日本企業の業績が好調です。4-6月期の決算がほぼ出そろいましたが、早くも今期の業績予想を上方修正する企業が相次いでいます。通常上場企業が業績を上方修正するのは4-9月期までの決算、いわゆる半期、6ヶ月間の決算の模様を確認してから通期、今年度1年を通した決算予想を修正するのが普通です。4-6月の3ヶ月間の決算の様子だけでは今後1年間の模様を確認するには不安定要素が多いからです、ところが今年は多くの企業がこの4-6月期、3ヶ月間の決算を発表したと同時に通期、いわゆる1年を通じた決算を上方修正し始めました、これは上方修正を行った企業がよほど業績の先行きに自信を持っていることの現れと言えます。

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日本の上場企業は今年3月で閉めた前期の決算は減収増益で過去最高益

 日本の上場企業は今年3月で閉めた前期の決算は減収増益で過去最高益となりました。減収、いわゆる売り上げが減ったにもかかわらず、利益は過去最高益を叩きだしたのです。そして今季、2018年3月までの業績は、増収、前期と違って売り上げも増加して、利益は最高益を更新する見込みです。これで2期連続の過去最高益更新となるのです。内需企業、外需企業共々好調、電気、サービス、海運、鉄鋼、自動車、建設など好調な企業は多業種に及んでいます。今期、2018年3月までの業績では上場企業の5社に1社は過去最高の利益を叩きだす見込みなのです。

 また日本の経済指標も好調です、昨日発表になった日本の4-6月期GDPは前期比1%増、年率換算ですと4%増と驚くべき高成長となりました。これで日本のGDPは6期連続、1年半に渡って拡大していることが明らかとなったのです。低成長が当たり前と思われていた日本のGDPが1年半も成長し続けるのは実に11年ぶりのことなのです。特に好調だったのが個人消費と設備投資です。個人消費においてはエアコンやテレビ、冷蔵庫など耐久消費財の売り上げ拡大が顕著でした、リーマンショック後政府の緊急経済対策の効果で買われたこれらの耐久消費財の買い替え需要が起こってきたようです。また好調な企業業績を背景に設備投資も盛り上がってきています。

 日経平均を構成する企業の1株あたりの利益は軽く1400円を超えてくる情勢です。株式の値段を計る最もポピュラーな指標であるPERを見ると、妥当と思える15倍だと21000円、米国株並みにPER19倍にまで買われれば26600円となりますが、現状、日本企業は欧米企業よりも増益率が高いわけですから、かような株価水準になっても不思議はないわけです。ところが一向に株価は上昇してきませんし日経平均は2万円がやっとの状態です、むしろ日本全体を見回すと株価の先行きに対して懐疑的な見方の方が強いわけです。何故、日本ではかように株式市場に対しての悲観的な見方が強いのでしょうか? 歴史的にみても現状日本の企業の好業績と実力を考えた場合、そして日本のゼロ金利と企業が繰り出す配当金の増加傾向を考えた場合、株価が安いことは明らかだと思えますが、何故日本人は投資を過度に恐れるのでしょうか? 日本の株価は永遠に大きく上昇していくことはないのでしょうか?

 直近の株価の動向を見ますと先週から大きく下げてきています。日経平均は2万円割れとなり、好調だったトピックスも1600ポイント割れと2か月ぶりの安値となりました。ジャスダック市場やマザーズ市場など新興市場も崩れています。これは特に北朝鮮情勢を懸念した売りが拡大しているからです。7月と8月の初旬までは変動率の少なかった日本株がいきなり大きく下げてきた形です。

グアムに何かをすれば、誰もみたことのないようなことが北朝鮮で起こる

 この北朝鮮情勢ですが、確かにニュースをみていると緊迫感がありますが、必要以上に恐れることもないでしょう。21日から始まる米韓軍事演習を前にして北朝鮮は必要以上に過敏に反応しています。北朝鮮側とトランプ大統領の発言を追っていくと確かに米朝関係は軍事衝突が一触即発の感じがします。しかし現実問題として軍事行動は極めて難しいといえるでしょう。<グアム沖に弾道ミサイルを発射する>と威嚇する北朝鮮も、そしてトランプ大統領の<北朝鮮は世界がみたこともないような炎と怒りに直面するだろう>、ないしは<グアムに何かをすれば、誰もみたことのないようなことが北朝鮮で起こる>という激しい言動も多分にブラフ、お互いの脅しとみていいでしょう。現実に軍事行動を行えば収集のつかない事態となる可能性があることは双方わかっています。

