生保の投資姿勢がついに変わってきました。今まではリスク回避ということに執拗に株売却を推し進めてきて、この株売却をおよそ20年以上に渡って続けてきましたが、ここにきてさすがに時代の流れというか、デフレからインフレへの波を感じて、やっと重い腰を上げてきたようです。私は一貫して日本の機関投資家の投資スタイルを批判してきました。膨大な運用資産を持ちながら稚拙な資産運用で受益者である日本国民の資産を増やしていくことに全く寄与してこなかったからです。この20年以上に渡って日本の機関投資家は日本の低金利をいいことに国債運用だけに固執して安全第一ということで株などのリスク資産を売りまくってきました。生保業界は1980年代後半<ザ・生保>と言われ膨大な日本株の含みと不動産の含みを持ちながらその資産を高値で売ることもなくただバブル崩壊に瀕して持ち続け、受益者に約束した利回りを支払うことができず、更にバブル崩壊後は委縮した投資スタイルとなって持っていた貴重な株式資産を日経平均1万円割れの歴史的な安値で売り続けたのです。生保業界自体が規制に縛られ国家に無リスクと認定されている国債に投資せざるを得なかったという事情もあったでしょう。しかしながら国の指導という隠れ蓑に安住してただ流れに任せるままに巨大な資金運用において利回りを確保することができず、受益者を泣かせ続けたのです。

やっとたどりついた株式投資

 現在、生保各社はここにきての株高、不動産高によって含み益が拡大することによって今まで以上にリスクが取れる体制ができたということで、これから株式投資に舵を切るということです。日経平均1万円以下で徹底的に売りきった日本株を今度は2万円の上になったこの時点から買い出動するわけです。まことに皮肉なことですが、生保業界は株を売り続けたものの、残った株式が大きく上昇したためにその含み益が大きくなって、ここにきてリスクを取れるようになったので今度は一転して株を購入することにしたというのです。そんなことなら株を1万円割れの安値で叩き売らずにじっくり保有していれば今は相当な含み益を有していたはずです。経済や相場の流れを正しく読んでいれば受益者に多額の配当を渡せていたわけなのです。

 今では日本株に買い出動した年金基金などもそうですが、総じて日本の機関投資家は運用下手です。ただお上の意向に沿って投資していればいざとなった時にお上が助けてくれるという思いの下、リスクは全くとらないで右へ倣えという姿勢を貫いてきたのです。それでも日本の生保各社は生保業界という巨大なシステムの上に乗ることで日本全国から資金を万遍なく集めることに成功して受益者の利益を犠牲にして存続してきました。

 その生保もやっと日本株投資にまでたどり着いてきたというわけです。こうして日銀の買い付け、年金基金の買い付け、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の買い付け、そして最後は生保業界の買い付けと日本の機関投資家は例外なく株式市場に参画する流れができてきたのです。歴史的に見て日本人の意識や行動様式の変化は短時間で進みことはありません。日本の変化はゆっくり進みますが、その一方で日本の場合は一度変化すると簡単には流れは変わりません。投資スタイルなども最たるものです。

ここで重要なポイントは、これら日本の機関投資家の投資スタイルが完全に変化しつつあるということです。今後日本の機関投資家は株式投資については数年どころか、数十年単位で積極的な購入を続ける可能性が高いということです。動き出すのはのろいが一度動き出すとその方向に押し進んでゆくという日本人全体、及び日本の機関投資家の資金運用手法の特徴でもあるわけです。

生保が「横並び」で進む方向とは?

