<オーケー、オーケー。彼らに応じると言ってくれ>トランプ大統領の一声で世紀の米朝首脳会談の開催が決まったのです。驚くべき展開の早さです。この会談については既に様々な見方や観測が伝えられています。否定的な意見ですと米国トランプ政権は百戦錬磨の北朝鮮の外交戦略にしてやられ、北朝鮮は結局核放棄などするはずもなく、いいところだけ奪われることとなるだろうというわけです、余りに性急に決めた米朝首脳会談はリスクが高すぎるというものです。今回の米朝会談はトランプ大統領が深く考えることなく直感的に決めた会談ですから、今後事務方が様々な課題を詰めていく過程で会談自体がご破算になる可能性も取りだたされています。米国や日本はじめ国際社会は北朝鮮に対して検証可能な恒久的な核放棄を求めているわけですが、そのような決断をあれだけ核開発にまい進してきた北朝鮮ができるはずがないというわけです。ここまでの北朝鮮との交渉の歴史を振り返っても、常に北朝鮮は約束を破り続け、合意した内容は破棄され続けてきたのです。北朝鮮は平気で約束を反故にしてしまう国です。よほどの検証体制を作らないと、米朝首脳会談で安易に合意しては、北朝鮮に経済的な恩恵だけを与えて、結局は元に戻る可能性が否定できません。

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我々は北朝鮮との問題を解決しつつある

 トランプ大統領が今回の米朝首脳会談にかける意気込みは相当なものと思います。というのも6日の記者会見でトランプ大統領は<クリントン、ブッシュ、オバマ政権はうまくいかなかったが我々は北朝鮮との問題を解決しつつある>と自信を示しています。明らかに北朝鮮側が態度を軟化させてきたのは、トランプ大統領による軍事攻撃を示唆しながらの強硬な制裁が功を奏してきたからです。北朝鮮もこのまま経済制裁を続けられてはとても国が持たない、ひいては金正恩政権自体が危うくなる可能性もある、との判断に基づいて根本的な方針を変え、オリンピックを契機に韓国に急接近して、最終的に米国との本格的な交渉に入ってきたものと思われます。北朝鮮においては、金正恩と韓国の文ジェイン大統領の会談開催は報道されているものの、依然米朝首脳会談の開催は報道されていません。おそらく国内の報道も含めてこれだけの大ニュースですから会談開催が確実になることを待ってからタイミングを計って正式発表するつもりでしょう。この世紀の会談はうまくいくでしょうか? それ以前の問題として会談自体が無事に開催されるでしょうか? そして世界が期待するように北朝鮮は劇的な変化をして本当に核開発を放棄するのでしょうか?

 一方で、仮にこの会談が不調で決裂となったり、会談自体がご破算になった場合は、いよいよ米軍による北朝鮮への軍事攻撃も視野に入ってくるでしょう。トランプ大統領としても<話し合いは尽くしたがダメだった>というわけで北朝鮮に対しての軍事攻撃の絶好の口実も出来ます。折しもトランプ大統領は国務大臣であったティラーソン氏を更迭、代わりにCIA長官のポンペイ氏を国務長官に据えました。ポンペイ氏はかねてから北朝鮮への軍事攻撃を主張してきたタカ派です。今後予備交渉の段階から北朝鮮も米国から極めて厳しい要求を突きつけられることは必至です。若い金正恩はうまく交渉することができるのでしょうか? また米国側に大きな譲歩を行えば、軍部をはじめとする国内の勢力の激しい突き上げにあうことも考えられます。盤石に見える金正恩の権力体制ですが、今まで一貫して主張してきた核開発を突如放棄するなどという180度変わる政策について、国民がついてくるのでしょうか? このような視点に立つと今回の米朝首脳会談はかなりの困難を伴うものであり、簡単にまとまるとも思えません。今までの経緯を考えれば、この米朝首脳会談は最終的に決裂して軍事衝突寸前の危機に向かっていってもおかしくないわけです。

 しかしながら私は、今回の米朝首脳会談はうまくまとまって、この会談を契機として北朝鮮は劇的な変化をしていくと思っています。決して希望的な観測を考えているのでなく、北朝鮮はこの時を待っていたと思うのです。北朝鮮は米国とさしで交渉できるという絶好の好機を見逃さず国として大きく舵を切って米国側にすり寄っていくと思うのです。

完全に中国は北朝鮮に無視されている状態

 いくつか理由をあげてみます、まず金正恩は中国を信用しているとは思えません。金正恩は権力を握ってから6年になりますが、中国へは一度も訪問せず、昨年訪朝した習近平主席の特使に会う事すらしませんでした。完全に中国は北朝鮮に無視されている状態です。叔父である張成沢を処刑したのも、張成沢が中国側に余りに近く、中国の言う事を聞かない金正恩から指導者を変えようとした画策があったと言われています。事の真偽はわかりませんが、金正恩が<中国は信用できない>と思っていたことは疑いないでしょう。また兄である金正男を殺害したのも、自らの首を差し替えようとしている中国側の意図を察して行った行為とも言われています。習近平と金正恩は見るからにそりが合わないという感じがします。金正恩は北朝鮮の置かれた<中国を頼りにするしかない自国の現状>は熟知しているものの、そのような状態からは抜け出したいと考えているのではないかと思います。

