世界中の国でわれ先にとの金融緩和ラッシュが続いています。今日はこの国、明日はどの国といった風にまるで日替わりメニューのように何処かの国が金利引き下げや量的緩和策の導入など金融緩和策を発表するのです。昨年10月末の日銀による異次元緩和などはもうすっかり昔のことで忘れられた遥か彼方のことのように思えてしまうほどです。その証拠に対ドルではともかくも、円相場はドル以外の通貨に対しては今年に入って上昇モードです。さすがの円も今年に入ってからの世界的な激しい金融緩和ラッシュにはついていけず市場では<置いてきぼり>の様相です。円相場は既に豪ドルやカナダドルに対しては昨年10月末の異次元緩和時以前の水準にまで円高が進んでいるという有様です。まるで金融緩和をしないと世界の潮流に乗り遅れ、中央銀行として無能のそしりを免れないといった風潮が今の世界には蔓延してきてしまったかのようです。このままでは金利を引き上げるともくされている米国でさえ、いつ金利を引き上げられる環境下になるのかは予断を許しません。

世界各国の金融緩和ラッシュ

 世界は今や完全な金融緩和戦争に突入です。われ先にと争って金融緩和していかないと自国の経済が深刻な事態に陥ってしまうという各々の切羽詰まった状況があるのです。1月半ば以降の世界各国の緩和ラッシュは勢いがついてきました。インド、スイス、ペルー、デンマーク、パキスタン、トルコ、エジプト、カナダ、ユーロ圏、ロシア、オーストラリア、スウェーデン、といった具合で休む間がありません。<あの国も!>と連日のサプライズの連続です。既に今年に入ってから20ヶ国以上が金融緩和に踏み切り、G20の国だけみても半数以上の国が金融緩和を実行しているのです。デンマークに至っては今年だけで4回、直近10日間では3回も利下げを行ったのです。

 昨年からは原油安が大きな話題となって今も原油動向がマーケットの懸念材料ですが、今や原油相場に変わって緩和ラッシュの動向が最も注目を集めるようになってきたのです。過去26週間でドルは円とユーロに対して20%も変動しています。歴史的にみてもこのように為替相場の変動率が異常な水準になっていたことは、現在のような世界経済が平穏に推移している局面ではありえないことなのです。リーマンショックのような歴史的な危機の時に為替相場が激変するのは当たり前ですが、現在、一応は落ち着いている世界の経済状況の中で、これだけ極端に為替が乱高下しているのは異常の一語であり、この主因はこれら日替わりメニューの各国の緩和ラッシュのなせる結果なのです。

 イングランド銀行のキング前総裁はこの状況をみて<多くの国が金融緩和を強める中、通貨安競争が世界経済を不安定にするリスク要因になっている>と指摘していますが、まさにその通りでこのままいけば、現在の緩和ラッシュはとどめが効かくなって世界経済に大混乱を引き起こす可能性があるのです。多くの国が金融緩和を行う動機は常に単純、明らかです。利下げあるいは量的緩和を行って、通貨の発行量を増やして、その結果として自国の通貨安を演出して、結果的に輸出増加につなげて自国の経済を回復させるという構図です。ところがこの構図が明らかで世界中の各国がこの政策をとると、まさに通貨安戦争を引き起こすだけとなって勝者なき不毛の争いと発展していくのです。それは歴史が証明しています。まさに意図的に自国通貨を減価させて近隣諸国を犠牲にして輸出拡大と輸入減少を目論む通貨安競争は結局のところ<ゼロサムゲーム>なのです。皆が同じく金融緩和を行って自国通貨を安くすれば、一時的に弱くなった通貨は短期的には恩恵をもたらすでしょうが、皆が同じことをすることによって結局効果は減少して為替相場の変動率を高めるだけの結果になるのです。

