いったい米国は北朝鮮を攻撃するのか、しないのか、になっています。トランプ大統領と金正恩という特異な指導者が激突する構図に先行きに見えない懸念が広がっているのです。既にこの問題はテレビや新聞、週刊誌を含めて連日洪水のように報道され続けていますが、余りに事が重大なのでこのレポートにおいても解説してみたいと思います。いったい米軍は攻撃に踏み切るのでしょうか? そうなればどうなるのでしょう? また危機は瀬戸際のぎりぎりまでいって最終的に収まるのでしょうか? そして既に株式市場や為替市場では異様な警戒感が広がっていますが、今後の展開はどうなっていくのでしょう?

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断念に追い込まれた北朝鮮攻撃

 1994年、現在と同じく当時米国は核開発を止めない北朝鮮政府に業を煮やして軍事攻撃直前までいったのですが、当時の韓国政府の激しい反対にあって、結果的に北朝鮮攻撃は断念に追い込まれました。現在でもあの時に北朝鮮攻撃を決断していれば今日のような危機は起こらなかったという悔恨や反省が伝えられます。しかし当時、北朝鮮は核を保有していませんでしたが、通常兵器は膨大な量保有しており、仮に米軍の北朝鮮攻撃ともなれば、あるシュミレーションによっては韓国側の被る死傷者は100万人に上るという試算もなされたのです。その試算が大げさだったかもしれませんが、当時の韓国政府がとても北朝鮮に対しての米軍の攻撃を許可できなかったことはわかります。韓国の首都ソウルは北朝鮮との国境である38度線からわずか40キロしか離れていないわけですから、仮に朝鮮半島有事となれば、北朝鮮からの砲撃でソウルを中心として市街地に甚大な被害が出る可能性があり、それはとても許容できることではなかったでしょう。現在でもこの構図は変わりません。因みに北朝鮮の首都ピョンヤンは38度線から150キロ離れています。これは有事を想定した場合、韓国と比べて北朝鮮にとって大きな戦略上の利点となっています。

 かような情勢下、日本では連日米軍の北朝鮮攻撃の可能性が声高に叫ばれているのですが、当事者である韓国では平穏そのもの、ソウル市民にほとんど危機感がないのです。株式市場でもそうですが異様に反応して大幅安となっているのは日本市場だけで、韓国の株式市場も多少は下げているものの、日本ほど大きく下げてはいないのです。株式市場の推移だけをみても、韓国側には危機感が広がっていないのがわかります。日本政府は朝鮮半島で有事が勃発した際の対処方針についても協議していて、日本政府内でも危機感が高まってきたことが伝えられています。しかし韓国では全く逆で、いわゆる米軍による北朝鮮攻撃として有力視されている<4月危機説>を払拭するのに韓国政府は躍起となっています。米空母が接近している関係で一部韓国のSNSにおいては危機が迫ってきたとの口コミも広まっているのですが、韓国全体としてはのんきなもので、テレビや新聞で現状の緊張状態が報道されてもほとんど韓国民は平静です。これは今まで韓国と北朝鮮が言葉では激しいやり取りを繰り返してきましたが、お互い共存共栄でまさかお互いを攻撃することはあり得ないという強い確信を韓国民のほとんどは共有しているようです。同じ朝鮮民族ということもありますし、同胞を攻撃することはない、と信じ切っているわけです。北朝鮮が韓国を攻撃することもないし、韓国が北朝鮮を攻撃することもあり得ないという強い信念です。4月11日、現在の緊張激化の報道を払拭するかのように、韓国の外交報道官は米国による北朝鮮攻撃懸念について<米国も我が国との協議もなく、如何なる新たな政策や措置もとらないと明確にしている>とコメントしています。米国は韓国政府の許可なしに北朝鮮攻撃をすることはないし、韓国政府が北朝鮮攻撃を許可することはあり得ない、と国民に実質的に通達しているわけです。更に翌12日には日本で一部報道されている<米国が北朝鮮に対する軍事行動の可能性を日本に伝えた>などのニュースも否定したのです。かように韓国の報道は日本の報道と違って北朝鮮問題については国民の不安を抑えようとしているわけで、かように同じ北朝鮮問題でも日本における報道と大きな温度差があります。

