<米国は偉大な同盟国、日本と100%共にある>トランプ大統領は日米同盟の強い絆を強調しました。丸2日間に渡る安倍、トランプの極めて密接な首脳会談は日本側にとってはかつてないほどの成功だったと言えるでしょう。<会談の一番の目的は日米が蜜月であることを中国に見せつけることだ!>と周囲に語っていたと言われる安倍首相ですが今回の訪米の成果は満点と言える出来で、本人も周囲もほっとしたと共に大いに満足していると思われます。尖閣については日米安保の範囲内にあることを日米の共同声明においてはっきり確認されました。また懸念された為替や通商問題で日本側が非難されることはありませんでした。世界各国も日米首脳の緊密な関係を見せつけられ、今後世界的にみても安倍首相の存在感は高まり、役割は増すことでしょう。

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日本の国益を守るためには、米国との関係を緊密にするのは極めて重要

 日本の近年の歴史をみると米国側と密接な関係を築いていた時期は日本にとって経済的にも政治的にも安定し上手くいっていたことがわかります。かつて1980年代の中曽根政権時のレーガン米大統領と中曽根氏のロン・ヤス関係、2000年台前半の小泉首相とブッシュ米大統領との蜜月関係、そして今回新たにシンゾウ、ドナルド関係の構築ができました。日米の首脳が緊密であることが日本の国益にかなっていることは明らかです。昨今では民主党政権時に沖縄の普天間基地問題を巡って鳩山首相とオバマ米大統領との関係が冷えきっていた時期に、中国との尖閣を巡る深刻な問題が発生していました。日本の国益を守るためには米国との関係を緊密にするのは極めて重要です。トランプ氏が当選した後、大統領に就任する前の段階で今までの慣例を破っていち早くトランプ氏に面会し、更に早期にかように首脳会談を実現させ、親睦のゴルフまで行って個人的関係を深めた安倍首相の力量は大きく評価されるべきです。

 一連の流れからみて既に会談が行われる前から、今回の日米首脳会談は成功する可能性は高い、と思うのが普通の見方と思われますが、日本のマスコミは悲観、警戒一色でした。トランプ政権ができる前、そしてできた後もマスコミの論調は余りに悲観的なものが多すぎると思われます。そのことが国際情勢や市場動向を考えるうえで妨げになっている可能性も否定できません。米国でもマスコミは反トランプ一色ですが、何故これほど反トランプなのか、そして日本のマスコミも何故余りに悲観的見方を強調するのか、背景を探る共に、ニュースの見方や今後の展開を考えてみたいと思います。

 まずマスコミがトランプ叩きに奔走するのは、ある意味トランプ氏が今までなかったキャラクターですからその部分に対して懸念なり反発なりを前面に出しているわけです。トランプ氏の度重なる暴言や強圧的な態度に問題があることは世界中の人たちが懸念していることでもあります。そして世界中の人たちがトランプ氏の言動や政策についてある意味脅えているわけです。マスコミはそのような人々が抱く脅え、並びに懸念や先行き不安に対してそれをことさら強調することによって読者や視聴者の興味を引こうというところがあるように思えます。反トランプやトランプ氏に対して批判的な記事や見方を報道することが人々の関心を誘いますし、本もトランプ氏に関するものが売れ、テレビや報道もトランプ氏に関連すること、批判することが視聴者を引き付けるのです。新聞もテレビも雑誌もトランプ氏に関するものばかりです。マスコミは売れるためにはトランプ批判が一番ですから絶えずトランプ氏の言動や行動を追いかけている状態になり、トランプ氏の一挙一動を漏らさず伝えようとしています。

 そういった中でほとんどの記事や見方がトランプ批判一色になりつつあり、それによって読者や視聴者である我々一人一人がかなり影響されてきていることも意識する必要があると思います。

 例えば今回のトランプ氏のイスラム圏7ヶ国からの入国禁止令ですが、これは米国だけでなく世界中を巻き込んだ大論争となっています。米国の司法当局も憲法の下での平等に反するということでトランプ氏の決定を覆しています。テレビの報道をみると、反対のデモが大きく取り上げられ、またイランやイラクなど紛争地域から逃れようと何とか米国のビザを取得して米国に入国しようとして人たちが入国を拒否された悲劇的な現場が報道されています。そしてそのような悲劇に対して大きく声を上げて反発する人々を好意的に捉えています。概ね民主主義国家、移民国家である米国が建国の理想を忘れて移民を拒絶する姿勢は良くないという立場です。

難民受け入れ政策の違い・・・ドイツ、アメリカ、では日本は?

