秋は株式市場にとっては鬼門で波乱の季節と言われますが、今年も米大統領選を前にして市場には緊張感が漂ってきています。このような中、日本株は円高が進んでいる割には比較的堅調に推移しています、今後日本の株式市場においては物色対象が変わってくるように思われます。従来買われてきた大型株よりも中小型の株式の方が投資効率が上がるように思われます。ここにきて変化してきた株式市場を取り巻く環境を分析して今後の有効な投資手法を探ってみましょう。

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日銀の大量なETFの買い付けは日本の株式市場に大きな影響を与えている

 日本株が比較的堅調に推移しているのは日銀の政策効果によるものです。日銀の大量なETFの買い付けは日本の株式市場に大きな影響を与えていることは間違いありません。証券会社のレポートによれば、日銀のETFの買い付けが7月末の追加緩和によって3兆円から6兆円に拡大されたことによって日経平均を概ね2000円から3000円引き上げる効果があるとしています。一方でこれほどの額を年間に購入するとなると市場を大きく歪めてしまう、ということで市場関係者からは懸念の声が大きくなっていることも事実です。市場は自由な取引を好みますから下がるときは大きく下がっても、今度は上げる時に大きく上げるというように、市場の株価操作的な動きがなくなることで、本来自由市場が持つダイナミックさを拡大することとなります。このようなダイナミックな自然な上下が相場の醍醐味であって管理された相場など魅力がないのです。ところが今回の日銀のETF6兆円の買い付けによって、特に日銀は下がった日に株価の買い支えを目的として購入してきますから、株価は下がるべきときに下がりません。そうなっては却って相場の変動率が小さくなって上がるときに上がらないという副作用も大きいわけです。このような相場本来が持つ醍醐味を喪失させてしまった市場は魅了が失せて多くの投資家を離れさせることになってしまいます。

 このようなある意味管理された相場は<官制相場>と言われ、特に大量の資金を運用する相場のプロは<官制相場>を嫌って市場から離れていくものです。そのような市場離れが特に現在の日本株市場においては、外国人投資家のたゆまない日本株売りという形で出てきたようです。現在日本の株式市場では薄商いのなか、日銀の強烈な買い付けが続いているのですが一方で外国人投資家は日銀の買い付けを上回る売りを出している状況です。そのため市場は堅調ながらも上昇していきません。円高懸念やこれからの米大統領選挙やドイツ銀行の急落に見られる欧州の金融危機の再燃や、イタリアの12月の国民投票への懸念、更にここでは落ち着いているものの中国経済の減速懸念は収まることなく引き続き相場の重たい懸念材料です。海外投資家は<官制相場>と化した日本株市場に呆れると共に先の見えない不透明な状況を嫌って、特にドルベースで見れば高値圏にある日本株を売却し続けているようです。

 昨年中国上海市場は大暴落して世界経済の大きな火種となりましたが、この大暴落に対して常軌を逸した買い支えで市場を支えたのが中国当局でした。一説では当局からファンドや証券金融を通じて上海市場に投下された買い支えの資金は50兆円とも100兆円に上るとも言われています。中国当局が中央銀行である中国人民銀行を通じて膨大な資金を供給してそれをベースに民間の銀行が際限なくファンドや証券金融に融資し続けたことは間違いないでしょう。この金額も手法も中国ではブラックボックスで一斉公にされていません。一連の流れから株価買い支えに投入された額は膨大な額に達していることは確実と思われますが、正確な数字はわからず想像するしかない状態です。

 ただこのような常軌を逸した介入によって市場が歪められ魅力のないものとなって、結果的に投資家が中国の株式市場から大きく離れていったことは疑いありません。これは上海市場の売買高を見れば明らかで上海市場の昨今の売買高は高値を取ってブームとなっていた1年半前に比べて10分の1に落ちているという有様です。株価の異様な買い支えや当局の異様な介入が深刻な投資家離れを引き起こし結果的に市場から投資家は去っていきました、中国当局は市場を殺してしまったわけです。

世界の良質な投資家が日本市場から離れていく

 このような中国当局ほどの介入ではないにせよ、日本の市場も余りに日銀の介入が激しいので、世界の良質な投資家からみると、日本市場も中国市場と同じ特殊な市場という見方となって日本市場から離れていくというケースが相次いでいるようです。

 日銀としては7月末においては追加緩和の措置として打つ手がなってきてやむなくETFの買い付け倍増という手段を選んだのでしょうが、市場関係者の多くはこの政策を好感しているようで、実は複雑な思いで見ているように思えます。