 しかしながらトランプ政権が中国や日本、そして北朝鮮に対して軍事攻撃もあり得ることを通達していることは間違いないでしょう。これが米国側のブラフかどうかはわかりませんが、本気で軍事行動を起こすという姿勢を見せなければ相手方になめられてしまって交渉になりません。シリアへの爆撃やアフガニスタンでの通常爆弾で最強の爆弾を使ったことなどは明らかに北朝鮮への威嚇、そして中国への強いメッセージを秘めたものでしょう。シリア問題ではオバマ政権では一線を超えたら軍事行動を辞さない、とあれだけ公言しておきながらいざとなったら攻撃できませんでした、それがトランプ政権ではわずか2日で攻撃が決断されたわけですから、その実行力と決断力は大きな違いです。また内政が行き詰っていたトランプ大統領の支持率がシリア攻撃によって急騰したことはトランプ政権を勢いづけたように思えます。施政者は内政がうまくいかないと緊張を作り出して外に国民の目を向ける、というのは常套手段ですが、今回のシリア攻撃によって、あまりに簡単にトランプ政権に対しての国民の支持率が急騰したので、これにポピュリストのトランプ大統領は味をしめたようです。アフガニスタンでの最強爆弾使用も全くためらいがなかったようです。北朝鮮に対しての攻撃もトランプ大統領本人はかなり積極的である可能性もあります。これは合理性とか理性的とかではなく、トランプ大統領の気質によるもので彼が大統領になった時点からトランプ氏の持つ攻撃的な性格は懸念されていたことではありました。政治学者イアン・ブレマー氏が今年から地政学的リセッションが始まる、と指摘して、世界は第二次世界大戦直後から基本的には平和な時代が続いてきたわけですが、トランプ大統領の出現によって、世界は各地で軍事的な危機の可能性が拡大する傾向になり、いわゆる地政学的リセッションの時代に突入する、と指摘していましたが、そのような傾向はあるでしょう。ブレマー氏によれば将来何処かの時点で、トランプ氏が核兵器を使用する衝動を抑えきれなくなる可能性がある、ということが指摘されていました。

核兵器さえ保有していれば攻撃されることはない?

 今回の北朝鮮危機で核兵器が使用されることはないでしょうが、一定のシュミレーションをしてみましょう。北朝鮮政府は米軍のシリア攻撃について論評し<我々の政策の正しさが証明された>としています。これは北朝鮮からみるとシリアも、かつてのイラクもリビアも核兵器を保有していなかったから攻撃されたわけで、核兵器さえ保有していれば攻撃されることはない、という理屈です。北朝鮮からみればシリアは核兵器を持っていないから簡単に攻撃されてしまったわけです。この<核兵器保有によって自国の安全が保証される>いう考えは金正恩の強い信念になっていると思われます。ですから金正恩体制になっても北朝鮮は異様に核兵器開発に固執してきたわけです。こう考えると北朝鮮に核保有政策を放棄させるのはかなり難しいわけです。一方、トランプ大統領は北朝鮮による米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発は絶対に許さない、という姿勢でこれも譲ることはないでしょう。このまま北朝鮮が核開発、ICBM開発に進んだ場合は米軍の攻撃はあり得ると考えた方がいいかもしれません。解決策があるとすれば中国などの圧力や、金正恩自身が合理的に物事を考えて、生き残りをかけて何処かで米国側に屈するしかないと思われます。