 ドイツのメルケル首相は難民受け入れについて<これは私たちの歴史的な義務であり、グローバリゼーションにおける歴史的な課題です>として<戦争や政治的迫害に苦しむ市民に手を差し伸べるべき>と主張しています。このような崇高な考えには頭が下がりますし、ドイツは実際昨年100万人の難民を受け入れました。一方トランプ氏はかようなメルケル首相の難民受け入れ政策について<正気の沙汰ではない>と厳しく非難しています。このメルケル、トランプ両氏の主張を比べれば、メルケル氏が人格者で正しく、トランプ氏は身勝手でこのような態度を大国の指導者が取るべきでない、と普通の日本人は感じることでしょう。イスラム圏7ヶ国からの入国禁止令についても、トランプ氏の政策は余りに強引であり人道を無視した政策という感想を抱くと思います。そしてテレビや新聞などマスコミ報道を見ていれば、日本人は誰でも反トランプに傾きかけることでしょう。

 しかし現実はトランプ氏の入国禁止令に対して米国人の半分以上が賛成しているという調査結果が出ています。マスコミではあれだけ非難されているトランプ氏の強硬策が実は過半数の米国民に支持されているわけです。

 実際、我々日本人は遠くから見ていますから自分の事として感じていませんが、難民が流入する、移民が大量にやってくるということは実際問題としては大変なことなのです。ドイツは昨年だけで100万人の移民を受け入れましたが、ドイツは日本より人口が少ないですから、日本に同じ程度の難民が流入したと人口比を考えて換算しますと、ドイツのケースでは日本に約150万人難民が流入したこととなります。日本人はこのような大量の難民を受け入れることができるでしょうか? こんなことが本当に起こったとすれば<正気の沙汰ではない>とほとんどの日本人は思うことでしょうし、そのような難民受け入れ策を日本政府も日本人も許すとは思えません。要するにニュースを見ればメルケルがいい人でトランプは悪い人というイメージになりますが、日本人はこと、難民や移民問題についてはトランプ氏以上に閉鎖的で難民、移民受け入れなど許すはずもないのです。もちろん日本と欧州や米国ではここまできた立場や歴史が違いますから全く同様に考えることはできませんが、少なくとも日本人はトランプ氏の難民受け入れ拒否政策を非難する資格はないでしょう。要するに日本は難民や移民はほとんど完全拒否であって、それを考えるとトランプ氏の難民受け入れ拒否について堂々と反対できる立場ではないということです。

 ちなみに日本が受け入れた難民は2015年の年間の調査ではわずか約100人です。昨年100万人受け入れたドイツや、受け入れないと言っても年間10万人近くを受け入れてきた実績がある米国に難民、移民政策について物を言える立場ではありません。今回のトランプ氏のイスラム圏7ヶ国からの入国禁止令について安倍首相は内政問題なので、コメントしない、と述べていましたが当然のことで日本は難民、移民政策は何処よりも閉鎖的で厳しいのです。

 メキシコからの不法移民に対する強硬政策ついても同じように日本側が発言できる立場ではないと思われます。米国はある調査によると4000万人に上る不法移民がいると言われています。米国ではメキシコとの国境線が余りに長く膨大なので不法移民を取り締まることができないわけです。このような無節操な不法移民の増加について米国民が怒るのも当然と言えないことはないでしょう。もし、日本に不法に中国やアジア各国から移民が押し寄せてきて治安や社会を混乱させれば日本人はそのような事態を許容しないでしょう。移民や入国はきちんとした手続きを踏んで行うのが当たり前のことで、法を犯して日本に入国する者を野放しにするということは日本人には耐えられないと思われます。メキシコとの国境に壁を作るということ自体が突拍子もなく、それが手法としていいのがどうかはわかりませんが、不法移民を法に基づいて取り締まるということは日本人の感覚からすれば当然のことではないでしょうか。

 かようにトランプ氏の行った不法移民取り締まりや入国禁止令などの政策は日本の現況を考えれば、とても批判できない政策だと思いますが、マスコミからくるニュースに接していると不思議にトランプ氏の行っている政策は無慈悲で身勝手という感覚を持ってしまうのです。

