<出口戦略は公表しないのでしょうか?>、<どのような状態が生じれば出口の議論に入るのでしょうか?><自民党の行革推進本部が出口戦略の実行時に国民負担が発生することを説明すべき、と提言していますが?>4月25日、定例の日銀政策会合が終了した後の記者会見では、黒田総裁に対して矢継早に日銀の金融政策のいわゆる出口戦略についての質問が相次いだのです。従来から黒田総裁は<出口の議論は時期尚早である>と一貫してはねつけてきたのですが、記者からの質問は執拗で止まりません。記者たちは質問の形を変えるものの出口に関しての言質をとろうとしていて、黒田総裁は出口の質問にはうんざりしていると思われますが、<時期尚早>を繰り返すばかりです。

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日銀の異次元緩和政策に出口はない!

 何故ここにきて日銀の金融政策の出口の問題にこれほど焦点が当たるようになってきたのでしょうか? この問題に関して私はこのレポートや講演、著書、CDを通して一貫して<日銀の異次元緩和政策に出口はない!>と断言してきました。そして日本は何処かの時点で止まらないインフレが勃発することとなる、と主張し続けてきました。そしてここにきて日銀のOBそして経済の専門家、マスコミ、そして自民党からも日銀の政策に対しての将来の懸念、いわゆるこの異次元緩和策の出口はあるのか、日銀はこの政策を混乱なしでやめることができるのか、という懸念が大きく広がってきているのです。日銀に対しての疑問や警戒感が爆発しそうな気配となってきています。この出口の議論は極めて専門的で難解なところもあり、日本国民全般としては大きな懸念が生じているわけでもないですが、特に専門家や知識層、そして自民党の一部の勢力までも深刻に捉えるようになってきたことは注目すべきです。この日銀に対しての懸念や、将来のインフレ到来の危惧は今後収まることなくますます懸念は高まっていくでしょう。現在起こってきたことやその背景をみてみましょう。

 まず基本的に日銀の金融政策の出口とは何か、そしてどうして出口が必要なのか、という基本的なところを振り返ってみましょう。日銀は2000年から量的緩和政策を始めました。これはその時点では従来の金融政策になかった異例の政策であり、日本のデフレ脱却のため、日銀が編み出した世界初の政策です。それは日銀が円紙幣を印刷して国債を購入するという政策です、これによって市中にマネーが行き届くようにしてデフレ状態から脱してインフレ気味に誘導しようということでした。金融政策もゼロ金利までくるともはや手法がなくなってきたので、新たに金利ではなく、マネー供給の量に焦点を当てた画期的な政策だったわけです。最初はおっかなびっくり始めていたわけですが、なかなか日本のデフレ状態を脱するには至りませんでした。そのようななか、量的緩和の緩和量が足りない、という議論も広く出てきました。

米国のリーマンショック後、米国でもこの量的緩和政策が実行され、大きな成果を上げたのです。米国ではQE1、QE2、QE3と度重なって量的緩和政策が実行され、当時のリーマンショック後の大不況と金融危機を切り抜けることができたわけです。しかしこの量的緩和政策は日銀やFRBやECBなど中央銀行が国債を購入するわけですから、当然、中央銀行のバランスシートに国債が大量に溜まってしまいます。経済が回復して資金需要が高まってくれば、中央銀行のバランスシートに溜まった資金は市中銀行によって引き出され、その膨大な資金が実体経済にばら撒かれることとなります。そうなると余りに溜まり過ぎている資金ですから今後は激しいインフレを引き起こす危険性も高いわけです。ですから経済がある程度回復してきた時点で、今度は量的緩和政策をストップして、今までとは逆に日銀などの中央銀行が国債を市場に放出する、ないしは満期期日が到来したものを償還させて市中から資金を吸収するように持っていかなければなりません。要するに量的緩和で中央銀行が膨大に購入した資金を今度は逆に市中で吸収することによって、マネーの供給量を減らし、それと共に中央銀行の財務の健全化を目指して、従来のような中央銀行のあるべきバランスシートに戻して金融の正常化を図るというわけです。金利を上げたり、下げたりして正常化するのと同じ理屈で、量的緩和においては量を増やしたり、減らしたりとマネーの供給量の調整を行うわけです。このプロセスが正常化、いわゆる量的緩和の出口というわけです。米国ではいち早く景気の回復がみられてきましたので、量的緩和政策は終了となって、1昨年から金利の引き上げ、そして今年末には量的緩和で増えすぎた国債などの償還時に再投資を行わないで、資金が市中に吸収されるように持っていくと予想されています。これが米国のFRBのいわゆる出口戦略であって、金利の正常化、量の正常化という風に金融政策を正常化させていくというわけです。この一連の流れ、景気が良くなってきたので、金利を引き上げ、それと共にタイミングをみてマネーの量も減らしていくというのが正常化、いわゆる異例の金融政策からの出口の始まりというわけです。

