年初から株式市場が大荒れです。日本株は年初から6日連続安となって1949年東証が再開して以来のことという驚くべき始まりとなったのです。日経平均はこの間1800円、率にして9%強下げてしましました。一方ニューヨークダウも年初から記録的な下げとなっています。1週間で1000ドル以上下げるというこれも驚くべき出足となったのです。日米だけでなく世界中で株価が下げています。<1年の計は元旦にあり>、と言いますが、かように世界的に株価が軒並み大きく下落して始まったということは今年の世界的な波乱の到来を予感しているかもしれません。

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中国の経済減速が原因?

 様々な原因が語られていますが、多くの問題が複合的に絡み合って年初にいっぺんに噴き出してきた模様です。昨年から懸念されていた世界を覆う問題の収まりがつかなくなってきたかのようです。一つは中国の経済の減速です、中国経済が高成長から中低成長になっていくというのは当然ですが、昨年の春から夏にかけての株価の急落、そしてそれを中国当局が人為的に止めてきた矛盾が年初から上海市場の暴落として一気に表面化してきました。また中国の経済減速は商品価格の下落を引き起こしそれが原油をはじめとする資源価格の著しい低下を引き起こし、産油国をはじめとする新興国経済を直撃したわけです。サウジアラビアは年明け早々にイランとの対立が激化、国交断絶となりました。昨年末米国金利が引き上げられたわけですが、恐れていたその影響が中国や新興国、産油国などからの資金流出に繋がっています。またそれらの国の通貨安、そして世界的な株安の連鎖という風に広がってきたのです。

 中でも中国の実情は目を覆うようなことになってきました。株価と人民元が下げ止まらなくなってきて当局が事態をコントロールすることができていないのです。場当たり的な対応を繰り返すばかりで中国の当局者は当事者能力を失っています。そしてそのぶざまな姿が世界中の目に晒されているのです。

中国の上海市場は年初最初の取引から暴落していまいました。取引が始まっていきなり7%下げてサーキットブレーカーが発動され、取引の初日から全面的に売買が停止されるという前代未聞の始まりとなりました。7%の下げとなると日経平均に換算すると1300円近い下げですからその大きさがわかるというものです。中国では株価の短期的な大きな変動を阻止しようと今年から始まったこのサーキットブレーカーの制度ですが、おそまつ極まりない中国政策当局の無能さを天下に晒すこととなったのです。サーキットブレーカーという制度は投資家の頭を冷やして動揺を抑えるために大きく相場が動いたときに一時的に取引を中断する制度ですが、中国では逆に投資家の心理を恐怖に陥れる結果となってしまいました。日米欧などの先進国でもこのサーキットブレーカー制度は整備されていますが、実際はほとんど発動されたことがありません。中国では5%下がったら15分間の売買停止、そしてその後7%まで下げが拡大したらその日の売買は全面停止という制度を作ったわけです。ところが多くの個人投資家はサーキットブレーカーという制度を知らず、理解していませんでした。5%下がったところで売買が停止されて動揺した投資家は一気に売り急ぎ、あっという間に7%の下げとなって取引することができなくなりました。株を売りたかった投資家は売ることもできずに狼狽、パニック状態となったのです。下げれば下がるほど投資家は売れなくなってしまうという恐怖感を覚えるようになって売り急ぐようになりました、こうして余計に下げが加速して売買停止が早まるという悪循環です。

7日の取引は特に酷く、9時30分から始まったものの売りが殺到、わずか12分で5%安となってサーキットブレーカーが発動されました。当然投資家はパニック状態です。その後規定により取引は15分間の停止となり、再開すると今度はわずか1分で7%安まで売られる羽目となりその日の取引は全面停止となったのです。1日の取引時間わずか13分という酷さでした。投資家は売るべきタイミングも瞬間もなくただ茫然と立ちすくんでしまったのです。こうしてサーキットブレーカーは今年上海市場で適用されてから4日、7日の2日間の取引で4回も発動されました。この2日間における取引の総時間は155分間、約2時間半程度ですが、その間、上海市場は大暴落、時価総額は53兆元から46兆元へと大きく減少したのです。こうしてわずか155分に渡る取引で上海市場の時価総額は日本円に換算して約120兆円も失われたのです。この後中国当局はサーキットブレーカー制度の廃止を宣言しました。

