<あんなに水の豊富な日本で水不足の話があったのはびっくりしました>イスラエルに長年住んで今回のツアーでガイドをしてもらった榊原氏の指摘です。イスラエルの旅行では驚かされることばかりで、行くところ、ところで目をみはることばかりでした。通常、海外旅行では特に水に注意するのですが、今回のイスラエル旅行では水の心配は全くなかったのです。どこでも水は豊富で新鮮、もちろん果物や野菜、チーズといった食べ物も豊富です。これら食べ物はイスラエルでは全て自国で生産され、食料自給率100%、しかも輸出まで行っているのです。砂漠地帯でこれほど見事な農業生産を成し遂げ、しかも食料の値段は日本と変わりません。

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これがイスラエル? 砂漠ばかり、昔のままではないか?

 イスラエルの国土は日本の四国程度の大きさしかありません、しかもその国土の6割は砂漠です。人口は860万人、東京都の人口に及びません。イスラエルに住む民族はユダヤ人が約75%、アラブ人など、その他の民族が約25%です。旅行ではまずは南部の砂漠地帯であるネゲブ砂漠を延々と縦断していったのです。たまに見えるベドウィンたちのテント、羊の群れ、車から見える景色はまるで古代の砂漠の生活をそのまま現代に移したように時代の変遷を感じさせません。<これがイスラエル? 砂漠ばかり、昔のままではないか>という感じです。そして目的地のベレシートホテルに着くと、そこは絶壁の上にそびえ立つ高台に見事に豪華ホテルが作られているのです、そこから眼下数百メートル下に壮大に広がるクレーター状の砂漠、まさに数千年にかけて侵食されたと思われるすり鉢型の地形は絶景です。米国のグランドキャニオンに行った感動を思い起こしました。

 その翌日向かったかつてのユダヤ戦争の激戦地マサダの要塞も圧巻です。マサダは四方を絶壁に囲まれた難攻不落の要塞です、切り立った絶壁の上に立つマサダの要塞から見ると死海に続く荒野が寒々と広がっています。ここは紀元70年ユダヤ人1000人近くがローマ軍の攻撃にあって何と3年半も持ちこたえ、最後は玉砕した地として有名です。このような絶壁に囲まれた要塞をローマ軍が、その時代に如何にして攻めたのか、またこのような高地で外に出ることなく如何にして3年半もの間、食料や水を確保し続けたのか、様々な遺跡からまるで史劇を自ら体験するような、臨場感を感じることができます。というのも鉄砲や動力もない時代に高くそそり立つ広大な高台をローマ軍が全てを囲んであらゆる手段を使って攻め落とそうしたわけです。要塞から四方を見渡すと、当時のローマ軍の配置の記録を見る(山頂からみるとローマ軍の配置にしるしが記されている)ことができます。この高台の要塞でも水の確保がポイントですが、要塞の中には巧みな貯水システムを四方八方に作っています、昔からこの地では水を確保するため知恵を絞ってきたことがうかがわれます。

 かつてのベストセラー<日本人とユダヤ人>の中で、著者イザヤ・ベンダサンは日本人は<水と安全はタダと思っている>と指摘しました、一方のユダヤ人は水と安全は極めて貴重にしてきたことが指摘されています。イスラエルに来て砂漠地帯や回りを敵国に囲まれている現実を考えると、水と安全の重要性がひしひしと感じられるわけです。この地にいるとユダヤ人がこのイスラエルという地で命を懸けて水と安全を手に入れ、守ろうとしてきた奮闘の歴史や切磋琢磨した姿を感じないわけにはいきません。そしてその苦難の連続がイスラエルを大きく発展させてきたように思えるのです。

 その水ですが、かつては巧みな水路を作って水の確保に努めていたわけですが、現在ではイスラエルでは海水を淡水化して飲料水を確保しているわけです。イスラエルの飲料水の8割までもが海水から取ってきた水です。これが少しもまずくないのです。また農業においても水の希少性がわかっていますので、水を決して無駄にしない使い方をしています。具体的には人々の生活排水を浄化させて農業用に使うわけです。かようにイスラエルでは水の使用法の無駄がありません。またテレアビブのタグリット・イノベーションセンターでも驚かされましたが、イスラエルでは海水から水の採取どころか、現在では空気から水を作り出しています。イスラエルのベンチャー企業、ウォータージェンでは空気中から水を採取しています。イノベーションセンターで出された水は、その部屋の空気から作ったものでした、これもうまさに感動しました。