 リーマンショック後米国はQE1、QE2、QE3を行ってきて、その後景気が回復して、金利の引き上げと量的緩和の縮小と予定通りに推移しているので問題ないわけです。そうは言ってもこの量的緩和政策の出口、いわゆるマネー供給量の縮小は史上初めての試みとなりますから、米国の動きは市場の注目を集めているわけです。というのもそもそも量的緩和政策は2000年になって世界で初めて日銀によって実行された新しい試みですから、その実行後の後始末、いわゆる出口はやはり史上初めてのことで、これを現在は米国で実施しようとしている直前なわけです。この流れの中にあって、まだ米国においてもこの量的緩和策の縮小が市場の大きな混乱を招かずに実行できるのかどうか、注目されている状態です。

 そして日本では米国のケースと違って、量的緩和策の出口についてはかなりの懸念や危惧が専門家や関係者の中で広がってきているわけです。というのも日銀が黒田総裁になってから行ってきた異次元緩和という今までの量的緩和策を遥か凌駕するようなまさに異次元の緩和策なので、日銀のバランスシートに溜まっていく国債の量が加速していて日銀の国債保有量の拡大は常軌を逸しているわけです。米国のFRBや欧州のECBではバランスシートに占める国債の割合がGDPの20%台ですが、日銀の場合は来年度にはGDPの100%に達すると思われ尋常な水準ではないのです。当然米国などと違って出口戦略は途轍もない困難を極めるに違いないと予想されているわけです。しかも量的緩和後、即座に政策が効いて景気回復を果たしインフレ目標を達成して出口に入ることのできた米国と違って、日本の場合はいくら量的緩和を激しく行っても一向にデフレ状態から脱せないわけです。そうなると異次元緩和という驚くべき水準で国債を買い続けていますから、日銀のバランスシートに占める国債の量は加速度的に増長していくわけで、このままでは日本政府の発行している全ての国債を購入していく勢いなのです。これは政策的には恐怖です。

日本では一向にインフレ目標を達成することがかなわず・・・

この政策を始めた当初日銀黒田総裁は2013年4月<2年、2%、2倍>というキャッチフレーズで2年で終了させる短期決戦を目指していました。これは異例の常軌を逸した政策ですから短期で成果を出して、直ぐに政策を元に戻して金融情勢の正常化を図ろうと考えていたからです。ところがこれだけの異次元の緩和を続けているのに、日本では一向にインフレ目標を達成することがかなわず、ついに4年経っても元の状態のデフレ状態に戻ってしまって昨年は消費者物価上昇率がマイナスになってしまうという有様でした。そうなると日銀は年間80兆円の国債購入という異次元のペースで国債買い入れを続けていますので、日銀のバランスシートはもはや後戻りできないほどの膨大なバランスシートの水準にまで拡大してしまって、とてもこれは元の状態に戻すことは不可能という見方が広がってきて、それが専門家や日銀OB含めて将来に対しての異様な危機感が広がってきたというわけです。

 そこで、この後始末としてこのまま異次元の量的緩和政策を続けるのであれば、これだけ膨らんだ日銀のバランスシートを如何にして縮小するのか、その目論見は本当にあるのか、という懸念が専門家と中心に各方面に広がってきて、様々な視点からいわゆる出口政策の難しさがシュミレーションされてきたというわけです。

