<良くここまで来た。引き続きアベノミクスの3本の矢を着実に進め、経済再生と財政再建の二兎を得たい>4月10日、記者会見で菅官房長官は感慨深そうに話したのです。株価は時の政権にとって成績表のようなものです。思えば2012年暮れ、日経平均が8000円の段階で安倍政権は政権をバトンタッチされました。それまでの日本の常識を打破するアベノミクスという思いきったリフレ政策は日本にとっては大いなる実験であり、一種の賭けだったかもしれません。日経平均2万円を実現させて<やっとここまでこれた>という言葉は菅官房長官の実感がこもっていたと思えます。

直接的な立役者は外国人投資家

 今回の2万円乗せの直接的な立役者は外国人投資家でした。2月下旬から強引に日本株を買い上がってきた外国人投資家は4月の第1週も4400億円を超える一手の買いで日本株の上昇を先導したのです。しかし一方で影の本当の立役者は日本の公的資金でもあったのです。日銀、GPIFなどの年金はたゆまなく日本株をじっくりと買い続けました。これらの買い付けが日本株の下値を岩盤にして買い安心感を誘い、そこに外国人投資家の買い付けが重なってついに2000年4月以来、およそ15年ぶりの日経平均2万円乗せが達成されたのです。

 外国人投資家としてもマネーの運用を如何にするか、と絶えず頭を悩ませているわけですが、最近は欧州の国債がマイナス金利になってしまったことをみてもわかるように国債による運用が異常な低金利になり過ぎて世界的に難しくなってきています。一方で株式運用ですが、米国株についてはドル高による影響が企業業績に出始めています。FRBが金利をいつ引き上げるかは難しい問題ですが、明らかに米国株は欧州や日本に比べると株価の頭は重くなっています。一方欧州株ですが上昇を続けているものの、年初からフランスでのテロ、目前に迫ったイギリスの総選挙、デフォルト寸前のギリシア問題と政治的な不安がぬぐえません。このようななか米国株も欧州株も史上最高値を更新中です。

ひるがえって日本株を見ると史上最高値である1989年12月の38915円は遥か彼方であってまだ2万円を奪還したに過ぎません。また2015年度の主要企業の増益率を見ても米国企業の予想増益率は1%台ですし、欧州企業は6%台、それに比べて日本の主要企業は14-18%程度の増益が予想されています。これでは世界の投資家が日本株に投資するという姿勢も当然の判断と言えるわけです。

 年初からみて、先進国の株価を見比べると、指数でみれば欧州株が一番上昇して次が日本株そして米国株ということになりますが、ドルベースでみると日本株が一番上昇していることがわかります。また日本株をユーロベースで直してみると、欧州株よりも上昇していることがわかります。要するに今年になってから日本株のパフォーマンスが世界で一番いいわけです。当然世界の投資家の目が日本に向かないわけがありません。それでもまだ多くの世界の投資家は未だに日本株をアンダーパフォーム、要するに市場平均の持ち高よりも少ないところも多いので、日本株が上がると相対的に運用成績が悪くなるために慌てて日本株を買うようなところも出てきているのです。

相場を支える投資家層は広がっていく一方

 一方、これまで何度も指摘したようにGPIFや日銀の買い付けは続いていますし、ゆうちょ銀行の買い付けなどまだ実質準備段階で資産運用の専門家を公募しているような状態です。これで行くと夏ごろから本格的にゆうちょ銀行も買い付けに入ってくると思ってよく、相場を支える投資家層は広がっていく一方です。相変わらず日本の個人投資家は売り基調が変わらず今年に入ってから1兆7000億円という大量な売り越しとなっています。この個人投資家も近い将来、株が下がらないことに気づいて買い付けに転じてくることとなるでしょう。

 今回の世界的な株高を考える場合、やはり量的緩和(QE)の政策効果が一番に挙げられるでしょう。QE自体は経済にどのようなツールで効果を発するのか、ということはまだはっきりとはしていませんし、議論されているところです。日本でも良く議論になるのですが、いくら日銀がマネーを印刷しても日銀の当座預金にばかり滞留するだけで市場に一向に出てこない、だからインフレ率の上昇に効果をもたらしていないではないか、という反論です。

 それ自体はその通りでそういう一面もあるでしょう。しかし現象面でみて、QEが効果をもたらしてきたことは疑いないのです。例えば米国がいい例です。リーマンショックで金融危機に陥って当時は実質国内の金融機関の多くが破たん状態だったわけですが、この状態に果敢にQEによって資金供給を行ってきたわけです。こう見ると景気を復活させた一番の立役者は明らかにQE1、QE2、QE3、と建て続けられたQE政策であったことは疑いありません。欧州にしても今年になってからQEを行ったわけですが、それによって欧州株は史上最高値を更新、QE断行は明らかに景気に対しての効果がみられるのです。日本でも同じことです、アベノミクスとは主には日銀の思い切った金融緩和政策がその柱であって、その中核はQEです。

 かようにみるとQEが経済回復に効いているのは明らかで、特にはっきりしていることは株価など資産価格に大きな好影響を与えるということです。これは明らかなことで、日銀が金融緩和をすると株価は必ず急伸するわけです。そして実体経済で言うと、株高を起こすことによって資産効果を引き起こし、結果消費が盛り上がり回り回って経済回復がなされてきたという一面が大きいわけです。そういう意味ではQEは確実に効果をもたらす政策であり、その最も顕著な効果は株高として現れると断言してもいいでしょう。

