<外国にアメリカ軍を駐留させておくのは金の無駄使いだ! 日米安保は必要ない!>まさか大統領候補にまで登りつめるとは思われていなかったトランプ氏が現実に米国の大統領の本命となってきました。本来であれば4年に一度の米国大統領選挙はその選出される新しい大統領によって、世界のリーダーである米国が世界をより一層安定させるための指針とか、新しい世界の流れを作りだす、新たな時代の到来を予感させる大きなセレモニーであったはずですが、今回はトランプ候補という極めて内向きの候補が人気になってしまい、米国の孤立主義ばかりが目立つようになって、今や米国の新大統領の誕生は世界に不安を与えるものになってしまっています。

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有権者には<改革>とか<変化>というフレーズが受ける

<チェンジ!>オバマ大統領はこの言葉を前面に出して大統領選を勝ち抜いてきましたが、有権者には<改革>とか<変化>というフレーズが受けるものです。有権者は既に知っているものよりも何か新しいもの、何か違った変化を好む傾向があります。今後選挙戦がヒラリー対トランプとなっていくわけですが、ヒラリーでは初の女性大統領と言う目新しさはあるものの、政策的には彼女が従来から政権の中枢にいた関係で安定感があって、有権者としては変化や新しい改革は期待できそうな感じは持てないでしょう。一方トランプが大統領になっては何が起こるかわからない危惧はありますが、反面新しい何かが起こりそうな予感もあるでしょう。有権者は何か変化、新しい波を求め、トランプ旋風は更に広がりそうです。誰もトランプ氏がここまで健闘すると思わなかったのに、ここまできたこと自体が驚きですが、選挙では勢いが最も大事、もはや米国大統領はトランプ氏になると考えるべき環境になってきたと思われます。

さてそのトランプ氏ですが、問題はアメリカ・ファーストと言って余りに第一義的に米国の利益ばかりを追求して同盟国をはじめ他国や世界に対しての関心が薄く、<米国だけ良ければいい>という露骨な<孤立主義>が際立っている点です。米国はそれほどまで他国に関与する必要があるのか、日本や韓国に軍隊を置いて守っているが、それを行うメリットはあるのか、どうか、とトランプ氏は米国民に問いかけています。我々日本人からみれば、米国が海外に軍隊を置いておくことで米国の戦略的なメリットは極めて大きいし、アジアにおいても地域の安定、ひいては世界の安定をもたらしているわけです。世界的な秩序を保つには米国が強く、そして軍事的なリーダーシップを強く持っているのは極めて重要で、議論の余地のないように思えます。

 しかしながら<日米同盟は必要ない>と堂々と公言するトランプ候補が米国で人気を得ているという事実は重く受け止めるべきでしょう。トランプ候補の言うように<一体、米国が日本や韓国やその他世界各国に膨大な費用を負担して軍隊を置いて、多くの国を守っていることが本当に米国の利益になっているのか?>という米国民の自問自答があると考えなくてはなりません。

米国の歴史を振り返ってみると、様々な局面があったことがわかります。かつて米国は<モンロー主義>と言って一切他国に関わらない、という時期もありましたし、現在のように世界に対して深く関与してきた時期もあるわけで、我々が知る終戦後70年間の米国と違った孤立主義を貫いていた米国も長く米国の歴史の中にあったという事実も確認しておくべきでしょう。

同盟は結ばず自国の事を第一に考え行動すべき?

 かつて米国はまさに<モンロー主義>と言って他国に干渉すべきでなく、同盟は結ばず自国の事を第一に考え行動すべきと主張し、そのように行動してきたのです。米国は第一次世界大戦の時も大戦への参戦が期待されたのですが、一向に参戦しようとはしませんでした。当時はまさに<モンロー主義>で他国のいさかいに巻き込まれるべきでなく米国は米国内で発展を目指すべきという考えでした。

 日本のような中小国では回りに中国やロシアのような大国、海を挟んで米国のような大国があり、日本が独自に日本の行くべき方向を勝手に決めていくわけにはいきません。日本としては行きたい方向性があったにしても中国やロシアや米国の動向を鑑みて、自らの進む方向性を決めていかなければなりません。そうしなければ一つ間違えれば国が滅んでしまいます。第二次世界大戦では無謀にも米国に参戦したことが悲惨な敗戦に繋がったわけで、日本人はこの歴史から学び、以降は米国との同盟を築いて現在に至っています。

 ところが米国のような大国は日本のように他国を気にして自国の政策を決定していく必要はありません。ましてや米国はその大陸にライバルとなるような大国は存在せず、大国と思われる中国やロシア、ひと昔前のドイツなど欧州各国とも太平洋や大西洋という大きな海を隔てています。いわばアメリカ大陸に米国を脅かす脅威はなく、米国は米国一国で経済も完結できるわけで、常に無理に世界に関わっていく必要もないわけです。ですから米国はある時は<モンロー主義>で欧州大陸やアジア地域など一斉他国に関わらない政策を取ってきたり、逆に第二次大戦後のように<自由と民主主義>という理想を掲げて世界に過剰に関与し続けてきたり、米国の歴史は孤立主義と過剰な介入主義と振り子を振るように変わってきたのです。