 日銀の審議委員の中でも、ETFの買い付けを倍増するという政策については、反対意見が当然出てきたわけですが、その反対意見を述べているのが証券会社出身の審議委員であるところが象徴的というしかありません。証券会社出身の委員であれば当然株高を目指すような政策には賛成するように思えますが、逆なのです。証券会社出身なので市場をよく知るために市場を管理するような政策には基本的にアレルギーがあると思います、市場の雰囲気とか市場のあるべき姿に対しての強い思いがあるわけです。そのため今回の日銀のETF買い付け倍増のような市場を明らかに歪めるような政策には賛成できなかったものと思います。短期的に株価を買い支えることは市場にとって、ひいては経済政策として愚策であるという判断は当然かもしれません。

 そして日銀によるETFの買い付け倍増が始まると、市場関係者から多くの副作用が具体的に指摘されるようになりました。まずは日銀の買い付けとそれに先んじて大量の買い付けを行ってきた年金基金、GPIFによって、日本企業の株主が日銀や年金基金など公的マネーの比率が驚くべきほどの水準にまで高まってきたという弊害です。本来市場は民間の投資家が売り買いすべきところなのに公的マネーの買い付けが大量に入ってきて、更にその傾向が日銀の方針によって今後も拡大されていくわけです。この結果日経新聞が試算したところでは8月末の段階で東証1部上場企業のうち日銀とGPIFを合わせた公的マネーが実質的な筆頭株主になっている会社が4社に1社に上ってきたというのです。今後日銀の買い付けが拡大していくので、この傾向は更に激しくなるわけです。民営化ならぬ国営化が実質的に日本の株式市場で進行中という喜べない現実となっています。

 また市場から違った苦言も出てきています。それはETFの買い方が日経平均型に偏っているために、日経平均採用銘柄ばかりが異常に上昇するようになって株価自体に大きな歪みをもたらすことになってしまう、という懸念でした。これは絶えず言われてきたことですが、日経平均は指数として偏った指数であり、例えばユニクロ、ファーストリテーリングは日経平均の構成の8.5%となっていますから日経平均型のETFを大きく購入すればするほどにファーストリテーリングばかりが買われてしまうという弊害です。

 さすがにこの日経平均型ばかり大きく購入することによって、特定の銘柄ばかりを購入するようになって、価格差で異様な偏りをもたらしてしまう、ということは明らかな事実なので、日銀も9月の総括的検証において、ETFの買い方については変更することとなりました。今までは日経平均型を主力として購入していたわけですが、今回7月末のETF倍増になった部分3兆円、正確には2.7兆円となりますが、この増加した部分に関しては日経平均型のETFでなく、トピックス型のETFの買い付けとすると政策を変更したわけです。トピックス型であれば時価総額に応じて買われることとなりますから市場に与える影響は銘柄別の偏向がなくなって中立的となります。

 日銀がETFの買い付け額を増やしていくことは市場にとっていいこととは思えませんが、やるのであるなら今回のように市場に対して偏りのない中立的な政策にした方がいいのは明らかです。こうして日銀はETFの買い付けに関しては日経平均型からトピックス型への買い付けを増やすように政策を変えたわけです。結果的に今回の政策変更によって日銀のETF買い入れに占める日経平均型の比率は55%から25%に急低下しました。そしてトピックス型の比率は40%から67%へ急上昇したのです。このことは今後の日本の株式市場の質的な変化をもたらすことになると思われます。

 ここで今までの日銀の政策や投資環境の変化の中で起こってきた偏りを振り返ってみましょう。特に再三指摘したように日銀がETFを購入するようになってから今までは日経平均型に偏っていたために日経平均採用銘柄ばかりが買われてしまうという弊害がありました。更に1昨年から株式の購入比率を大きく上昇させてきたGPIFなど年金基金も主に日経平均などの指数を大きく購入する傾向がありますから余計に日経平均採用銘柄が偏って買われるという傾向が酷くなっていました。

 これは日経平均をトッピックスで割った、NT倍率と言われる日経平均とトピックスとの株価の関係の変化を図る指数をみるとわかりやすくなっています。

世界各国の年金基金や投資信託なども日経平均の指数に連動?