日本が中国と一緒に為替操作国として非難

 次に経済の報道について考えてみます。1月30日、トランプ氏は製薬業界との会合の中で為替について<他国は通貨やマネーサプライ、通貨供給量を増やして通貨安誘導を利用し我々を出し抜いている、中国や日本のやっていることをみてみろ>と日本と中国を同列にして非難したわけです。ここでは日本が中国と一緒に為替操作国として非難されたということと、マネーサプライを増やして通貨安に誘導しているとの指摘で、日銀の量的緩和政策が非難の的となっていると日本で大騒ぎとなりました。その後日本のマスコミは為替に関してトランプ政権側から何が要求されるか、日銀の政策にまで注文をつけられるのか、また通商問題でどんな要求が出されるか、米国側の強硬策を懸念する論調で溢れかえりました。ところが米国のマスコミは一斉このような報道はなかったのです。為替の話は確かに日本のテレビでも大きく報道されましたが、それは製薬業界との話の中で出てきたもので薬価引き下げと薬品業界の国内への生産回帰を求める話が主軸でした。その中でおまけのように出てきた為替の話を日本のマスコミが<ついにトランプ氏が為替に言及して日本に圧力をかけようとしている、日銀の政策にまで口を出す可能性がある>と必要以上に騒ぎ建てたわけです。これなども典型で、為替に対して日本全体が気にしていて、特にいつトランプ氏から為替に対してのけん制発言が飛び出すか、と絶えず脅えていたので、その言動の少しでも捉えたら異様な大きさで報道され、その報道が繰り返し伝えられるわけです。かような過剰報道が余計に日本全体を萎縮させました。ところが日米首脳会談を見ればわかるようにトランプ氏から為替に関しても通商問題に関しても具体的な要求はなかったわけです。日本全体が脅えているのを捉えてマスコミが過剰な報道を繰り返し、必要以上に異様な悲観ムードが形成されたように感じます。

 かように日本全体が余りにトランプ氏に脅えすぎていて現状を客観的に捉えられていないように思われます。

 ここでトランプ政権の大きな変化がありました、それは日米首脳会談前にトランプ氏が中国側と接触して、台湾を中国の一部とみなす<一つの中国>政策を維持することに同意したということです。これはトランプ政権の大きな変化です、一つの中国を認めたといっても米国の元の政策に戻ったに過ぎないわけですが、トランプ政権としては対中国については相当強硬に出ると思われていたのを現実的な路線に変更したものと思われます。かつてトランプ氏は大統領就任後、即座に中国を為替操作国に指定、そして中国からの輸入品に45%の関税を課すと豪語していたわけですが、そのような強硬策を取れば中国が報復するのは必至ですから、貿易戦争が激化していく流れが懸念されていました。トランプ氏はメキシコやオーストラリア、欧州に対しても従来になく、強引な態度で接していますが、その一方でロシアや中国に対しては慎重に対応しています。そして中国に対しては当面、現実的な対応を取っていく方針に決めたように思われます。それが日米首脳会談前の米中電話会談だったわけです。

 こうなると当面、保護主義の拡大から生じる貿易戦争の激化、一番大きな懸念材料であった米中の深刻な対立は遠のいているとみていいでしょう。米国の通商政策は仕切り直しとなり、まず初めにメキシコ、カナダとのNAFTAの再交渉が始まります。輸入品に税金を課す国境税もこれから具体化していく可能性はあります。しかし中国からの製品に一律に関税をかけるというような政策は取られることはないでしょう。そのような一律の関税をかければ米国の諸物価が急騰してしまいます。そのような政策を強行すれば米国民全体、並びにトランプ氏を支持した支持層の反発まで招くでしょう。国境税もこれから周到に検討されることとなると思われます。米国に有利なような政策を如何に作っていくか議会との折衝が本格化していくでしょう。

 トランプ氏は<これからの2、3週間で驚異的な税制改革を発表するつもりだ>と宣言していますが、今後は減税策やインフラ投資並びに金融業界の規制緩和など経済を後押しするような政策に焦点が当たると思われます。いよいよ待ちに待ったトランプ政権の大規模な景気刺激策が具体化し始めるわけです。米国株が急騰してきましたが、このような変化を受けた当然の流れです。

 ここまで指摘してきたように日本のマスコミも余りに悲観的に現状を捉えすぎて悲観的な報道が行き過ぎていたように思います。トランプ氏が将来保護貿易などで強硬手段に打って出る可能性は否定しませんし、現下の国際情勢を考えると北朝鮮においてもイランにおいても米国との対立は激化する一方で火種が尽きないことは事実です。しかし経済情勢に関しては保護主義の報道が収まって減税やインフラ投資などの景気対策が大きくクローズアップされてくる局面に入ってきたように思えます。トランプ氏の一時的な放言は続くと思いますが、政策的には米国政府として日米首脳会談で見せたように従来型の米国の国益に基づいた穏やかな政策が施行されると思われます。とりあえず発足したてのトランプ新政権は当面、安全運転に軌道修正したように思えます。米中電話会談、日米首脳会談を経てトランプ政権は現実路線に舵を切ってきたと判断すべきでしょう。

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