<利回りがマイナスになっている債券が世界中で10兆ドル(約1100兆円)に上っている。これはいつか爆発する超新星だ!>債券取引の世界では世界中で第一人者と目されている米ジャナス・キャピタル・グループのビル・グロス氏は世界的な国債市場の大暴落について警告を発しました。超新星とは恒星が爆発するときに急激に明るさを増す現象です、グロス氏はまさに今、世界中で国債市場においてマイナス金利が拡大している様を国債相場の最終局面を迎える輝きと捉えているわけです。グロス氏がその専門分野である国債取引について、将来の大暴落を示唆したことは重大な意味があると考えるべきでしょう。実際、国債がマイナス金利という現実は異常であるということは誰でもわかりますが、その異常事態が沈静化するのでなく、世界中で激しく拡大し続けているわけです。日本でもマイナス金利は今年1月末に日銀の政策によって断行されたわけですが、その後、国債市場は長期金利である日本国債10年物の金利もマイナス金利が常態化してきて、その傾向が加速する一方なのです。投資家も世間もこのような状態はおかしい、と思いながらも現実は現実として認め、対応していくしかない状況です。一体この異常な事象はいつまで続くのでしょうか? そしてグロス氏の言うように将来の大爆発、要するに国債市場の世界的な暴落は起こり得るのでしょうか?

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国債の相場は暴落(金利急騰)するどころか暴騰(金利急落)

 私は一貫して将来の何処かで日本国債の大暴落(金利急騰)が起こることは疑いない、と主張してきました。そして最近は多くの専門家も将来の日本国債の暴落について警鐘を鳴らしています。ところが日本国債の相場は暴落(金利急騰)するどころか暴騰(金利急落)を続け、金利は下がる一方でついにはマイナス金利にまで突入して尚も、そのマイナス幅を限りなく拡大していく、という暴落説(金利急騰説)とは全く逆の暴騰状態(金利急落状態)を続けているわけです。そしてそれが日本に留まらず世界的な傾向となってきたのです。

 かつてFRB議長だったグリーンスパン氏は米国の金融政策において、2004年から短期金利を引き上げて景気の過熱を冷やそうとしてきたのですが、この時短期金利は政策的に引き上げたものの、この金利上昇の動きに対して長期金利は全く反応せず、長期金利は低位に張り付いたままだったのです。この状態をしてグリーンスパン氏は<謎だ>と述べたのでした。実はこの時、米国の金利引き上げ政策に対して、日本では量的緩和政策でゼロ金利を拡大させていて世界中に円資金を供給している形となっていました。世界中の投資家は金利のない円で資金を調達して世界中に拡散して投資を行ったのです。いわゆる日本発<円キャリートレイド>が大規模に行われたのでした。かようにグローバルに結ばれた世界において、例え、米国で短期金利を引き上げたにしても、長期の資金である長期金利については日本から発せられた超金融緩和という世界的な流れを受けていたのです。要するに当時いくら米国が国内で引き締め政策を行っていても、日本から膨大に供給される資金が海を越えて米国に押し寄せて米国の国債を購入、米国の長期金利を引き下げていたわけです。かように今の世界は一国だけで自国の経済情勢をコントロールできるわけではありません。世界一の金融大国米国でさえ、既に10年前から世界的な流れ、当時は日本の超低金利政策であるゼロ金利政策の影響を強く受けていたわけです。

 現在多くの識者が国債暴落を警告しても、実体のマーケットはそんな状態ではありません。むしろ全く逆に国債価格の上昇(金利下落)が世界中で起こっているわけです。もちろん将来、国債の暴落(金利急騰)は避けられないと思いますが、それと現在起こっている状態は全く別のものであって、今は国債が更に買われる、金利の低下傾向が際限なく拡大していく過程なのです。日本国債10年物、いわゆる日本の長期金利はマイナス0.165%と過去最低水準になりました。ドイツ国債10年物、ドイツの長期金利もわずか0.01%台に達し、マイナス金利突入は時間の問題です。このような流れを受け米国債10年物、米国の長期金利も1.63%と3年2ヵ月ぶりの低水準となりました。金利引き上げを目論んでいる米国でさえ日独などからくる金利低下という世界的な流れの影響を受け長期金利は下がってきたのが現実なのです。かつてグリーンスパン氏の言った長期金利が下がらないという<謎>が再び米国において世界的な低金利拡大の流れの中で起こってきているのです。

 実際、マイナス金利という事自体が実体を無視した異常事態であることは誰でもわかるはずです。マイナス金利ですから国債、いわゆる国は借金をすればするほど金利が入って儲かる事態となっています。日本のようにGDPの245%も借金のある国が更に借金を増やしていく過程で信用力が増して金利がマイナスになるなどという事は本来の経済的な常識や原則からはあり得ないことで、現在起こっていることが異常事態であるということは誰でもわかります。そう思ったにしても現実は現実ですからマイナス金利が実際施行されているわけで、尚且つ、拡大しているわけです。

 何故こんなことになってしまうのでしょうか? また日本だけということでなく世界的な傾向となっている事態にも驚きを感じます。一つには世界が低成長時代に入っていて金利自体が上がりづらくなっている現実もあるでしょう。日本はいわゆる生産年齢人口(15歳から64歳)の減少という人口減少の流れにあって、そのために成長力が落ちてきています。これは現在の日本において特に顕著ですが、やがて先進国全般や中国、韓国などでも生じてくることです。

世界中で行ってきた量的緩和政策の巨大な副作用が出始めている?