昨年6月からの暴落時、中国当局は国家を挙げて株価を買い支えました。政府系ファンドなど<国家隊>と呼ばれるファンドや証券会社が国の要請に応えて膨大な額を投下して株を買い支えたのです。その額は50兆円とも100兆円とも言われています。それらの買い支えた機関は今やその買い支えた株の暴落で財務状況は火の車でしょうが何処の倒産話も聞きません。このような中国の暗部は一切封印されて表に報道されることはありません。客観的にみても、単純に起こったことを追っていっても中国の金融の深層部で恐ろしいことが起こっていることは簡単に想像できるのです。

一連の稚拙な政策運用で中国当局は膨大な損失を被っていることは疑いないでしょう。更に当局は株式市場だけでなく人民銀行を使って通貨である人民元を必死に買い支えています。これもイタチごっこのように当局がいくら買い支えても油断するとあっという間に元相場が下がってしまうのです。株価も当局が買い支えたときだけが高くなるという有様ですし、人民元も当局が介入した時だけは高くなっているわけです。これら株買い支えと為替介入の資金は大きな損失の山で、その損失額はとても100兆円では済まないでしょう。一時は中国株の時価総額は日本株の時価総額の倍になったのですが、昨今では日本株の時価総額に抜かれるとみられています。中国株の失われた時価総額は軽く600兆円を超えています。この損失は誰が背負ったのでしょうか。

人民元が世界に大きく流通

中国は人民元の国際化を進めてきたわけですが、それは人民元が世界に大きく流通したということでもあります。流通量が大きくなればなるほど人民元の値段を中国当局がコントロールすることが難しくなるのは自明の理です。中国は国家戦略として2009年から人民元建ての貿易取引を推し進め2011年には人民元建ての対内対外投資も認めてきました。中国の貿易の活発化で人民元の需要は高まり国境を超える人民元の取引は急速に拡大していったのです。基本的に中国は人民元をドルと並ぶ国際通貨にしようと目論んでいますから人民元の流通が徐々に世界に広がっていくことは思惑通りだったと思われます。しかしながら人民元が広く流通するようになれば、当然人民元を他の通貨に変えようとするニーズも高まってきます。中国国内では貿易取引に使う以外は人民元の外貨への転換は基本的に禁止されています(少額は認められている)。しかし国外の市場では自由に取引されています、この中国本土外での人民元の取引をオフショア市場と言います。主に香港やロンドン、シンガポールなどで行われています。そして人民元が広く使われるのに伴ってこのオフショア市場の取引も急拡大しました。2013年時点では中国国内の市場と国外の市場(オフショア)において1日平均で1130億ドル(約13.3兆円)の為替取引がなされるようになったのです。この額は2010年に比べて3.3倍となってきたのです。明らかに人民元の流通が急速に増えて為替取引が活発化してきたかがわかります。こうなると中国当局が人民元を自由にコントロールできなくなってくるのも当然のことなのです。そこに中国経済の減速と共に米国金利の引き上げというドル高人民元安の流れが到来してきました。

ところが中国当局は人民元が安くなるのを必要以上に恐れているのです。それは中国企業の持つ借入金が膨大なため、人民元が安くなることで資本流出が加速したり、借り入れた資金の返済額が人民元安によって大きく拡大することを深刻に捉えているからです。今まで中国企業はゼロ金利で借りられるドルで融資してもらい、高金利のつく人民元で運用することで利息を大いに稼ぐことができたわけです。いわゆるこのキャリートレイドも米国の金利上昇の始まりで逆流し始めました。人民元からドルへの資金回帰です。一方、人民元の先安観がはっきりしてくると共産党幹部や富裕な経営者層から海外への資金の逃避が争って起こるようになってきたのです。

一連の流れが始まるとあの手この手で行われる中国からの大規模な資本流出を止めることが難しくなってきました。中国当局はこのような資本流出を止めようと必死で人民元の対ドル相場を維持しようと努めてきたのです。目には見えませんがその奮闘ぶりは驚愕するほどです。その度合いが如何に強烈かは外貨準備の驚くべき急激な減少という形で現れています。中国が人民元の価値を保とうと為替介入すれば、結局、ドルを売って人民元を購入することになるわけですから手持ちのドルが減っていきます。それが外貨準備の減少となって現れてくるのです。