 かようにイスラエルは必要に迫られて水を生成する技術を磨いてきたのでしょうが、ある意味水を作り出すとは究極の技術のように思えます。元は戦争時に兵士が水を確保するために空気中から水を採取する手法を研究してきたということですが、現在は技術が確立しつつある、量産化への研究を進めているように思えます。

 イスラエルを訪問したインドのモディ首相が海水の淡水化の技術に接して<我が国には飲料水がなくて苦しむ人が多い、素晴らしい技術だ>と感嘆したということですが、今年7月にはイスラエルとインドで水技術に対しての協力で合意しています。現在イスラエルの水を生成する技術、淡水化の技術は世界150ヶ国へ輸出されているということです。

 何故小国のイスラエルではかような技術が生まれてくるのでしょうか? 現在水の技術だけでなく世界をけん引する画期的なハイテク技術やサイバーセキュリティ―の技術はイスラエルから生まれています。その理由を知るための旅でもあったわけですが、今回イスラエルを旅し、その過酷な自然やアラブ人との確執、更に現実の驚くべき技術革新に触れることによってイスラエルの発展、それを支えるユダヤ人の文化を感じることができました。一言で言えば元々優秀な頭脳を持つユダヤ人が過酷な環境に置かれ続けることで、切磋琢磨し、自らを鍛え上げ努力を続けることで様々の偉業やユダヤ人国家のイスラエルの発展を成し遂げているように思えます。もちろんユダヤ教という宗教の教えも大きく影響していると思います。

イスラエルは「我々は自分の命を守るために働く。」

 イスラエルの人々は<日本人はビジネスのために働くが、我々は自分の命を守るために働く>というわけで、生きる姿勢や覚悟が日本人とは全く違う感じがします。イスラエルは四方を敵国に囲まれていますから自らを守らなければなりません。イスラエルを旅していると検問にあうことがあります、そこには拳銃を携帯している兵士がチェックします。イスラエルではアラブ人も相当数いるわけで、国民の25%はアラブ系です。そのアラブ系の人たちは兵役を課せられることもなく、イスラエルの軍隊に入ることもできません。ですから主要な検問所において全てユダヤ人の兵士や警察が管理しているわけです。一方でパレスチナ自治区では、もちろんアラブ人の警官がいるわけですが、概ねイスラエル全土はユダヤ人の兵士や警官によって管理されています。イスラエルを旅していると贅沢で小奇麗なところはほとんどユダヤ人が住んでいるユダヤ人地区であり、一方でアラブ人が住む地域は貧しいことがわかります。ユダヤ人とアラブ人はイスラエルに共存しているのですが、お互い、仲良く交わることはないようで、民族間の分断ははっきり見て取れます。そのような中で、例えば米国のように白人の警官も、黒人の警官も、ヒスパニックの警官もいるのであればわかりますが、イスラエルの主要なところではユダヤ人の兵士や警官しかいません。これではユダヤ人とアラブ人の水面下での争いや摩擦は避けられないだろうと想像はできます。ただ今回の旅行でユダヤ人地区やアラブ人居住区、パレスチナ自治区も旅しましたが、危険を感じるようなことはないし、直接対立を感じることもありませんでした。表面上は極めて平穏です。イスラエルというと危険とか怖いというイメージが日本では強いですが、現実には観光客に危害があった話は聞きません。旅行してみてこれだけの見どころに溢れたイスラエルという観光地に日本人の多くが訪れないのはもったいないように感じます。

 イスラエル国内ではユダヤ人とアラブ人は住むところも別地区ですし、子供が通う学校も別です、ユダヤ人とアラブ人の結婚などはほとんどないということです。かように同じイスラエルという地に住みながらユダヤ人とアラブ人がイスラエル国内では普通の交流ができていない状況にみえます。これでは国家間の間でナショナリズムが支配する、アラブ人国家である中東の国々とは余計に摩擦が激しくなることは容易に想像できます。イスラエルは回りをアラブ国家に囲まれていますから絶えず、国家としては危険に晒されているという現状は全てのユダヤ人が感じているはずです。ですから食料にしても封鎖されれば、どうしようもないわけですし、水も自ら確保する必要に迫られているわけでしょう。だから驚くべきことですが、水は海水から確保して、食料は全て自給、軍隊を強くすることで安全を確保しようとしているわけです。