 北朝鮮から見ればイラクのフセイン大統領もリビアのカダフィ大佐も核を持っていないから滅ぼされたというわけで、それは一面事実でもあるでしょう。そんな考えを持っている北朝鮮が長年かけて開発してきた核を放棄するとは断腸の決断でもあるでしょう、ですから北朝鮮は<安全と金正恩体制の保証>という米国からの強い確実な約束が欲しいわけです。北朝鮮にとって核開発が既に成功しているということは、今後どのようなことが起こっても将来的に技術は残るわけです。たとえ、核施設が破壊されて、IAEA(国際原子力機関)から査察を受けるようになったとしても、ある時再び核開発を行おうとすれば、北朝鮮にとって核を作ることは可能でしょう。日本などその気になれば一夜にして核爆弾を作ることができると言われています。既に何度も核実験を行ってきた北朝鮮にとって、例え、ここで核放棄を宣言して、米国や国際社会の要求通り、検証可能で恒久的な核放棄を迫られても、一時的にその要求を受けて従う選択肢は当然あると思います。技術が残っている限り核開発などいつでも可能でしょう。

 北朝鮮と日本との交渉をふり返ってみましょう。2002年、時の小泉総理が訪朝して、5人の拉致被害者が返ってきました。この時の北朝鮮の権力者金正恩の父、金正日は驚いたことに日本人拉致を認め、謝罪したのです。こんなことは北朝鮮の歴史にないことでしょう、将軍様が間違いを認めて謝ったのです。日本で言えば天皇陛下の謝罪に相当する行為です。こうして拉致被害者の一部は返ってきたものの、横田めぐみさんはじめ多くの人は死亡と通告されました。これに日本の世論は怒ったわけです。これ以前は今では信じがたいと思いますが、社民党や民主党などは拉致問題自体をでっち上げと主張、北朝鮮をかばっていたのです。ところが金正日が国家として正式に拉致を認めたことで、北朝鮮の犯罪がはっきりしました、日本中怒るのも当然のことでした。では何故金正日は拉致を認めたのでしょうか? 何のために自らの犯罪を謝罪したのでしょうか? 黙っていれば闇に葬れたはずですし、国家としてこのような犯罪行為を認めるとは普通に考えれば不合理な選択です。実は北朝鮮は将軍様が誤って拉致被害者を返せば、日本は感謝して、関係が改善され、日朝の国交回復はなされ、日本から経済協力が得られると考えていたようです。何も得られないのであれば拉致を認め、謝罪することなど国家の行為としてあり得ないことです。ところが金正日は日本の世論動向を見誤ってしまい、結果拉致を認めたことで窮地に陥って、日本との関係を更に悪化させてしまったのです。この小泉訪朝後ほとんどの日本人は北朝鮮に対して強い怒りを抱くようになりました。それまでは北朝鮮による日本人拉致自体の信ぴょう性に対して疑義もあり、世論の関心もそれほど高くなかったのです。以前は大多数の日本人が北朝鮮による拉致を確信しているわけではなかったのです。かように北朝鮮側から見れば、将軍様が拉致を認めて謝罪したという行為は日朝関係改善を考えれば戦略的な大失敗でした。しかし北朝鮮はかような犠牲を払っても何としても日本と国交回復をしたかったのです。<日本と交流したい>それが北朝鮮側の本音でしょう。

 1992年、時の自民党の有力者、金丸信氏が社会党の田辺誠氏と訪朝団を結成、金丸訪朝団として北朝鮮を訪問したのです。その時は金イルソン、現在の金正恩の祖父である北朝鮮建国の祖が対応しました。金丸氏はじめ訪朝団は金イルソンの丁重なおもてなしに感動、国交回復ばかりか、<戦後45年の償い、十分な謝罪>まで約束し、このことは共同宣言として朝鮮労働党、自民党、社会党の3党の共同宣言文書の中に記されたのです。これには日本国内で批判が沸騰しました、米国も快く思っていなかったでしょう、結果として共同宣言の約束は反故にされ日朝国交回復はなされませんでした。こう見ると、金イルソンも金正日も何とか日本と国交回復を成し遂げようと試みてきたわけですが、共に失敗したのです。

北朝鮮は日本を窓口として米国に接近、何とか米国との関係を持ちたいと懇願?