 しかしこれほど異常な低金利が世界中で起こってきた主因はこのような純粋に経済的な要因ではないでしょう。一言で言えば、長く続いている世界中で行ってきた量的緩和政策の巨大な副作用が出始めている結果と言えるでしょう。そもそも中央銀行が国債を際限なく購入していくという政策は明らかにおかしいわけです。国債は国の借金ですが、本来その借金は将来返すとなれば民間に国債を購入してもらうべきですし、国も国債を発行するにあたって将来返すことができる範囲内で国債を発行すべきです。ところが日本のようにGDPの245%まで借り入れては誰が考えても将来、このような借金は100%返せるはずがないのです。それでも返すというお題目が必要で、今はそのお題目の下<将来膨大に溜まった借金を返すのだから、今回消費増税を先延ばししましたが、いずれは引き上げるのです>とアナウンスしているわけです。冷静に考えれば返せるわけがないのですから、こんな言葉の遊びをしても仕方ないと思いますが、<あくまで将来は返す>というお題目を維持することによって、そして大多数の人々が本当に将来返すつもりなのだ、と内心は疑問を持ちながらも一応は信じていることによって国債相場の虚構が成り立っているわけです。

 この虚構が成り立っている状態をベースにして中央銀行である日銀が年間80兆円という巨大な紙幣を印刷することによって国債を力づくで買い占めて低金利を演出しているのが実情です。人々は一応国が将来借金を返すと信じている形となっていますから、国債相場を見守っているわけです。そのような中、国の今年の年間の新規国債発行額が35兆円程度なのに、日銀が年間80兆円の国債を買いあさるわけですから、市場では国債が極端に品薄になってしまいます。品薄になってしまいましたが日銀としては計画通り購入するわけですから当然、市場に流通する国債が足りなくなり、その結果として需給がきっ抗して国債の値段が上がる(金利低下)のは当然の帰結なわけです。

 これは日銀による金融緩和という政策が世間から支持されていますし、今回の15、16日の日銀会合においてもこの金融緩和の拡大が期待されています。もう日本全体が日銀の金融緩和政策は当たり前と思ってその政策に対しての、いい悪いという判断の感覚はマヒしてしまっている状態です。しかし日銀が紙幣を印刷して年間80兆円ずつ国債を購入するという政策の異常性をもう一度振り返って考えてみてください。これを株式市場に当てはめて考えてみます。

 世界の債券の市場と株式の市場規模を考えてみますと概ね半々といったところです。(現実には債券市場の方が若干規模は大きい)となると、仮に日銀によって株式市場にこれだけの資金投下が毎年なされたと考えてみましょう。現在東証の時価総額は505兆円です。日銀が年間80兆円ずつ株を購入すると6年で480兆円となって日本の全ての株式を日銀が購入するほどです。仮に日銀が量的緩和政策で行った規模で国債でなく株式を毎年購入した場合は大変な高値を作り上げることとなるでしょう。現実に日銀は日本株を購入していますが、その額は年間3兆円であって日銀が量的緩和策で行っている国債の買い付け額の27分の1にしか過ぎません。日銀が現在行っている国債購入並みに株式を購入すれば株が大暴騰になることは容易に想像できるでしょう。またそのような相場自体が一体正常な市場なのか、ついた値段に妥当性があるのかどうか、誰もが疑問に思うはずです。それでも限りなく日銀が年間80兆円の勢いで株を買い続ければ株式市場の暴騰状態が続くということは想像できると思います。

 実はこれが今の日本国債市場で起こっていることと考えるとわかりやすいと思います。日銀が強引に国債を買い続けていて、他に購入する主体がなくなっていて、異常な事態のマイナス金利という未曽有な局面に突入していても、感覚的に<おかしい、バブルだ>と思っていても、そんなことはお構いなく日銀が買い続ける以上国債価格は下がらない(金利は低下し続ける)わけです。どんな警告が出ても日銀が円紙幣を印刷して買い続ける以上国債は上がり続けるわけです。これが今の日本の国債市場の実体であり、この状態が常軌を逸した超バブル状態であることは疑いありません。