 黒田総裁は<出口の議論は時期尚早>と繰り返してきましたが、専門家や日銀OBを含めて、現在の黒田総裁率いる日銀は危なくて金融政策を任せておけないという雰囲気になってきているのです。

 今回自民党行政改革推進委員会の提言も強烈で危機感に溢れています。河野太郎行革推進本部長は日銀がこのまま異次元の量的緩和政策を続ければ緩和の出口は加速度的に難しくなるとして、<直前になって実は津波が来る>という事態に陥らないためにも、日銀は早い段階で出口戦略を明らかにして市場との対話を確立し不安を払しょくさせ、将来に対しての見通しを共有すべきと述べています。

 これに対して、日銀の黒田総裁は行政改革推進委員会からかような提言があったことは承知しているということで、その上で<出口戦略に関してはその時の経済物価金融情勢によって様々シナリオが考えられる。今の段階で具体的に申しあげるのは市場を混乱させるだけ>と出口戦略について言及することを拒否しています。

 かような態度を見て、河野行革推進本部長は<日銀に求めているのは市場との対話だが、会見をみても対話が行われているとは思えない>と出口戦略を語らない黒田総裁を激しく非難しているのです。

行革推進委員会は黒田総裁率いる日銀に対して大きな懸念を抱いているようです。というのもこのまま黒田日銀に任せていては日銀のバランスシートを不用意に膨らませるだけであって、取り返しのつかない状態になる可能性が大きく、後に残るのは抑えきれないインフレの到来になる可能性があるという危機感が相当強くなってきたからです。

日銀のバランスシートがこれ以上拡大していく危険性を危惧

現在の黒田日銀に任せている状態で日銀のバランスシートが際限なく拡大する状態をみて河野氏は<日銀が勝手に踊っていますから皆さん見ていてください、というわけにはそろそろ行かなくなってきている>として黒田日銀に日本の金融政策の舵取りをこのまま続けさせ、日銀のバランスシートがこれ以上拡大していく危険性を危惧しています。

私がかねてから指摘したように黒田日銀の行ってきた異次元緩和政策は日本のかつての無謀な真珠湾攻撃から始まった太平洋戦争突入と同じようなもので、始めたはいいが、終われない政策だからです。真珠湾攻撃も奇襲でその後それがうまくいって米国と講和できればよかったわけですが、結局は泥沼の戦争へと進んでいきました。始めたら終われなかったわけです。今回の異次元緩和もそれと一緒で2年で終わらせると勢いよく始めたはいいですが、既に成果はなく、終われなくなっています。そして今でも日本経済はこの異常な緩和策の中毒となり、この緩和政策を止めたら国債の買い手がなくなって、国債暴落、金利急上昇となってしまうことは明らかです。ですから麻薬と同じで緩和策を止められなくなっているわけで、まさに日銀の行った異次元緩和はかつての特攻隊のようで、清算なく戦争を始めた旧日本軍の姿が重なって見えてきます。旧日本軍も陸軍士官学校など当時のエリートの集まりだったわけですが、誰も戦争遂行を止めることを提言できなくなっていったわけです。現在の日銀の政策もこれだけ進んでしまって、出口が見えず、このままではますます日銀のバランスシートが膨らみ続け、ついには日銀が全ての国債を購入していくような展開にもなりかねません。何処かで破たんを防ぐために、この政策の出口がなくてはならないのですが、日銀内でも黒田総裁に物を言える人がいなくなっているようです。