 日米安保は1952年締結されていますが、当時は終戦後、米国が日本の占領を終わらせた時点ですが、この時はソ連という共産圏の大きな脅威が存在していました。折しも1950年からはこの共産圏と自由主義圏の覇権を争って朝鮮戦争が行われたわけです。このような自由主義陣営と共産主義陣営が真っ向から対立していた時期に日米安保条約が結ばれたわけで、その当時の時代背景を考えれば日米が堅い同盟関係を結ぶのは当然の成り行きであり、また米国が米国自身の利益のために日本に軍隊を置いて、日本を防衛するのは当然のことだったと思われます。しかしながらその当時から60年近い年月が経って、現在に至ったわけですが、当時とは違って日本は大きな経済大国となり、中国も遅れて経済発展してきて今や中国は米国を凌駕しそうな勢いで発展してきています。かつては米国一国が突出して経済的にも軍事的にも圧倒的なスーパーパワーであって、唯一それに対抗できるのは当時のソ連だけだったのですが、現在では状況がまるで一変しています。60年前に締結された安保条約が今でも米国にとって、当時と同じように重要かと問われれば、それは違うと言えるでしょう。そのような客観的な情勢下にあって、大統領候補のトランプ氏が<日米同盟は必要ない、日本を守ってやっているのだから日本側が全額の負担を行うべきだ>と主張されると米国内でも議論が盛り上がるのも当然でしょう。米国人としてふと考え、トランプ氏の考えが真っ当な考えなのではないか、と自問自答するのも一理あるでしょう。

トランプ氏を担いで再びモンロー主義?

 米国はかつてモンロー主義で世界に関与してきませんでしたが、その時に米国が衰退したかというとそうでもありません。第一次世界大戦に参戦したのはドイツのUボートによって米国の商船が撃沈されたからで、それに怒って米国は第一次世界大戦に参戦することとなったのです。その後米国の参戦によって英国やフランスは戦勝国となったわけですが、当時米国のウイルソン大統領は二度と悲惨な戦争を繰り返してはならない、と<国際連盟>を作ったわけです。ところが米国の議会や世論はこの<国際連盟>に参加することを圧倒的な多数を持って拒否したのです。それはまさに米国は他国に関わるべきでない、というモンロー主義の継続でもありました。当時米国は第一次世界大戦に参画して多くの米国の若者の命が失われたわけですが、その結果何を得たのか、という自問自答があったものと思われます。米国の参戦は英国やフランスにとって良かったかもしれないが米国はそれによって何を得たのか? という素朴な疑問があったわけです。

ですから米国は世界に大きく関わっていくよりは米国内のことを一生懸命行って、外のことに関与すべきでない、という世論が強かったわけです。当時米国では<アメリカン・ビジネス・イズ・ビジネス>と言われ、米国はビジネス、要するに経済活動を一生懸命やるべきで無用に他国に干渉すべきでない、という考え方が強かったわけです。そのような方針を貫いた結果どうなったかと言えば、第一次世界大戦後から世界恐慌が始まる1920年代の10年間の間米国経済は驚くような発展を遂げたわけです。当時は車が出現するなどモータリゼーションの真っ最中でしたが、この10年間で米国はGDPを3倍にも拡大させたのでした。まさにモンロー主義に沿って他国に干渉せずビジネスに没頭した結果、米国の歴史上この時代は最大の繁栄を謳歌したわけです。

 その米国が商売人のトランプ氏を担いで再びモンロー主義の下、他国への関与を弱めて自国の事を第一に考え再び大きな経済的発展を目指したいという流れが生じてきたのも歴史の一コマかもしれません。トランプ個人というよりも米国の歴史的な振り子が再び米国の経済的な繁栄を最も重視する孤立主義に動こうとしているのかもしれません。

 実際、昨今のイラクやアフガニスタンにおける米国の軍事的な介入に対しての反省や挫折感も大きいと思われます。かつてはベトナム戦争で多くの犠牲者を出しながら大きな成果を得られなかったのと同じように、9.11という屈辱的なテロを体験して、その報復として出ていったイラクやアフガニスタンにおける軍事行動も結局は多くの若者の血が流されただけで成果はほとんどなかったわけです。大量破壊兵器がある、と言われて強引に攻め入ったイラク戦争ではついに大量破壊兵器は何も見つからなかったのです。このような戦争、いわゆる介入主義に対しての悔恨は米国全体を覆っているのかもしれません。そして膨大な不法移民はますます米国民の職を奪いつつあるわけです。

 トランプ氏は<移民とグローバリゼーションは米国民の雇用を奪っており、更に安全までも奪うリスクがある>と叫んでいますが、このような一見過激な発言は米国民の心情に沁みるのかもしれません。世界中は尚テロの脅威に晒されていて、多くの米国人は溢れ来る移民によって思うような職に就けないケースが続出、米国内は不満で充満しているのです。

 日本は戦後60年以上に渡ってその安全を米国の軍事力に頼ってきました。今回余りに無謀でとても大統領になるはずなどない、と思っていたトランプ氏が大統領に一番近くなっています。我々はトランプ氏が何故米国内であれほど人気を博したのか、という現実を見据えて、その中にうごめく米国内の変化を認識すべきです。実はトランプ氏という特殊な存在が突如現れたのではなく、米国そのものが変わろうとしているのです。<米国はかつてのように豊かではないのだ!>トランプ氏の言葉は重いかもしれません。

米国は変わっていきます。そして日米安保も永遠ではないのです。いよいよ日本は自分自身で自国を守る覚悟が必要となってきたことを真剣に考えるべきなのです。

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