 確かに米国は当然軍事行動を含むあらゆるオプションを詳細に検討しているはずです。その結果として軍事行動は困難という結論に達しているはずです。実際、日本や韓国に対して被害なしで北朝鮮を完全に粉砕することは難しいでしょう。韓国には米国人20万人が駐留していますし、いかにトランプ政権としても彼らを逃がすことなく軍事行動をとることはできないと思われます。軍事行動は割に合わないのです。仮に軍事行動を行って首尾よく金正恩を抹殺できたとしても、その後の北朝鮮をどのように管理するのでしょうか? かような重大な問題が生じます。金正恩政権が崩壊した場合、誰が北朝鮮を統治するのか、いったい核の管理ができるのか、中国と話がつけられるのか、など様々な難しい問題が生じてきます。要するに軍事行動を行ったとしてもその後が不確定なことばかりなのです。思い切って軍事行動を行ってもそれに見合う成果が得られる保証が全くありません。このような情勢下で軍事行動に打って出る選択肢はないでしょう。米国政府内ではトランプ大統領の過激な発言とは裏腹にティラーソン国務大臣もマティス長官も軍事行動には否定的で極めて冷静な行動を取ると思われます。また米国による北朝鮮への軍事行動には韓国政府と日本政府の同意が必要になりますが、現状で日本や韓国の政府が軍事行動を容認できるとは思えません。トランプ大統領が感情的になって独善的に軍事行動に打って出る決断をすることもあり得ないことはないでしょうが、その確率は極めて低いでしょう。

 昨年からの株式市場の流れを見ると、英国のブレグジットでの混乱、そしてトランプ氏当選時の混乱、そして今年は4月の北朝鮮との危機が大きく報じられ話題になった時の混乱と、株式市場は大きな混乱時に安値となって、その後値段をすべて戻してきた経緯があります。今回も実質軍事行動は不可能と思われますから、危機が大きく報じられるときこそ株式市場は買うタイミングとなるでしょう。本日の北朝鮮の解放記念日(日本では終戦記念日)、また来月9日の北朝鮮の建国記念日などは何か挑発があるかもしれないので要注意ですが、事態が極端に悪化することは考えづらいと思われます。

 事態が悪化するとすれば、実質世界の経済に大きな影響を持つ中国の経済が変調になった場合です。トランプ政権が中国の北朝鮮に対する煮え切らない制裁の態度に業を煮やして、中国に厳しい経済制裁を行ってくるケースもあり得ます。この場合は米中間の緊張が激化すると共に、中国経済の不安定化、ひいては中国経済の失速が起こる可能性もあります。その場合は中国経済の悪化が世界経済に与える悪影響も大きいので、警戒する必要があるでしょう。そういう意味では北朝鮮の動向よりも米国の中国への出方、並びに制裁が行われるようであればその程度や影響などを注意深く見ておく必要があると思われます。しかしこれもトランプ政権内で経済政策を担うコーン国家経済会議委員長やウィルバー・ロス商務長官らが大反対するのは見えているので、トランプ政権としても簡単に中国に厳しい経済政策を実行するとも思えません。

日本の株式市場が大きく上昇できない最大の要因は円安方向に動いていかない円相場の動き

 直近の株価はかように北朝鮮情勢に影響を受けているわけですが、それがなくても今年日本株は頭が重いという現状があります。日本の株式市場が大きく上昇できない最大の要因は円安方向に動いていかない円相場の動きが関連しています。日本株は円安になると高くなり、円高になると安くなる傾向があります。これは特に外国人投資家の投資手法に起因しているところでもあるのですが、今ではヘッジファンドやコンピュータによるプログラム売買などでも自動的に、<円買い、日本株売り>、<円売り、日本株買い>のプログラムが組み入れられているケースも多いのです。外国人投資家は日本株を購入するときに概ね、為替ヘッジを掛けます、日本株買い、と同時に円売りを行って為替のヘッジをするのです。ところが今度は逆に日本株を売却する場合は日本株を売却すると同時に為替においては円売りのヘッジを外す必要があります、要するに日本株売り、円買いという同時執行になるわけです。これがプログラム売買で自動的に行われたり、ないしはそういうことが起こるという思惑でも相場は動いてしまいます。日本の株式市場においては残念なことですが、外国人投資家のシェアが高く、価格形成に大きな影響を持っていますので、この為替の影響から逃れることはできません。そして今年の場合、年初ドル円相場は118円台と円安模様だったわけですが、その後紆余屈折はあったものの、ドル円相場は現在109円台と年初からみて円高模様になっていますし、ドル円相場の先行きの見方も様々な見方が交錯していて投資家の間でも方向感がはっきりしていません。為替の方向感が出ないことも日本株投資に積極的になれない要因です、これが日本株の上昇の勢いをそいでいるわけです。

