<北朝鮮が国際社会の度重なる警告を無視して、挑発を続けていることは断じて許すことはできない>5月29日、安倍首相は北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け厳重に抗議しました。北朝鮮の国営メディアは<新型の精密誘導ミサイルの発射実験に成功した>と報じ、命中精度の誤差はわずか7メートルと宣伝しています。北朝鮮はミサイル発射をこの3週間で3回も強行、その技術は確実に進歩しているとみられています。

>>最新の世界経済状況をセミナー・ダウンロードでチェック!<<

市場は北朝鮮のミサイル発射には慣れっこになったよう?

こんな頻繁な発射実験となりますと、市場は北朝鮮のミサイル発射には慣れっこになったようで株式市場も為替市場もほとんど反応することはありませんでした。先にイタリアで行われたG7においても北朝鮮の問題は大きく取り上げられ、国際社会が取り組む最優先事項と位置づけられていました。安倍首相は<北朝鮮を抑止するため、米国と共に具体的な行動をとっていく>と述べたものの、どのような具体的な方法を取るか難しいところでしょう。4月には米国と北朝鮮の軍事衝突もあるのではないか、との報道が相次いでいましたが、現在、北朝鮮危機についての報道は4月に比べると著しく減っています。しかしながら冷静に現状を見れば、北朝鮮を巡る危機は更に深まってきているようにも思えます。本当に米国の軍事行動はあるのか? という懸念については山のような見方があらゆるメディアから出されていて様々な意見に惑わされます。ここでこの問題を整理して、どの段階でどのように対応すべきか、仮に米国が軍事行動を取るとすればその決定的なサインは何か、考えてみたいと思います。

 4月に日本のテレビや新聞、週刊誌などあらゆるマスコミが北朝鮮危機を煽っていた時点においては、株も大きく下げ、円相場は上昇し日本中に危機感が漂っていました。ところが蓋を開けてみたら、米国の空母カールビンソンは北朝鮮に向かっているどころか、逆のオーストラリア方面に向かっていたことが明らかにされたのです。振り返ってみればこの北朝鮮に対する米国の出方は完全な情報操作が行われていて、日本中だけが異様に騒いでいたことがわかります。当時もラジオやこのレポートでもはっきり指摘しましたが、まずは北朝鮮に対しては中国に圧力をかけて問題解決を目指す段階で、いきなり軍事攻撃の可能性は低いことを強調してきました。更に韓国の株価が最高値を更新し続けていることも指摘、日本のマスコミだけが騒いで危機を煽り過ぎていることを再三指摘し、株は<断固買うべき>と強く主張し続けました。案の上、日本の株式市場は4月の第2週のSQを底にして急上昇する形となりました。折しもフランス大統領選挙でも極右のルペン候補が大敗してマクロン新大統領が誕生したことで、一気に地政学的リスクに対しての懸念が払しょくされる展開となりました。こうして現在ではマスコミも4月の時点のように北朝鮮問題を必要以上に騒ぎ立てることもなくなりました。

 しかしながらこのような時こそ、北朝鮮問題、並びに米国の軍事行動の可能性について冷静に考えるべきかもしれません。実際に米国が軍事行動を取るとなれば、事前にアナウンスすることなどなく、電撃的なシリア攻撃のように突如行われる可能性の方が高いと思われます。私は4月の時点では余りに危機を煽り過ぎるマスコミ報道に対して批判してきましたが、その後落ち着きを見せている6月下旬から7月にかけては、米軍の動きには要注意と考えています。事の成り行きによっては株式などのポジションも幾分軽くする必要もあるかもしれない、と考えていますので、危機のサインや注意すべき事象を確認しておきたいと思います。

軍事作戦の情報操作?

 まず4月の時点で米国が北朝鮮を攻撃する可能性が極めて低かったのは、現実問題として米軍の北朝鮮に対しての攻撃体制が整ってなかったという事が言えます。米国が大規模な戦争を起こす時は空母一隻ではとても賄いきれません。イラク戦争時もそうですが、米国が本格的な軍事行動を起こす場合は、空母3隻体制で臨みます。これは仮に一隻の空母で戦争を遂行した場合、何かその空母にアクシデントが起こった場合、飛び立った飛行機が帰還できなくなる可能性があるわけで、そのような準備の整わない体制で戦争を仕掛けるわけにもいかないからです。そういう意味では大規模な戦争を行うのであれば米国の従来からの戦争のやり方として空母3隻体制が必要なわけです。