このような中、米国側も金正恩政権の逃げ道は用意してきています。4月14日、米国の複数のメディアが<トランプ政権は対北朝鮮政策で金正恩委員長の体制転換は求めない方針を固めた>と報道しています。これは大きな米国側の方針転換です。表面上で報道されるニュースとは違って水面下で中国を通じて米国側の強い意志は北朝鮮側に十分伝えられていると考えられます。時系列的にみていくと4月12日、中国の習近平主席はトランプ大統領と電話会談を行っています、その後トランプ大統領は<北朝鮮の脅威に関し、とてもいい会話ができた>とツイッターに投稿しています。その後ニュースでは大きく伝えられていませんが、中国の元外務次官で駐日大使だったこともある武大偉氏が北朝鮮を訪問しています。明らかに習主席の意を受けて北朝鮮との交渉に出向いたものと思われます。そしてその後北朝鮮は19年ぶりに外交委員会を設置して対米交渉のベテランを配置しました。ニュースでみるとお互いが突っ張り合っていますが、これも一つのパフォーマンスであって、水面下ではお互いが衝突しないぎりぎりの交渉が続けられ、それが実ろうとしているように思えます。であるからこそ、米国側から正式に<体制転換は求めていない>という金正恩政権に対しての秋風が送られたということでしょう。これは中国政府の使者である武大偉氏が北朝鮮に行って北朝鮮側とぎりぎりの交渉を行った結果の経緯から生じてきた、米国側の一つの回答と言えるのではないでしょうか。もちろん金正恩は若いし、経験もありませんから冒険主義に走ってトランプ政権と正面衝突してしまう可能性も否定しきれません。しかし基本的に北朝鮮の求めているものは金正恩体制の継続ですから、それを米国が真に保証する形が担保できれば核開発を放棄するという思いきった決断もあり得ると思います。要するに彼ら、北朝鮮の幹部は生き残りたいわけです。彼らがマレーシアで金正男氏を暗殺したのも自らの政権を存続させるためで生き残りたいから行った行為です。中国側が真剣に北朝鮮に対して米国の軍事行動の本気度を説明して、このままでは米国に攻撃されることを信じさせ、それと共に現在は石炭の輸入をストップしているだけですが、今後中国側が石油も食料も止める、そして米国の攻撃も傍観するということをはっきり提示すれば、如何に北朝鮮の主導部が強硬でも、自分たちの生き残りを考えて核開発の停止を宣言する可能性は十分あると思います。マスコミに大きく出ているニュースばかり追いかけていると今にも衝突が起こり、それはとても避けられないように思われますが、水面下での交渉はお互いぎりぎりの条件を出しあって進んでいることでしょう。中国が本気になれば北朝鮮の息の根を止めることは容易です。貿易を止めればいいわけです、中国が本気になれば北朝鮮を説得できないわけがないと思います。このような情勢を考えれば、日本の役割は米国と一体となって北朝鮮攻撃を支持するという立場を貫くことです。

韓国の意向を無視して北朝鮮攻撃を決断する可能性

 しかしながらこのような強気の姿勢が米国と北朝鮮のボタンの掛け違いを生じさせ、米国による攻撃という最悪の事態に陥るケースも考えておきましょう。北朝鮮が中国の説得の下、折れればいいですが、若い金正恩はそれができないで強気で押し通す可能性もあります。この場合、トランプ大統領も振り上げたこぶしを下すことができず、韓国の意向を無視して北朝鮮攻撃を決断する可能性もあるでしょう。

仮に米軍が北朝鮮を爆撃する場合どのような手法が取られるでしょうか。限定攻撃と全面攻撃に分けて考えます。言う事を聞かない金正恩を黙らせるために米国の力を示すために核施設をピンポイントで攻撃して破壊する方法があります。こうなると金正恩も黙っているわけにはいかないので、韓国に対して限定的な攻撃を加える可能性もありますが、人命に甚大な被害が及ぶような攻撃は控えて韓国の島とか人のほとんどいない地域に対しての攻撃を行う、という程度でしょう。そうでないと全面的な対決となり軍事衝突が過熱して結果的に北朝鮮側が負けるのは必至だからです。しかしこのような実力行使の連鎖は段々過激になっていく傾向がありますから、限定攻撃の場合は、その後即座に停戦して再び交渉に入るというきわどいプロセスが必要でしょう。この場合も金正恩が国内の強硬派を抑えきれるのか、冒険主義に走るのかわかりません。ただわかっていることは韓国や日本に対しての軍事行動をエスカレートさせれば、金正恩はあっという間に米軍の攻撃によって消されるでしょう。米軍が本気になり、且つ中国軍が助けを出さない限り勝敗は見えています。しかしかように限定的な作戦では北朝鮮にかなりの反撃力が残りますので、韓国や日本は危険にさらされることとなります。