 さて長く眠っていた生保業界の劇的な株式投資開始の実情をみてみましょう。まず今まで全く株式投資を嫌ってきた生保業界が例外なくどの会社も株式投資に舵を切ってきたということを抑えておく必要があります。日本の生保業界は主要9社、日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命、大同生命、太陽生命、富国生命、三井生命、朝日生命とありますが、いつものことでもあるのですが、これら9社の経済や株式、為替相場の見通しはほぼ一致していて似通っているのです。会社の名前は違っていますが、その経済や市場に対する見方はほぼ一致していて独自な見方など存在していません。例えば9社の株式市場に対する見通しですが概ね穏やかに上昇していくという見方です。9社の2016年度末の日経平均の値段予想は20000円から22000円の間に集中しています。日本経済は緩やかに回復していく株価も緩やかに上昇し続けるという見解です。また為替についても9社のほとんどが2016年末のドル円の予想値を120円から125円の間と想定しています。同じく金利についても概ね長期金利が0.5%前後の水準と想定しているのです。かように判を押したようにどの会社の見通しもほぼ一緒です。独自の見方があるということはなく、ただ大勢の見方に少しの調整を加える程度ということであまり突出することなく無難な予想の下、他社と同じような資産運用を行っていこうという保守的な姿勢が見受けられます。これは日本の機関投資家の持つ一種の生存本能なのかもしれません。

 株式市場が上昇し、金利は低金利のままで、為替が円安方向という予想となれば、株式市場に資金を投入して、円安という読みの下、外国の債券や株式に資金を投入し、低金利ということであれば国内の債券、いわゆる国債投資からは撤退していこうということになります。そして生保9社はほとんど例外なく株式を購入、外国の株式、債券を購入、そして今までやってきた為替ヘッジを外し、更に国債投資は控えるという新しい投資パターンが出来上がってきたのです。

 更に株式投資に関しては今までの<物を言わぬ株主>から積極的に投資した会社に注文をつけるように変身するというわけです。これは拙著<株、株、株! もう買うしかない>でも詳しく指摘したのですが、現在では日本国はデフレからインフレへの波を受けて、日銀も年金も、銀行も生損保も株式投資を行うように誘導している関係で、株主を重視する姿勢に国として変化する過渡期になっています。

投資家に求められる変化

 6月からはコーポレート・ガバナンス・コードが施行され、企業は株主に対して今まで以上の説明責任を負い、企業価値を最大限に生かして、株主に報いる政策を推し進めるようになっていきます。

 これと共に、投資する企業側、特に生保や年金などの巨額な資金を運用する大手の投資家については、投資家として企業に積極的に建設的な対話を求めていく<スチュワードシップ・コード>を取り入れることとなるのです。今では日本の主要な機関投資家180を超える企業や機関がこの<スチュワードシップ・コード>を導入することを決めているのです。具体的には企業に対してROEの改善や配当性向の拡大を迫り、企業価値を高めるための対話も行っていくことになるのです。そして改善がみられない企業については株主総会で議案を否決するとか、役員の再任に反対するとか、今までは欧米の株主が当然のこととして行ってきた株主の権利要求を堂々と行うこととなるのです。

 住友生命は企業価値向上が期待できる200社と話し合いを持つということです、この話し合いの状況を踏まえて株主総会の議決案への賛否を決めるというわけです。太陽生命や大同生命では同じく株主総会でその企業のROEに基づく独自の基準を決めて議案に対する賛否を判断するというわけです。第一生命も大株主として株を長期保有の立場から株主還元に対して意見を言うというわけです。

 これらのことは欧米の株主としては当然のことですが、やっと日本の株主全体も欧米並みの株主意識を持つようになり、生保も時代の流れを感じて、今後株式投資を再開すると共に今までとは180度変わって株主としての立場を最大限に主張して、企業側に要求を行うようにするというわけです。

 一連の流れは日本政府主導で機関投資家に対して<スチュワードシップ・コード>の導入を迫る行政指導の中で生まれてきました。日本国がデフレからインフレへと変わる、この過渡期において株式投資を活性化させるための国による投資に適した環境作りの一環なのです。そして生保業界も国の株主重視の政策を理解して自らが変わろうとしてきたわけです。かようにあらゆる分野で現在の日本では株主重視の流れが始まり、制度化されつつあるわけです。このように生保業界も遅れはしましたがここにきてデフレからインフレへの投資に完全に舵を切った体制に変化しつつあるわけです。