4月の段階では空母が北朝鮮沖に向かっていると公にアナウンスして実際は逆のオーストラリア方面に向かっていたわけですが、これなどは典型的な軍事作戦の情報操作と思われます。その目的は北朝鮮への開戦近し、との情報をまことしやかに流すことによって、北朝鮮の有事に対しての変化をみるものだったと思われます。有事となれば北朝鮮は何処に物資を運ぶのか、人の動きはどのように変化していったのか、そしてミサイルなど兵器はどのように保管されたのか、様々な変化を追尾することで北朝鮮における有事の体制を観察すると共に軍事的に重要な個所や重要な人たちの動きをくまなく衛星で追っていたことでしょう。また真に当時の空母カールビンソンの動きが把握できていれば、米国から偽情報が流されていることがわかるわけですが、かように北朝鮮が米国の空母の位置関係を把握することができているか、また、中国軍から北朝鮮にどのような情報がもたらされているのか、その辺の確認もあったことでしょう。カールビンソンが北朝鮮沖に向かっていくとの偽情報を流すことで、米国としては有事における北朝鮮の動きについて数多くの貴重な行動を確認、その上で有事が現実になった時の戦略を積み上げていったものと思われます。

既に横須賀基地に停泊していた空母<ロナルド・レーガン>は5月16日出港、北朝鮮周辺に向かっています。更に米太平洋艦隊は5月26日、空母<ミニッツ>が米ワシントン州の海軍基地を6月1日に太平洋の北西部に向かって出港すると発表しています。こうなると6月下旬には一時的に西太平洋に<カールビンソン>、<ロナルド・レーガン><ミニッツ>と米国が大規模な戦争を行う時の空母3隻体制が整うこととなります。かように4月の時点と違って6月末には北朝鮮への戦争への準備体制が整えられることとなります。日本のマスコミは静かですが、6月末には米国による北朝鮮への攻撃体制が整うことは頭に入れておくべきでしょう。

まずは中国に圧力をかける、その結果を踏まえて軍事行動を起こすかどうか決めるというのが、北朝鮮に対しての最終的な方針であると思われます。その意味ではこの6月末から7月という時期は極めて微妙な時期になってくると思われます。

米中首脳会談は4月6日、7日にトランプ大統領の別荘であるフロリダで行われました。その時は貿易問題の解決のために中国は<100日計画>を策定することで米中が合意したのです。その後トランプ大統領の中国への非難は一斉なくなって、事あるごとにトランプ大統領は習近平主席を持ち上げるようになりました。これはある意味、中国がどれだけ本気で北朝鮮問題を解決できるか、そして原油の禁輸も含めて、中国が北朝鮮に圧力をかけて北朝鮮の体制の変化や核開発やミサイル開発の断念など北朝鮮の譲歩をどれだけ引き出せるか、中国側の本気度と北朝鮮に対しての真の影響力を試したものと思われます。4月の米中首脳会談後は貿易問題における<100日計画>だけはマスコミを通じて報道されていますが、実際はそれと同時にもっと重要なこととして、中国による北朝鮮の問題解決というデッドラインもこの100日という期間に区切って米国が中国側に圧力をかけていた可能性も高いと思います。つまり中国側は貿易問題よりもむしろ北朝鮮問題の解決期間としての<100日計画>の遂行という宿題を与えられたのではないでしょうか。

中国の習近平主席に対して3ヶ月以内に北朝鮮問題で成果を出すように迫った

ティラーソン米国務長官はFOXテレビのインタビューでトランプ大統領が4月の米中首脳会談で、中国の習近平主席に対して3ヶ月以内に北朝鮮問題で成果を出すように迫ったと述べています。今になってこのような話し合いがあったことを明らかにしてきたのです。北朝鮮問題における明確な成果とは北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を止めることでしょう。米中首脳会談の主な命題は中国側が真に北朝鮮問題を解決できるのか、という試金石だった可能性が高いかもしれません。仮に中国側の答えが米国側を満足させるものでなかった場合は、空母3隻体制を整えてのいよいよ北朝鮮への軍事行動発動もあり得ないこともないでしょう。