 ここで2002年から今年2016年までのNT倍率の推移を振り返ってみましょう。グラフで示す通りNT倍率は2002年から2009年頃までは概ね10倍のところを上下していました。NT倍率は日経平均をトピックスで割ったものです。このNT倍率が10倍ということは概ねトピックスの10倍が日経平均の値ということになります。今ですとトピックスがおおよそ1300ですから日経平均が13000円と考えるとわかりやすいでしょう。トピックスの10倍が日経平均だった時期が長く、そのような値が概ね妥当と思われます。(これには異論もあると思いますが)。いずれにてもこのグラフを見るとわかるようにNT倍率は2010年頃を境にして急上昇となっていきます。これは2010年12月の段階で日銀によるETFの買い付けが始まったことが大きく影響しているものと思われます。更に2000年に入ってから世界各国の年金基金や投資信託なども日経平均の指数に連動するような運用をする運用手法が盛んになってきました。勢い、日経平均がトピックスなどに比べて買われる素地がますます拡大していったわけです。2010年12月に始まった日銀によるETFの買い付けは日経平均型に偏じゅうしていました。最初この時点では日銀のETFの買い付け額は年間4500億円でした。その後日銀の買い付け額は2013年4月には異次元緩和の名の下に1兆円と拡大されていきます。更に2014年10月にはそこまでの3倍の3兆円に拡大されていったのです。この拡大される期間にGPIFによる株式購入枠の拡大も決まって、更に日経平均が偏って買われる様相になってきたのです。それが更に拡大されたのが今年7月末の日銀によるETFの追加的な購入決定だったわけです。このように日銀のETF買い付けの推移をみるとETFの買い付けに対して時間の経過と共に慣れてきて拡大することにも全く抵抗がなくなってきていることがわかります。しかしやはり倍々ゲームで伸びてきた現実は強烈で、今回の7月の増額を契機として市場関係者から余りに副作用を考えていないのでは、との疑問の声が高まって、今回の日銀の総括的検証において、ETFの買い付け方法が日経平均型からトピックス型へと変更されるに至ったわけです。

 NT倍率は2009年頃までは概ね10倍前後で推移していたものが2010年から鋭角的に上昇し始めます。NT倍率はその後一貫して上昇し続けて7月末の日銀の追加緩和決定後の8月15日の段階で12.81という過去最高の値となりました。まさに日経平均だけが異様な買い方に晒されていることがはっきりしてきたわけです。ところがこの時点を境に日経平均型偏じゅうという議論が高まってきてNT倍率の上昇に変化が生まれてきました。そして9月の日銀による総括的検証を経てNT倍率は下がる一方となって10月初め現在12.4という数字にまで落ちてきたのです。

 この間、この9月相場において日本株市場に物色対象の大きな変化が生まれてきました。9月の安値を付けた9月15日を起点として月末までの上昇率を見ると、日経平均が1.7%上昇したのに対して東証の小型株指数は5.4%と日経平均の3倍近い上昇率となったのです。ここに今後の日本の株式市場の行く末をみることができると思われます。

 今までNT倍率が極めて高くなってきたということは日経平均採用銘柄はトピックス採用銘柄に比べて割高になっていたということです。(日経平均採用銘柄はトピックスには採用されている)特に日経平均に採用されないでトピックスだけに採用されていた銘柄は比較すると割安に放置されていたわけです。

 例えば日経平均の8.5%を占めるファーストリテーリングのPERは85倍ですが、これは現状日本株の平均PER14倍の6倍に達しています。一方で業績が極めて好調なのに、PERが10倍にも達していない割安な小型株がトピックス採用銘柄の中で山のようにあるわけです。ところが今回日銀がトピックス型のETFを2.7兆円追加的に購入するようになったわけですから、これら今まで日の当たらなかった好業績の小型株には今後継続的に買いが入ってくることが確定的となりました。しかも流動性が薄い小型株においては日銀による継続的なETFの買い付けは大きな買い支えとなることでしょう。かように日銀がETFの買い方を変えたことをアナウンスしてから株式市場の物色対象の流れが大きく変化しつつあるわけです。これが東証小型株指数の予想を超える上昇となって9月中旬からの銘柄別のパフォーマンスとして現れてきたものと思われます。この9月15日から見られた東証小型株指数の上昇は今後の日本株の動きを示唆しているものと思われます。今後今まで隅に置かれてきた本来はもっと買われて良かった好業績の小型株が大きな物色対象になってくる可能性が高いでしょう。

 日銀によるETFの大量買い付けは日本株の動きを偏らせていることは間違いありません。ただ今回のETFの買い付け倍増とその後の日経平均型からトピックス型への変更は今まで買われ過ぎてきた日経平均採用銘柄の上昇を抑制し、今まで買われてこなかった小型株の上昇をけん引することとなると思われます。これは株価の本質的価値を考えた場合、ある意味正常化が始まるとも言えることです。そういう意味では個人投資家にとっては教科書通りの好業績株を割安な価格で購入するという従来型の株式投資は今後花を咲かせる可能性が高いでしょう。折しも外国人投資家が大きく保有している銘柄の動きが外国人投資家の売りが止まらないところで動きが重くなってきました。反対に小型株の動きに勢いがついてきたように思えます。今後の日本株の物色対象は東証1部市場の好業績小型株が最も投資効率が上がる投資となると思われます。

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