<この偽ニュース野郎!>トランプ大統領は記者に激しく反発しました。8月15日のトランプタワーでの記者会見は大荒れになったのです。米国における社会資本の拡大について様々なインフラ投資の計画を発表する場であったはずの記者会見は、例によってトランプ大統領と記者とのののしり合いになったのです。というのも記者側からはインフラ投資に関しての質問はほとんどなく、質問はバージニア州シャーロッツビルで起こった極右団体と左派の衝突事件に関してのものばかりだったのです。トランプ大統領の<両方の側に責任がある>との言質に対して記者側はトランプ大統領を<極右側の肩を持つのか?>と激しく攻め立てたわけです。たまらずトランプ大統領は暴言を吐いた形となりました。

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トランプ大統領の発言がレッドラインを超えてしまった

 米国社会は人種のるつぼで人種差別発言は絶対的なタブーです。ましてや時代遅れの白人至上主義の秘密結社であるクー・クラックス・クラン(KKR)など極右団体は社会的に許容されていません。その団体に対して同情的な態度を見せたトランプ大統領は米国社会における虎の尾を踏んでしまったようです。ついにトランプ大統領の発言がレッドラインを超えてしまったということです。これによってトランプ大統領と協調しようとしていた人達や機関が一斉にトランプ離れを起こしてきたのです。そしてこの流れは止めようがない大きな潮流になっていきそうです。

 歴代の米国大統領は様々なタイプがありましたが、トランプ大統領が異質なことは最初から誰もがわかっていました。しかしそのトランプ大統領も大統領になった以上は、米国の大統領としての政策を遂行していくと思われていました。ところがトランプ大統領は何一つ政策を実行することができていません。大統領権限でできる通商問題ではまずTPPからの離脱、そして環境問題で世界的な合意形成となったパリ協定からも離脱しました。TPPに関して言えば日本をはじめ環太平洋を取り巻く国々が長い時間をかけて作り上げてきた協定をご破算にしたわけですし、パリ協定からの離脱も世界中から反発をくらっています。いわばトランプ大統領は各国で築き上げた努力の賜物を壊すだけ壊した形です。

 それでもトランプ大統領が指摘してきたように、インフラ投資とか減税とか、本国投資法で米国企業が海外でため込んだ利益を米国に戻す場合に大きな減税を行うなどの、米国にとっての有効な経済対策を行うのではないか、と期待されていました。ところがそのような法案は何一つ通すことができていないのです。トランプ大統領はいたずらに議会との対立を深め、支持母体である共和党すらまとめることができません。

 また驚くべきは政府の主要なスタッフは未だに決まっていないという事実です。トランプ政権の高官人事ですが、政権発足から半年たった現在でも閣僚や政府高官210ポストのうちわずか33ポストしか決まっていないのです。15省庁のうち10省庁では副長官が任命されていません。特に酷いのが国務省、日本で言うと外務省に当たりますが、幹部ポスト26ポストのうち24ポストが決まっていません。各国の大使などほとんど決まっていないのです。こんなことが他の国であるでしょうか? これでは外交になるわけもありません。というのもこれら幹部人事の人選において過去にトランプ氏を批判した人物を候補から外したために適任者がみつからないのです。共和党関係の多くの専門家はかつてトランプ氏を非難していました。そのため適当な人材を見つけることができないのです。それだけでなく、多くの専門家はトランプ政権の先は長くないと感じています。ですからトランプ政権で主要なポストに就くのは得策でないと考えているようです。これでは政府が機能しないのも当然でしょう。

トランプ政権とは離れた方が得策という見方

 そして今回この人種差別発言で多くの経済人がトランプ政権から離れていくようになりました。どちらかというと経済界も今までは無理してトランプ大統領と付き合っていたわけですが、今回の人種差別事件をきっかけにして、トランプ政権とは離れた方が得策という見方が働いてきたようです。人種差別的な発言を行うトランプ氏を非難しなければ企業サイドでは自らの企業に不買運動や企業内の人種問題などマイナス材料が噴出する可能性が高いわけです。まさにトランプ氏に物を言わず、沈黙を守ることは企業側としては却ってリスクになってきたわけです。

 ここまでトランプ政権は迷走を続け、2月にはフリン大統領補佐官、5月にはコミーFBI長官、そして7月にはスパイサー大統領補佐官、プリーバス大統領首席補佐官、そしてスクラムチ広報部長と相次いで更迭してきました。スクラムチ広報部長などは彼の指名に抗議してスパーサー氏とプリーバス氏が辞任したにもかかわらず、そのスクラムチ氏はわずか2週間で更迭となるなど、トランプ政権の場当たり的な人事は政権の体を成していません。そして今回の人種差別発言の後始末として、今度は政権を陰で操っていたと言われる極右のバノン大統領首席戦略官・上級顧問も更迭したのです。政権の主要人事は次から次へと入れ替わり、政府の高官は決まらず、政策は何一つ実行できていません。かような無能な政権がかつてあったのでしょうか? ついにトランプ大統領を支持してきた協力的な議員までも反旗を翻すようになってきました。選挙中からトランプ氏を応援してきたコーカー上院議員までも<大統領は能力と安定性が不足>とトランプ氏を無能呼ばわりする始末です。