 ではこのような危険を回避するために、攻撃するのであれば一気に主要なターゲットをできる限り粉砕してしまう全面的な攻撃という方法もあります。かなり大規模な策ですが、金正恩の居場所を特定してその場所に絨毯爆撃を与えて、取り巻きも含めて一気の斬首計画を実行して北朝鮮の首脳部を消し去ります。北朝鮮の対空防衛網は旧式でとても米軍のステルス戦闘機やトマホークを感知することはできません。北朝鮮側の反撃を断つためには米軍としては北朝鮮の首脳部を一気に消し去るのと同時に核施設やミサイル基地や軍事基地などを同時に残らず粉砕することです。現在展開している空母が一隻しかないですから、大規模な作戦が可能かどうか疑問も残ることころです。事情通によると、ハワイに停留している空母ミニッツが北朝鮮に向かう可能性もあるとのことです。横須賀の滞留しているロナルド・レーガンはまだ修復中ということで実戦配備は難しいとみられています。それでも現在北朝鮮近海に展開している空母や駆逐艦、潜水艦から500発から600発のトマホークの発射、そしてステルス機からの絨毯爆撃によって現在確認できている北朝鮮の核施設や化学兵器関連施設、航空基地などを先制攻撃によって壊滅させることは技術的に可能ということです。

しかしやはり米軍の頭を悩ませているのは地上移動式ミサイル発射装置です。この移動式ミサイル発射装置は北朝鮮全土とりわけ山岳部にも配置されていて、これを全て粉砕するのは不可能です。日本を射程に入れているノドンやスカッドミサイルは、いずれも移動式ミサイル発射装置から発射されるのです。北朝鮮は全土に巨大な地下設備を築き上げていて、山腹などの洞窟式地下設備内で発射準備を完了させてから、発射直前に地上に発射装置を出してミサイルを発射させるわけです。こうなると厄介なのが、たとえ、金正恩をはじめとして北朝鮮首脳部を最初の爆撃で一掃させたとしても、その後指令系統を失った軍関係者が自暴自棄になって単独でミサイルを発射させる可能性があります。これが全土にめぐらされているので、これを全て粉砕することはできず、いくら迎撃ミサイルがあったにしても全てを打ち落とすのは難しく日本や韓国の被害も止めることはできないかもしれません。韓国人の感覚では北朝鮮が同じ民族である韓国人を攻撃することはないが、日本人であれば攻撃することもあるだろうと考えているぐらいですから、日本も有事になった場合は最大限の警戒態勢が必要となるでしょう。

 かように北朝鮮問題の行方はまだ見えてきません。方向としては水面下で確実に外交的なぎりぎりの交渉が続いている段階でしょう。合理的に考えれば先に書いたように北朝鮮が劇的に妥協する可能性が高いと思われます。軍事的には今回北朝鮮は明らかに中国に見捨てられているわけです。仮に今回米軍が北朝鮮を攻撃した場合、中国軍が北朝鮮を守ることはあり得ないわけで、その意味で1950年の朝鮮戦争の時とは全く違う構図です。米国と本格衝突して現実に軍事的にも中国に見捨てられれば金正恩政権は戦争で滅びるしかありません。これは明らかで金正恩も米国との本格的な衝突となれば自らの命がないことはわかっているはずです。中国側もトランプ政権は本気で攻撃すると思っていますから北朝鮮に対して必死の交渉を進めているところでしょう。繰り返しますが、米国による<金正恩体制の保証>は最も大きなシグナルです。最終的に北朝鮮問題は瀬戸際で解決すると思います。そうなれば株式市場や為替市場の劇的な反転となります。

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