 当時から北朝鮮は日本を窓口として米国に接近、何とか米国との関係を持ちたいと懇願していたものと思われます。日本との国交正常化も北朝鮮にとっては悲願なわけです。表面的に見える北朝鮮の日本、そして米国に対しての敵視政策とは裏腹に北朝鮮は日本や米国と仲良くしたいわけで、正式な国交関係の樹立を強く望んでいるわけです。今までの経緯をみれば明らかでしょう。

 今回金正恩は核開発を成功させることによって、米国と交渉することに道を開いたとも言えるわけです。また現在の韓国の政権が文ジェイン政権で北朝鮮に対して極めて融和的であることも北朝鮮にとっては心強いところでしょう。仮に金正恩が米国や日本と国交正常化を成し遂げれば、それは祖父や父の悲願を成し遂げたこととなるわけです。

 北朝鮮は貧しい国と思われていますが、実は国内に眠る膨大な地下資源を持っているのです。北朝鮮は資源の宝庫と言われ、国土の80%に資源が眠っていると言われています。核開発が容易にできるのも自国でウランが産出されるからです。その北朝鮮の資源について2014年2月英領バージン諸島を拠点とするSREミネラルズ社は世界最大級のレアアース鉱床が北朝鮮の平壌の西北に位置する鉱床に眠っている可能性があると発表しました。地質調査を行った結果約2億1600万トンのレアアースがあると推定されるというのです、この量は全世界で確認されているレアアース埋蔵量の2倍に当たります。現在は経済制裁の最中になりますから採掘など商業化はできませんが、西側の技術を得られれば採掘も可能かもしれません。

 2014年金正恩は新年の辞で<貴重な地下資源を保護し、積極的に増やさなければならない>と訓示しています。かような豊富に眠る資源も米国など西側との国交がなされれば一気に開発される可能性もあるわけです。

 どんな国でも劇的に変わることがあります。かつてミヤンマーは軍事政権下で欧米各国や日本からの経済制裁を受け、欧米各国や日本はミヤンマーに投資することはありませんでした。ところがアウンサン・スーチー氏が解放されて、軍事政権の民主化が始まると、欧米各国は競ってミヤンマーに投資するようになったのです。それまではミヤンマーへの投資は中国からだけでした。ミヤンマーの軍事政権は中国と疎遠にして表面上、アウンサン・スーチー氏を開放して民主化の態度を見せることによって欧米諸国からの援助を引き出して急速な発展をしたというわけです。それでも現在ミヤンマーは依然軍部の力は強く、権力を握っている状態が続いています。

 北朝鮮がモデルとするならこれでしょう。中国から距離を置いて、米国に寄り添って日本をはじめとする西側と国交正常化を成し遂げて、多大な援助を引き出して、資源を中心として開発を進め、国を一気に大きく発展させる、更に友好的な韓国からも援助を受ける、そして国内はミヤンマーの政権のように軍部をはじめとする金正恩政権が強力な支配を続けて権力はしっかりと維持し続ける。可能な不可能かはわかりませんが、現在のまま経済制裁を受け続けては国がじり貧となって金正恩体制も維持できるかどうかわからないわけです。ここで米国と交渉して核開発を一時的に放棄してそれに見合うだけの経済援助を得られれば将来的な金正恩政権の生き残りも図れる可能性もあるでしょう。金正恩はまだ30代で若いですし、頭も柔らかいと思います。思い切った政策変更の可能性も高いのではないでしょうか。中国は北朝鮮と米国が直接的に交渉することを快く思っていないでしょう。反面米国からすれば北朝鮮を囲い込むことができれば中国と強い交渉ができることとなります。今まで中国は<自分達しか北朝鮮にパイプを持っていない>といわゆる<北朝鮮カード>を使って米国との様々な交渉においてそのカードを利用してきました。今回北朝鮮がこれだけ融和的になったのも中国の制裁が堪えたからです。しかし皮肉なことに北朝鮮は中国に反目し米国、韓国との交渉に乗り出しました。米国と北朝鮮の対立が終わって融和的になれば中国の<北朝鮮カード>は消滅します。

 既にこの動きが始まってから米国が中国に対して貿易問題で強気で対応するようになってきました。CIA長官のポンペイ氏が国務長官となって北朝鮮との実務的な協議に臨むこととなる模様です。CIAは既に北朝鮮が米国との直接対話を懇願して首脳会談を提案してくることを予想していたということです。表には見えないところで、米国と北朝鮮は緊密に具体的な協議を進めている可能性が高いと思います。北朝鮮は金正恩体制の下、中国から米国への乗り換え、米国との著しい関係改善という劇的な変化をする可能性も否定できません。日本は拉致問題の解決が難しく、北朝鮮とどのような関係を構築していけばいいのか、難しい局面になるかもしれません。しかし仮に米国が北朝鮮に対して融和的に変化すれば、日本も北朝鮮政策を大きく変えるしかないこととなるでしょう。

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