 トランプ政権は国際的には米国の影響力を著しくおとしめました。そして国内的にはますます孤立を深めています。もはやトランプ大統領はその任期を全うできない可能性の方が高まってきたと言えるでしょう。ロシアゲート事件の捜査は着々と進んでいるようです。特にトランプ氏の元選挙対策会長だったマナフォート氏の自宅が家宅捜査されたことはトランプ大統領にとって大きな衝撃だったと思われます。マナフォート氏はプーチン大統領と親しいロシアの富豪から年1千万ドル(約10億9000万円)の顧問契約を結んで、金銭の見返りにロシア政府に便宜を図ってきた疑いがもたれています。米情報局が傍受したロシア当局者の会話でマナフォート氏をロシア側は協力者と呼んで、トランプ氏への懐柔策を議論していたということです。トランプ氏自体も自らの不動産関連の投資で何回も失敗していますが、ロシア側からの資金が出ていた噂も絶えません。

 そもそも大統領選挙中にトランプ陣営とロシア側が秘密裏で会っていたことは大問題です。普通はロシア側と接触していても電話で済ませていれば問題はないわけです、というのも米国においてはロシア側との電話は全て盗聴されているわけです。ですから電話だけの接触であれば盗聴されているのがわかりきっているので全く問題はないわけです。ロシア側と会う、会って秘密裏で話をするというのは通常、聞かれたくない何かがあるわけで、実際、トランプ陣営側とロシア側が何度も接触を繰り返してきたということは、それ自体極めて怪しいわけです。通常はロシア側が真実をばらすことはないので、この場合密室の会話ということで犯罪性の証明は難しいのですが、今回マナフォード氏やフリン氏などロシア側から金銭が流れていることが疑われる事案が出てきていますので、捜査が大きく進展する可能性も高いのです。ロシア疑惑を捜査しているモラー特別検察官はマナフォート氏を追及して処分の軽減と引き換えにトランプ陣営の関係者の訴訟に繋がる証言を引き出す司法取引を目指している可能性があります。このフリン氏とマナフォード氏は今回のトランプ大統領のロシア疑惑では証拠を握るキーとなる重要人物です。彼らがモラー特別補佐官から厳しく追及されて隠されていた真実を暴露する可能性もあります。

 こうみていくとトランプ氏は米国社会、経済界からも見放され、また共和党からも距離を置かれるようになってきています。トランプ氏のロシアに対しての異様なほどの気の使いようは何かおかしいと感じます。モラー特別検察官の捜査も更に進んで大統領弾劾に向かう可能性も否定できないでしょう。

<トランプ弾劾確率>も急上昇

 元よりトランプ大統領が大統領の任期を全うできるという見方は懐疑的だったわけですが、ここにきて市場の見る<トランプ弾劾確率>も急上昇してきました。8月16日現在、トランプ弾劾確率は65%にまで上昇しています。トランプ大統領は益々孤立を深めています、そして多くの関係者がトランプ政権から離れ始めています。市場は内心ではトランプ大統領の弾劾を期待し始めたようです。というのも市場関係者はトランプ大統領の弾劾となれば、ペンス副大統領の昇格となり、それは好感することは間違いありません。トランプ大統領の弾劾はもはや市場にとっては望むところになってきたようです。

 一方、目の前に迫ったトランプ政権の課題は9月末に期限が来る米国政府の債務上限引き上げ問題を片づけられるかということです。米国のデフォルト(債務不履行)が懸念されるわけですが、実質的にデフォルトするわけもなく、極めてテクニカル的な問題なので混乱が生じても一時的でしょうが、何しろトランプ政権は議会と協調することができません。8月22日の集会でトランプ大統領は<政府を閉じなくてはいけなくなっても、メキシコとの壁は建設する>と公約であった壁建設の予算獲得に執念を燃やしています。本来は物事をまとめるべき立場である大統領が政府の閉鎖をほのめかして議会を脅して我を通そうという行動は常軌を逸しています。ライアン下院議長は<誰も政府閉鎖を望んでいない>とトランプ大統領への反発を強めていますし、このような反発は共和党議員全体の声でもあるでしょう。

 このような中、米国南部テキサス州ではハリケーン<ハービー>に襲われ甚大な被害が生じています。全米の15%に当たる製油所が被害を受け、稼働停止、ガソリン価格が急騰し始めました。避難者は3万人以上、被災者は45万人に上る見通しで、被害総額は最大10兆円に上るとみられています。また<ハービー>の再上陸によって更に被害が拡大することも懸念される深刻な情勢です。日本でも近年集中豪雨による未曽有の被害が頻発していますが、これは世界的な傾向で収まりようもありません。

ムニューシン米財務長官は昨日CNBCでのインタビューに答えて、今回の<ハービー>の影響によって債務上限問題引き上げの期限が前倒しになる可能性があるとの見解を示しています。もしトランプ大統領に打つ手があるとすれば、この未曽有の災害を自らの政策変更の理由とすることです。トランプ大統領として今回の災害によって現状が<非常事態であること>を強調し、まずは復興を最優先すべきで、自らの公約であるメキシコの壁建設の予算の先送りを許容することです。また均衡財政重視の共和党右派に対しても事情が事情だけに米国政府の債務上限額を大きく引き上げて、大規模な復興予算を緊急に策定することを提案することが肝要でしょう。戦争やテロなどの危機とか大規模な自然災害が起こると、国内で政争などしていられないということとなり、政治的には政策的な一致が容易になります。こうして危機の勃発は時の政権の力を強くすることがあります。当面のトランプ大統領の出方も注目されるところです。

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