政治学者イアン・ブレマー氏によるとトランプ大統領は歴代の米国大統領に比べて、自らの行動に対する制限が少ない、ということです。言い換えればトランプ大統領は<強硬な単独主義者>であって、同盟国の意志など関係なく自分の思ったように行動するタイプであり、回りの事は深く考えずに勝手に大胆に行動してしまう<身勝手に動く>傾向が強いというわけです。ブレマー氏は今年2017年から世界は地政学的リセッション、いわゆる大規模な戦争が起きてもおかしくないような状況に入ったと指摘していますが、それは北朝鮮の問題もありますが、より大きな波乱要因はトランプ大統領の持つ特異な性向に起因しているという見方です。ブレマー氏はトランプ氏が核兵器を使う誘惑を抑えきれなくなる可能性もある、とも指摘していますが、現実問題として戦争や核兵器の使用を含めて米国大統領が権限を持っているわけです。トランプ大統領が北朝鮮を攻撃すると決断すれば現実に実行されます。普通に考えると韓国でムン・ジェイン新政権が誕生してこのムン政権は北朝鮮に対しての融和的な姿勢ですから、米国の北朝鮮攻撃を是認するわけはありません。それでもトランプ大統領ならば、そのような韓国側の意向を無視してでも北朝鮮への攻撃を実行しかねません。マティス米国防長官は<北朝鮮を巡る如何なる軍事的解決も想像を絶する悲劇を引き起こす>と警鐘を鳴らしています。

かつてクリントン政権時にクリントン政権が北朝鮮攻撃手前までいったのですが、時の金泳三韓国大統領は<もし、米国が攻撃したら、北朝鮮はすぐにソウルを攻撃する、それで私は絶対ダメと何回も電話しました>と当時を振り返っています。ソウルは北朝鮮との境界線38度線からわずか40キロしか離れていないのです。有事となればソウルの甚大な被害は避けられません。金泳三大統領はクリントン氏の方針に異議を唱え、大反対して最終的にクリントン政権の北朝鮮攻撃が断念された経緯がありました。この時米国のカーター元大統領が北朝鮮を電撃訪問して当時の北朝鮮の金日成主席と会談、ぎりぎりのところで危機が回避されたのです。金日成も何処かで妥協したいと思っていたのでしょうが、指導者らしく米国の元大統領が訪問してきたという米国側の動きを評価して、北朝鮮としては思い切った妥協をして一時的にも国際社会に受け入れられる道を選びました。かように金日成は北朝鮮の独裁者でありましたが、太平洋戦争や朝鮮戦争を実体験してきただけあって、妥協すべきところは大胆に妥協して、自ら北朝鮮の危機を脱したとも言えます。ところが金正恩は全く現実の戦争体験が皆無で、若くして実績もないのに北朝鮮の国内の事情から<偉大な指導者>として祭り上げられてきています。押せ押せで米国や中国に対して強気で対応することはできても自らの力量を計って必要なら妥協するすべを知らないように思えます。周りに必要以上に祭り上げられているので、思い切って撤退する勇気を持てないかもしれません。そういう意味では米国と北朝鮮も水面下でスウェーデンなどで秘密交渉は行っているものの、トランプ大統領、金正恩の性格を考えた場合、お互いぶつかり合ってしまい、一致点が見いだせず交渉の先行きは予断を許さないところもあるでしょう。

では仮に米国と北朝鮮の水面下の交渉が完全に決裂して米国が軍事行動を決意した場合、どのような変化が生じるでしょうか? 米国の軍事行動へのサインを如何にして事前にキャッチするか、という事ですが、ズバリ、6月に予定されている<在韓米軍家族と軍務員家族を対象にした民間人避難訓練の実施>に注目すべきと思います。これは在韓米軍が朝鮮半島有事の際に、韓国に移住している米国人を緊急に避難させる非戦闘員護送作戦の訓練のことです。毎年5月に実施してきたものですが、今年は4月戦争説があったため不必要な誤解を招かないように6月に延期した、と米軍側が今回の避難訓練の先延ばしについて説明しています。もっともらしい説明ですが、避難訓練の時期が北朝鮮沖に空母3隻が揃う時期と一致してきたことに注目です。現在韓国には在韓米軍2万8500人を含めて韓国に移住している米国人は23万人いると推定されます。如何にトランプ氏と言えども彼らを逃がすことなく、北朝鮮に専制攻撃を仕掛けることはないでしょう。この避難訓練が表面上の訓練だけなら問題ないですが、訓練とかこつけてそのまま米国人を韓国から退避させるようなこととなれば米国の北朝鮮攻撃が現実のものとなってくる可能性がかなり高いと思われます。そういう意味ではこの6月に行われる避難訓練については十分に注意を払ってその実施と推移をみていく必要があるでしょう。仮に本当に米国人が韓国から退避するような場合は、米国の北朝鮮攻撃もあり得る、と考えた方がいいかもしれません。

>>最新の世界経済状況をセミナー・ダウンロードでチェック!<<