 ドル円相場の見方となるとどうしても米国の金利動向がカギを握っています。米国の長期金利、いわゆる米国債10年物の金利は年初2.6%まで上昇したものの、現在は2.2%近辺でこれもはっきりしません。米国景気は順調に推移しているものの、日本と同じくインフレ率が予想外に上昇せず、FRBの金利引き上げ観測に対して疑念の念が出てきています。米国においてもインフレ率が思ったより上昇してこないので、金利も順調に引き上げることは難しいのでは、という観測が支配的になっているわけです。米国の7月の消費者物価上昇率は前月比0.1%増で市場予想を下回りました。これにより現在では市場から見る米国の年内の利上げ確率は26%にまで落ちてきています。米国金利が上昇しないと日米の金利差が拡大しないのでドル高円安模様に弾みがつきません。

 また日本の個人投資家に目を向けると、日経平均2万円の上では根強い売り志向があります。私はいずれ日経平均は2015年6月の高値20856円を抜いて大きく上昇していくと確信していますので、日経平均2万円を上回ったところでの売りスタンスは将来にわたってうまくいくとは思っていません。しかしながら日本の個人投資家は株式市場に対しては弱気一貫で既に8年に渡って日本株を売り続けています。私が常に日本は<株ブーム>などではなく<株売却ブーム>だと指摘し続けていますがその傾向は変わりません。そして株の売りに対しては特に日経平均が2万円を超えると顕著になってくるのです。これは感覚的なものもありますが、それよりも個人投資家のここまでの成功体験に基づいているところも大きいのです。日経平均はこの20年、1997年から21000円まで上昇したことはありません。2000年、そして一昨年の2015年、日経平均は2万円に乗せたものの、その水準を長く保つことはできませんでした。個人投資家による日経平均の2万円の上での売却は投資判断として正しかったのです。この成功体験が投資家の胸に深く刻まれていて、日経平均の2万円超は売り、という確信になっているようです。

 かように日本では企業業績は最高で株式は割安、日本全体の経済状況も緩やかではありますが着実に改善しているわけです。ところがここまで指摘してきたように日本株に対しての投資への盛り上がりは欠け、日本の株式市場は停滞感に陥っています。好調な企業業績や経済状況と地政学的リスクへの警戒や日経平均2万円への警戒感が綱引きとなっているわけです。また米国の経済は思ったほど加熱せず、金利が従来考えられていたより上がらないと考えられるようになりました。よって為替の見方も難しくなっています。これらの複雑な要因が絡み合って現在の相場のこう着状態を引き起こしているわけです。

 どちらの動きが顕著になって相場はどちらに離れるか、といえばいずれ日本の株式市場は上に離れてくるでしょう。例えば秋、9月10月株式市場は季節的にも荒れる時で警戒感がより高まってきています。かような情勢で地政学的リスクが後退して、さらにゆっくりとはいえ、米国FRBのバランスシートの縮小が予定通りに始まって、米国の将来の金利引き上げが見えてくるようになると相場は大方の予想とは逆に大きく上昇に転じる可能性も高いでしょう。とにかく日本の株式市場はその業績から見て安い、更に膨大な余剰資金を保有する日本企業の自社株買い、配当増配の流れは変わりません。日本の多くの人々が株式市場に対して弱気に傾き過ぎていることこそ問題です。これら多数派の考え通りになるとは思いません。日本株市場は下がれば日銀が購入してくれるわけですし、ゼロ金利の日本では株式の配当は預金金利などより数段いいわけですから、焦らずゆっくり保有するだけでいいのです。<我々はバブルを経験している。株ではない債券だ!>元FRB議長のグリ-ンスパン氏は債券こそが危ない投資と指摘しています。まったく同感です。次に来る大きな混乱は株式市場ではありません、まさに日米欧の中央銀行が徹底的に買いあさった債券相場の混乱から次なる激動がやってくるのです。株の暴落を気に掛けるより将来の債券の暴落、インフレの到来による現金の価値の減価こそ気に掛けるべきなのです。

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