その外貨準備ですが中国は世界一の外貨準備を持つ国として知られてきました。日本の外貨準備は1.27兆ドル(約150兆円)ですが中国の外貨準備は減ったとはいえ3.3兆ドル(約392兆円)もあり、未だに日本の3倍もの外貨準備を持っているのです。これが従来は中国の国力の源泉とみられてきたのです。

ところがこの外貨準備が人民元を維持するための為替介入で驚くほどのスピードで減り始めてきたのです。既に中国の外貨準備は2014年6月の最高時3兆8430億ドル(約453兆円)に比べて2015年末は5127億ドル(約60兆円)も減って3兆3303億ドル(約392兆円)となり1年半足らずで17%も減少したのです。しかも昨年12月は1ヶ月だけで1079億ドル(約12兆7000億円)も外貨準備を減らすという過去最高の減少額を記録しました。明らかに外貨準備の減少に加速がついてきたわけです。それだけ当局が血眼になって為替介入を行って元相場の維持に必死になっている姿が見えるわけです。

それでも一般的に考えれば中国の外貨準備は豊富でまだ3.3兆ドル、日本円にして392兆円近くあるわけだから心配はいらない、という風にも思えます。ところが中国の外貨準備は実は<張り子のトラ>であり風前の灯であるという見方が増えてきているのです。

ブラックボックスな中国の外貨準備の内訳

というのは中国の外貨準備の内訳がブラックボックスで全く実情が明らかでないからです。中国は日本の3倍近い外貨準備を持ちながら、米国債の保有額はほぼ日本と一緒です。日本の場合は外貨準備のほとんどは米国債で運用されていますし、普通外貨準備はドルで保有することが多いので米国債で保有しているのは一般的です。ところが中国は日本の3倍もの外貨準備も持ちながら米国債の保有額は日本と同じ程度なのです。では残りの外貨準備は何処に行ってしまったのでしょうか? 外貨準備ですからその内訳のほとんどはドルと思われますが、そのドルを米国債で運用していないで、何に使っているのでしょうか? これがさっぱりわからないのが中国なのです。一部の見方ではそのドルはアフリカやベネズエラなど新興国の投資に使われてきたと言われています。となると昨今の資源ブームの崩壊や原油安などでその外貨準備は大きく毀損している可能性があります。また一部の資金は中国の政府系ファンドに運用されていると言われています。となると最近中国は政府系ファンドを使って自国の株式市場を大量に買い支えてきましたからこれも焦げ付いているはずです。いずれにしても中国の外貨準備の大半は米国で運用されていないわけです。米国に投資していないということは裏返せば新興国や資源国に投資しているということであり、一説では中国の外貨準備は公表されているほどの額でなく、完全に水増しされていて流動性もほとんどない資産が大半だろうというのです。そしてその投資は焦げ付いていて資源国などの開発で100兆円に上る損失を抱えている可能性が高いというのです。

確かに米国債の持ち分を除く想定される中国の外貨準備高約260兆円分は使途不明でさっぱり行き先がわからないというのが実情です。本当に豊富な資金を有しているなら為替介入時に米国債など売る必要もないはずです。それにもかかわらず米国債の売却も含めて急速に中国の外貨準備が減少しているという事実は中国の表に出せない苦境があるからでしょう。

中国当局は為替も介入、株式市場にも介入を続けながら一向に為替も株も下げ止めることができていません。ギリシアは2009年にいきなり粉飾が発覚して世界をあきれさせました。この一件から世界のギリシアに対しての見方が変わりました。中国の理財商品、不良債権、人民銀行の財務、全てブラックボックスです。一連の中に隠された真実が表に出てきたとき、世界は余りの杜撰な内容に腰を抜かすかもしれません。都合の悪いことは全て封印して情報操作を行う、それが中国共産党のやり方です。封印できるうちはいいですが、株も為替も中国に対しては疑惑の波が広がってきています。年初暴落した上海市場は今年の中国の行方を暗示したのかもしれません。上海市場はついに節目の3000ポイントを維持できず昨年の安値を割れてきました。膨大に投入された株買い支えの基金は新たな不良債権となって市場を押しつぶすことでしょう。中国市場が再び高くなることはありません、そして中国では今後何が起こるかわかりません、重大な警戒心を持って対応すべきでしょう。

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