 バブルということは最後は破裂することは必至なわけです。それはいつかと言えば、日銀の目指す2%のインフレ目標が達成されたときと言えるでしょう。目標である2%のインフレ目標が達成されれば、緊急事態として繰り出してきた量的緩和策を終了させることになるからです。もちろん、杓子定規に行えば、市場が国債の大暴落となって混乱になるのは必至ですから日銀も財務省も何らかのソフトランディングの手立てを考えることでしょう。しかし国債バブルもここまできては将来何をやっても混乱なく収集できることはないでしょう。マイナス金利ばかりに目がいきますが、例えば昨年は1%以上の金利があった20年物国債の金利でさえ、今は0.17%と7分の1にまで金利が下がっているのです。バブルは日本国債全般に広がっていて特に20年30年40年満期の超長期債のバブルは酷いことになっています。

国債のプライマリーディーラー(国債市場特別参加者)の資格を国に返上

 三菱UFJ銀行は国債のプライマリーディーラー(国債市場特別参加者)の資格を国に返上することを決めました。プライマリーディーラーと言えば国にその格を認められた大きな勲章だったはずです。プライマリーディーラーは国債入札においてその入札額の4%を落札することを義務づけられています。三菱UFJ銀行によれば、それが重く、マイナス金利で購入する国債は満期まで持てば損を被ることが確定しているわけですから、そのような取引を続けることは株主に対して説明がつかないという主張です。合理的な判断ではありますが、日本で一番信用のある銀行が国の政策に反旗を翻した形です。今までは国や日銀、メガバンクと鉄のトライアングルで国債消化に協力してきたのに、今年1月末に断行された日銀のマイナス金利導入を境にして完全に不調和音が出てきているようです。

 このような一大事があれば本来日本国債の消化において懸念が生じたわけですから国債価格が急落(金利上昇)するのが当たり前です。ところが実際には国債価格は急落(金利上昇)するどころか、上昇し続けています。先ほど指摘したように日銀が円紙幣を印刷して強引に買い続けているので価格は全く崩れないで却って上昇中なのです。

 このように国内の投資家はメガバンクだけでなく生損保や地銀なども、新たな国債投資には及び腰です。国債を購入する動機は高値で買っても更に高いところで日銀に売却することができる、という<日銀トレード>だけがその購入動機なのです。これは高いのがわかっていても次に更に高く購入する投資家がいれば大丈夫という<ねずみ講>の発想に基づいて国債を購入しているわけです。このような取引からは逃げ出そうとする三菱UFJ銀行の決断も理解できないことはありません。

 更に現在最も日本国債投資に積極的なのは外国人投資家です。彼らは例え日本国債の金利がマイナス金利であっても、日本の投資家にドルを供給することで金利がもらえるわけです。そのもらえる金利が日本国債のマイナス金利を凌駕しているので、彼ら、ドルを調達できる外国人投資家にとっての日本国債投資は利幅もあり合理的というわけです。

 そのような取引が活発化して、今では日本国債を取引するのは外国人投資家と<日銀トレード>を狙った<ねずみ講>的な投資手法の日本の投資家だけとなってしまったのです。海外投資家の日本国債取引の割合は3月には全体の27%と2004年以降で最も高いシェアとなりました。そして海外投資家の日本国債の保有比率も昨年末の時点で10.6%とついに10%を超えてきたわけです。因みに日銀の日本国債の保有残高は昨年末の時点で331兆円と保有比率は全体の32%に達しました。

 問題はいつかやってくる、日銀の国債買い付けが終了するときなのです。日銀がインフレ目標を達成できて、日銀が国債の買い付けを止めなければならない時なのです。今回の異次元緩和政策は真珠湾攻撃と同じで始めたはいいが、終わることができないことが問題、と指摘してきました。始めた戦争を終わらせることができなくなったように、異次元緩和政策を終了させることが、国債相場の先行きを考えるとできるはずがないのです。しかも頼りにしていた日本一の銀行である三菱UFJ銀行は国債の取引から距離を置こうとしています。外国人投資家ではいざという時に当局のいう事など聞いてくれるはずもありません。

 ゴールドマンサックスは<次の国際的な債券売りを引き起こすのは日本になる可能性がある>と警告しています。日本国債の急落から始まる混乱で<世界中の国債も日本国債に引きずられるように売りを浴びせられるだろう>と警鐘を鳴らしているのです。

 今この時点で日本国債に問題が起こるとは思えません。まだ当分日本国債の市場は岩盤で金利は更に下がっていくでしょう。しかし来年か再来年がその先かに現在の反動が始まるときがくるでしょう。将来的な日本国債の暴落が避けられるとは思いません。誰もが国債市場を異常だ、高い(金利が低すぎる)と思いながらマイナス金利は更に拡大して、円相場も更に高くなっていくのです。明らかなる国債バブルが将来の超新星という爆発に向かって更に膨らんでいるのです。

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