 そのQEですが世界各国がインフレ率の目標としているのは2%という水準です。米国も欧州もそして日本も2%のインフレ率達成を政策目標にしています。そしてこれが政策目標ですからこの2%というインフレ率を達成できるまでQEを続けることとなるのです。となると、日本の場合は日銀が目指した<2年で2%>の物価目標は結果として2年経って<2年で0%>という悲惨な結果となりましたのでQEを止めることなどできません。政策的にはQEを強化しなければならない状態です。物価が上がらなかったのは原油安という予想外の要因が大きかったので仕方がないという言い訳でもあるのですが、逆に物価が上がっていないで、インフレ目標の2%達成が遠のいているということは、今後も限りなくQEを続けることになる、というわけです。当然、その流れの帰結として株は上がり続けるしかないのです。

 また輸出がここにきて伸びてきたことも日本経済においての大きな変化です。これまで日本企業は円安になると輸出が増えてきて景気回復がなされたのですが、今回の円安局面では一向に輸出が伸びませんでした。これは円高時に多くの企業が海外に工場を建てて現地生産体制を構築したために、いざ今回円安になっても輸出が増えなかったという事情があります。今までですと円安になると日本企業はシェアを拡大するために値下げして売り上げの拡大を図ってきました。こうして売り上げを伸ばして更に設備投資を行うという好循環が生まれていたのです。ところが今回の円安局面では日本企業は一斉値下げを行わなかったのです。そのために輸出数量が増えない、ということで、一体日本は輸出が増えないで景気回復が本当になされるのか、という疑念の声が上がってきました。しかしその反面輸出関連の日本企業は史上最高の利益を次々に叩きだしたことにも注目すべきなのです。どういうことかというと円安になっても日本企業は今までのように値下げしなかったので利益が爆発的に拡大していったわけです。確かに輸出数量は増えなかったかもしれませんが、その分、日本の輸出企業は円安による爆発的な利益を得ることができたわけです。これは企業にとっても株価にとっても悪いことではないでしょう。そしてこのような強気に経営を続けた上で、ここで初めてこのような値下げしない体質の中で輸出が増えてきたという事実は好感すべき変化と思います。いわば日本の輸出企業はますます良くなってきたという証でしょう。

給料は上昇しても物価高に追いつかず

 更に今後は日本国内の個人消費も盛り上がってくることは確実と思えます。確かに昨年は消費税引き上げの影響があって個人消費が思わぬ低迷となりました。やはり15年ぶりの消費税増税ということで、それまでの駆け込み需要は大きかったでしょうし、実際消費税が3%上昇したことで実質7兆5000億円の資金が国民の懐から国に移転した形となりました。これが個人の懐にとっては予想以上に影響したようで個人消費に悪影響を与えていたわけです。消費税増税と円安で物価高が進み給料は上昇しても物価高に追いつかず実質賃金の減少となったわけで購買力は奪われました。消費税増税の影響は大きかったわけです。

ところが今年は春闘でも賃上げが前年を上回り過去最高水準となっています、更に人手不足が顕著で派遣やアルバイトの賃金や時給も最高となってきています、確かに多くの人々がこの恩恵を実感するにはまだ時間がかかるかもしれません。しかし賃金が上昇し始めたことは疑いありません。しかも昨年からの原油安で物価が上昇しなくなりました、賃金が上がって物価が上昇しなければ購買力が増すのは当たり前です。昨年は消費税増税で7兆5000億円取られていたのが、今年は増税がないので昨年に比べればニュートラルの状態です。更に日本経済全体としてみると原油やLNGなどの買い付け代金が12兆円近く節約されます。となると昨年に比べて日本経済全体で20兆円近い収入増がもたらされる計算です。これはGDPの4%に匹敵する巨額な収入です。昨年との比較としてみているわけですが、かように昨年に比べて20兆円近く実入りが増えた状態で個人消費が盛り上がってこないわけがないでしょう。折からの株高でムードも変わるでしょうからこれから日本は一気に個人消費も盛り上がってくるでしょう。更に2017年にはふたたび増税が迫ってきますので早めに消費をしておいた方がいいわけです。この辺のムードの変化が日経平均2万円乗せと共に一気に拡大してくることと思います。

 また懸念されていた全国の中小企業にも明るさが見えてきています。2014年度の倒産件数は24年ぶりに1万件を割り込みました。金融緩和の効果と共に、やはり原油安の影響が大きいわけです。特に地方では移動に車は必需品ですからガソリン代金が下がってきたことは大きな恩恵です。その証拠に昨年10-12月期から日本全体の中小企業の状況も好転してきているのです。昨年10-12月期の法人企業統計によると日本の全産業(金融、保険を除く)では経常利益は前年比11.6%増で18兆651億円と過去最高になったのですが、これを引っ張ったのは何と中小企業なのです。法人企業統計の中で資本金1000万円から1億円の中小企業は平均を上回る19%増益となったのです、その前の期7-9月期は2.8%増でしたから7-9月期から10-12月期に至る局面で劇的な変化があったわけです。明らかに原油安の影響で、もちろん消費税増税の影響はあったのですが、それを上回る原油安の恩恵が大きかったわけです。特にガソリンを大量に使う運輸業などでは倍近い増益となったのです。かように原油安が日本経済全体に及ぼす効果は極めて大きいのです。

 日経平均が初めて2万円に乗せたのは1987年1月30日でした。その後1989年12月30日の38915円までおよそ3年間一直線に株が上昇し続けました。今回2万円を奪還しましたので次の節目は2008年の4月高値20833円です。遠くない時期にこの値段も抜いてくるでしょう。そうなるとその次の節目は1996年の高値22666円です。秋までにはこの高値も抜いてくると思います。2万円は単なる通過点にしか過ぎません。株式市場の上値は相当大きいでしょう。