自国の通貨を安く誘導しなければならない

 ところが各国の事情を考えるとどうしても自国の通貨を安く誘導しなければならない切実な背景があるのです。例えばデンマークやスウェーデン、スイスなど欧州で自国通貨を有しているこれらの国は通貨安に誘導しなければ自国の経済が破壊されてしまいます。これらの国は当然欧州に位置していますので、その経済的なつながりがユーロ圏各国と深く結びついているわけです。これらの国はユーロを唯一の通貨として使用しているユーロ圏各国との交流で経済活動を行っているわけですから、どうしてもユーロの相場動向に自国の経済が左右されるのはやむを得ないことです。スイスにしてもデンマークにしてもスウェーデンにしてもECBが量的緩和を断行して通貨安を目論み、その目論見通りユーロ相場が大きく下がってきた現状を見れば、そのユーロ安に自国の通貨がある程度連動して動いていかなければ自国の通貨だけが高くなってしまい、自国の産業は通貨高で窒息してしまいます。ですからどうしても欧州で自らの通貨発行権を有しているこれら比較的小国としては、この局面ではユーロ安という環境の変化に対応するしか生き残りの道はないわけで、自国の通貨安を目指して金融緩和を絶え間なく断行するのは当然のことと言えるでしょう。デンマークが10日間で3回も利下げしてマイナス金利にまで誘導させるのもそれ以外に有効な手段を有していないからです。スウェーデンが発表した電撃的な量的緩和政策やマイナス金利政策実施も同じことです。

 またオーストラリアやカナダ、ノルウェー、チリやペルーなど資源国が金利を引き下げるのも当然でしょう。例えばオーストラリアなども中国に深く経済を依存していて、中国の経済減速の影響は深刻です。更に最近の原油安から生じた世界的な資源価格の下落の影響を大きく受けていますから、どうしても今までのような順調な経済成長というわけにはいきません。となれば景気失速を回避するために金利引き下げを行うのは当然のことでしょう。ですからこれら資源に経済を深く依存してきた国が金融緩和をここにきて積極的に行うのは当たり前の政策なのです。

 また一方中国やインドやトルコやエジプトなどをみると、これは原油安の恩恵を受けて今までのインフレ状況からインフレ率が劇的に下がっているわけですから、この機会に金利を引き下げて経済を刺激する政策をとるというのも極めて自然なことなのです。

 こうみていくと各々の金融緩和政策は何処も当然の政策を行っているに過ぎません。経済の大きな変化がここにきて世界的に起きてきて、それに対応しているだけです。やはりECBが量的緩和を行ったことや昨今の原油安、それに伴ったインフレ率の急低下いう世界経済を取り巻く大きな変化が世界各国の政策に影響を与えてきたと言えるでしょう。

 それにしても世界中の金融緩和の勢いが止まりません。BOA(バンク・オブ・アメリカ)によるとリーマンショック後世界では既に540回の利下げが行われてきたというのです。そして今後も量的緩和やマイナス金利のような非伝統的な政策が更に広く行われていくのは必至の情勢です。IMFは世界経済の成長率見通しを大きく下方修正しました。先日のG20でもラガルド専務理事は<ユーロ圏と日本が低成長と低インフレというトワイライトゾーンから脱却できなくなる>と懸念を表明しています。もちろん中国や新興国も景気減速は必至とみられているのです。米国を除いて世界各国が景気減速していくというのは今や常識的な見方です。このような状態で現在の世界の金融緩和ラッシュが止められるはずがないのです。緩和戦争がますますヒートするのは必至の情勢なのです。

金利のない世界が世界中に広がっていく

 そうなればどうなっていくでしょう? 金融を異常に緩和するということは日本のケースを考えれば簡単にわかります。まず量的緩和など中央銀行の政策によって金利が異常に低下するわけです。日本の場合長期金利いわゆる10年物国債の金利が0.2%割れまでいき限りなく0%に近づいていったわけですが、このような金利のない世界が世界中に広がっていくわけです。既に長期金利でみる限り日本よりドイツの方が低金利となっています。ドイツでは6年物国債までマイナス金利となってきました。長期金利、いわゆる10年物国債は金利がわずか0.3%ぎりぎりの水準です。この長期金利も時間の問題でマイナス圏に突入するという見方が増えてきています。というのもドイツでは財政が健全化していますから新規の国債の発行をする必要がなく、国債の発行量が増えていかないわけです。そうなれば国債は満期が来れば償還となりますから流通するドイツ国債の量が時間と共に減少していきます、しかしECBは量的緩和政策を実施していきますのでドイツ国債を大量に買い続けるしかありません。となれば、この段階でこれだけ低金利となってきたドイツ国債が更に買われて長期金利、10年物国債までマイナス金利に突入するのも当然の帰結でしょう。スイスでは世界に先駆けてこの長期金利、10年物国債がマイナス金利となっています。