 この安全に対しての意識はイスラエルという国家の置かれた状況を考えれば当然であり、そのような現実を周知させる教育も徹底しています。イスラエルではイスラエルに住むユダヤ人の兵役は当然の義務です。また軍隊では徹底的なエリート教育と厳しい訓練によって若いうちから国民を厳しく鍛え上げているわけです。イスラエルでは回りの環境から、イスラエルに住むユダヤ人にとって国家を守ること、自らの生存を確実なものにすることは第一の命題なはずです。これはイスラエルにおいては当たり前の感覚なわけです。ですから若者は18歳になると徴兵されます、イスラエルでは既に16歳ぐらいから様々な選別にかけられて、個々人の能力や適性が審査されるわけです。そしてその中で選りすぐりのエリートたちが軍隊でも特殊任務につくこととなります。軍事技術の研究に携わるタルピオットとサイバー技術に携わる8200部隊が超エリート部隊です、ここに入るのは選別されたわずか1%未満のエリート達です。このエリート達が入隊後驚くべき課題を課せられて、24時間体制で必死で実戦的な問題解決に取り組むわけです。かつてイランのウラン遠心分離機を破壊したコンピューターウィルス<スタックスネット>を開発したのは8200部隊と言われています。

 国家の危機感や軍隊での激しい訓練によって、ある意味人間が鍛えられるということがあります。大学に入って遊びほうけている日本の学生とは、置かれた激しい環境や、意識も全く違うわけです。日本人はイスラエルに比べると、余りにも恵まれた環境下ですので、どうしても危機感もなく、おっとりしてしまいます。その点、生きるか、死ぬかという厳しい環境を否応なく経験させられるイスラエルにおいては、軍隊という厳しい環境で必然的に人間が鍛えられ、いわば早く若者が大人になり、意識も高まりその能力も充分に発揮できる環境が整えられるとも言えるわけです。元々優秀なユダヤ民族が、これだけ激しい、厳しい状況下に置かれ続け、兵役で鍛えられることで、若いうちからユダヤ民族がその能力や潜在的な力を十二分に発揮できる環境を作っているように思えます。

成功のルーツは兵役によって養った厳しさが役に立っている

 イスラエルでは医療関係のベンチャーである、シノガメディカルという会社を訪問して様々な質問をぶつけてきました。この会社は米国での上場準備を行っているということで、現在時価総額で70億円程度ということです。この会社においても研究者達はエリートで現在の自分達の成功のルーツは兵役によって養った厳しさが役に立っているということを例外なく指摘していました。若者に若いうちに厳しい環境を与えて鍛えるということは人材育成でも、イスラエルという国家の将来を考えても理に合っている政策と思えました。徴兵制の賛否はあるでしょうし、日本での徴兵制など想像もできないことですが、イスラエルのような国家の状況を鑑みれば、どうしても自らが兵役を行わなければとても国を守れるとは思えないでしょう。人が若くして育つ環境は平和で良好なことがいいのか、<若いうちは苦労を買ってでもすべき>ということで厳しい環境下に置かれたほうがいいのか、これは生き方や哲学の問題になりますが、少なくともイスラエルでは、そこで生きるユダヤ人は否応なく厳しい峻烈な生き方を強いられるし、それを乗り越えることで自らを高め、成功し、充実した人生をおくれるように思えます。ユダヤ人の歴史自体が迫害され続けた歴史ですし、その迫害の中で人類史の中で世界的に素晴らしい発見や業績を上げてきた事実があるわけです。

 今、世界中がイスラエル初の技術に注目し始めています、イスラエルには世界中から膨大な資金が投下されつつあります。イスラエルでは年間1000を超える企業が生まれ続けています。またイスラエル政府がそのような起業をバックアップしています。サイバー技術、医療技術、自動車の自動運転技術、水の生成などイスラエル初の技術から目が離せません。現在時代が急速に動いて新しい技術が世界中で怒涛のように芽生えてきています。厳しい環境下と苦難の歴史を持つイスラエルが人間を資源としてその力を十二分に発揮できる環境がやってきたように思えます。ぬるま湯に浸かりきった日本人はイスラエルから学ばなければなりません。

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