 ですから日銀の外から日銀OBであったり、アナリストや評論家などから危機的状況を指摘され、ついには自民党の行政改革委員会まで動き出し始めたという構図です。河野氏は黒田総裁の責任を重いと考えているようで、このままいけば将来のインフレ到来による日本全体の大混乱は避けられなくなると危惧しているようです、河野氏は今後の日銀の動向、並びに総裁人事について言及して<ぎりぎりまで頑張って断崖絶壁まで来て>と黒田総裁率いる日銀が余りに無謀に政策を遂行してきたことを示唆、このままバランスシートを際限なく拡大させてどうにもならない局面に至ることを懸念しています、そしてその後黒田総裁が任期切れとなり<私はここで終わりですが、次の人が断崖絶壁から前に進んでください、と言うのは日銀総裁としていかがなものか、このまま走ったら絶壁だというなら少なくともブレーキを踏むべきだ>と述べ現在の異次元緩和という政策を無難に終了させる目算がないのならもはや緩和政策を止めるべきと強調しています。もう黒田総裁では日本は沈没する、危ないという強烈な危機感です。

 実際日銀が出口戦略を述べていないのは問題があるでしょう、というか明確な出口などないから述べることができないのが実情でしょう。日銀が債務超過になれば国民負担が膨大に増えるわけですから日銀が前もって現在の政策の危険性を国民に説明するのは当然です。しかし下手な説明をすれば出口がないことが明らかとなり市場が余計に混乱することとなります。黒田総裁が出口戦略に関して時期尚早と繰り返すのは説明できないことを隠すための詭弁に過ぎないでしょう。上手い案がなく、日々日銀内部で何か出口戦略がないか、必死で練られているのでしょうが、案などあるわけもなく、結果何も発表することなどできないわけです。既に出口に関しての様々なシュミレーションは民間で議論されていますが、巨大な副作用の伴わない効果的なものはなく、待っているのが出口時の大混乱だけです。ですから私はこの異次元緩和が始まった時から将来のインフレを避けることはできない、と断言し続けているわけです。

 FRBなどは出口の重要性を鑑みてQEを始めた段階から出口政策を明らかにしてきました。責任ある中央銀行なら当然のやり方でしょう。FRBはQEを始めて2年半後、2011年6月、QEの出口の基本方針を発表しています、その後2012年12月、出口戦略の基本方針に基づいてFRBの収益をシュミレーションしています、この収益シュミレーションに基づいてFRBの委員たちはQE3を長く続けることの危機感を共有してきたのです。この結果、QE3開始直後から当時のバーナンキ議長は議会証言でQE3が長く続かないことを強調し始めました、FRBとしてQE自体を長く続け過ぎるのは危険との判断に至っていたのです。かようにQEを推し進めている時点からFRBの会合では出口に関しての議論は相当なされてきたようです。FRBは異例な政策であるQEを続けることの危険性を議論していち早く終わらせることに注力してきたわけです。その結果が2013年5月のバーナンキFRB議長によるQE3の縮小宣言でした。そしてFRBはその後も出口政策の改定を何度も行っています。黒田総裁はこのことを捉えて<FRBも2008年のリーマンショック以降、量的緩和策を拡大する中で、出口戦略をかなり前に語ったが、実際の出口戦略とは違ったものだった。実際にそうなるわけではない話をするのはあまり適切でない>と言っていますが、現実には日銀はFRBと違って一言も出口戦略を示したことがないわけです。本来であればこれだけ将来的な危惧が広がっている中で、はっきりと先行きの展望を語るべきなのです。語れないのは語れない理由があるからで、実は日銀は出口への適当な手法が思いついていないことは明らかでしょう。

 こう見ていくと、日銀は出口戦略を言わないことで、かろうじて日銀は何か奥の手があるのだろうと思わせることによって、わずかな信頼を保っているわけです。しかしもう自民党の行政改革推進委員会までもがかような懸念を大きく公言するようになってきては、日銀もそれなりの出口戦略を発表しないわけにはいかないでしょう。そしてそれが発表されれば、やはり日銀の現在の異次元緩和の政策には本当の意味での出口が存在しないことが明らかになることでしょう。将来のインフレを免れることはできません。特攻隊のように後の事を考えずに行ってきた黒田総裁率いる日銀の政策の後始末を引き受けるのは日本国民全体です。かつて三重野日銀総裁が異様なバブル潰しを行って日本経済を奈落の底に落とし入れました。そして今度は黒田総裁が三重野総裁とは真逆にいずれ日本経済を回避不能のインフレに導くこととなるでしょう。

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