またこのようなマイナス金利が庶民にも恩恵をもたらすケースも出てきました。驚くべきことですがデンマークでは住宅ローン金利がマイナス金利となりました。住宅を建てるために資金を借りると利子がもらえるのです。

 今やこのような低金利、ないしは例外的と思われてきたマイナス金利が世界を見渡して極めて一般的になりつつあるのです。世界の国債市場では利回りが1%以下の国債が全体の5割を超えているのです。先進国だけに限ると発行された国債の4分の1がマイナス金利です。因みにスイスでは発行された国債の7割、ドイツでは6割までもがマイナス金利で取引されています。まさに安全とみられている世界各国の国債では利回りが低すぎて金利を取ることができないのです。オーストラリア準備銀行によればマイナス金利で取引されている国債は世界を見渡して約900兆円に上っているというのです。かような情勢が世界景気の減速と各国の金融緩和ラッシュによってとどまることなく、更に加速されていくわけです。

 となればどうでしょうか? そんな状況で株式市場が下がると思いますか? あり得ないでしょう! 株式市場が更にどんどん上昇するしかないではないですか! 世界中で株が上昇していますが、当然のことで当たり前のことが自然に起きているに過ぎません。

 世界を見渡してみてください! FRBが金利を引き上げるから株式市場が波乱に突入するだって? そんなことがあるものか! FRBが市場に大量にばら撒かれたドルを回収するのですか? 全く回収しないのですよ。その上、この世界中の争ったような金融緩和ラッシュを見てください、この動きが簡単にとまるわけがないのです。FRBがドルを回収するわけでなく、その上に世界中の中央銀行がわれ先にと金融緩和を争って行っていて、ドルでなくても他通貨が山のようにばら撒かれてくるわけです。新しく発行されるマネーは世界各国の中央銀行から洪水のように流れ続けるのです。株式市場は下がりようがないでしょう、上がるだけですよ! 

 欧州株は7年ぶりの高値となってきました。ギリシア情勢やウクライナ情勢などどこ吹く風とばかり高値を更新してきているのです。株はインフレに強い、ユーロを大量に発行して通貨安に誘導しているわけですから株式市場はマネーが増加した部分のインフレ分(ユーロ安になった分)を捉えて上昇していくのも当然の帰結なのです。たとえ企業業績など良くならなくても通貨が安くなった分だけ上昇して当然です。ですから欧州の株式市場はユーロ安と比例するかのごとく上昇しているのです。日本だって同じです、アベノミクスが実行されてから円相場いくら下がったか、80円から120円まで5割も下がったのです。円を怒涛のように印刷しているからです。その分日本人の資産がドルベースでみれば、円相場が下がっているわけですから実質目減りしているのです。これを読んでいるあなたの現金はドルという世界共通の価値でみれば5割減っているではありませんか! 海外に旅行すればすぐにわかることです。日本の株式市場はアベノミクスが行われて倍になりました、しかしこれは上がったというよりも単に資産価値が担保されたに過ぎないとも言えるのです。要は日本では株を保有している人だけがその資産を減らさずに済んだということです。マネーを異常に印刷し続けているのですから当然のことです。そしてそれが日本だけでなく世界中のトレンドになっているのですから当然のごとく株だけは上昇し続けているのです。

だから<株、株、株>

 だから<株、株、株>なのです。景気減速は簡単には収まりません。原油安を見ればわかるように商品相場も簡単に回復しないでしょう。その中で金融緩和だけは世界の潮流として更に大胆に推し進められていくのです。世界中のマネーマシンは休むことなく世界中のあらゆる国で輪転機がフル活動し続けるのです。そしてその資金は債券と株という金融市場にしか行きようがないのです。その一方の債券市場、国債の市場が既にマイナス金利にまで突入して限界点に達しているのです。溢れ出るマネーの行き先は何処ですか? もはや株式市場しかないでしょう。世界経済の不均衡はどのような形で現れるのか、格差はピケティーの言うように拡大していくことでしょう。そしてどう考えても株式市場の上昇は止まりようがないのです。